天国行きを願う女(脚本)
〇古びた神社
暁月寺(あきづきでら)──
ここには様々な願いを持った
参拝者がやってくる
参拝者A「ああ神様、どうかおじいさんのところへ」
参拝者A「地獄へは行きませんように・・・」
〇白
「なに?」
〇古びた神社
参拝者A「私はあと数年の余命です・・・」
参拝者A「ですので、おじいさんのいない 天国に行かせてください・・・」
暁鈴「おい、ば様」
参拝者A「はい・・・?」
暁鈴「地獄へ行きたくないとは」
暁鈴「地獄がどんなところか知っているのか?」
参拝者A「そりゃあ・・・鬼に痛めつけられて」
参拝者A「へまをしたら舌を引っ張られるんでしょ」
暁鈴「・・・生ぬるい」
暁鈴「そうだなぁ」
暁鈴「控えめに言うと、」
暁鈴「鬼に痛めつけられて即骨折」
暁鈴「へまをすれば舌を引き千切られ 正座されたまま重しを乗せられるだろう」
参拝者A「えええっ」
暁鈴「酷ければ、刻印を入れられる」
暁鈴「かもな」
参拝者A「そそっそれは大変だわっ!」
参拝者A「神様、どうかお願いですっ」
参拝者A「おじいさんを、」
参拝者A「おじいさんをどうか、 天国へお導きをぉぉ〜〜〜・・・っ」
暁鈴「・・・っ」
暁鈴「そうだ、おみくじの結果だが」
暁鈴「中吉、良くもあれば悪くもある」
暁鈴「が、せいぜい余命は、 数年という宣告よりも延びるやも分からぬ」
暁鈴「ラッキーアイテムは、ハンバーグ定食 だそうだ」
暁鈴「ラッキーアイテムを作ってみれば 何か良い行いがあると思うぞ」
参拝者A「ああ、ありがたや〜〜」
参拝者A「今晩はハンバーグを作りますぅはい」
暁鈴「おう」
暁鈴「・・・」
皇樹「見たで」
暁鈴「?」
皇樹「あんた、あのおばちゃんに 何吹き込んだんや」
暁鈴(ば様の知り合いか?それとも他人か?)
暁鈴(どちらにせよ、賽銭をしない者には 語りかけない主義でな)
暁鈴(ただの問いではむやみに話さん)
皇樹「あ!」
皇樹「分かったでぇ、お前賽銭しないと 何も喋らない主義やな?」
暁鈴「・・・フン」
皇樹「ほんなら──」
皇樹「・・・・・・」
皇樹「これで話せるかぁ?」
暁鈴「・・・」
暁鈴「・・・願いは?」
皇樹「お前と、話がしたい」
暁鈴「はあ?」
暁鈴「それだけの願いなら、0秒で叶ったな」
暁鈴「つまらぬ奴め」
皇樹「なあなあ、あのおばちゃんに なんでハンバーグ定食ゆーたんや?」
暁鈴「おちょくっておるのか?“貴様”」
皇樹「わああっそんな怒らんでも・・・」
皇樹「頼むで〜えっと・・・」
暁鈴「貴様に教える名は無い!」
皇樹「んじゃ“ぎょうり”って呼ぶわ」
皇樹「暁に、鈴を鳴らしたら出てきたしな」
皇樹「ああちなみに俺は皇樹や」
暁鈴(・・・聞いてないが)
暁鈴(チッ・・・)
何はともあれ、この男には帰ってもらった
〇ベージュ
今日の参拝者宅では、一人暮らしだが
ハンバーグを2人分作ってしまった
参拝者A「作りすぎたねぇ」
参拝者A「ふふっそういえば」
参拝者A「おじいさん、ハンバーグなのに からしを付けて食べる人だったわ」
参拝者A「ソースかケチャップって2択を 嫌がる偏食ぶりだったのを思い出した」
参拝者A「そっかぁ」
参拝者A「ハンバーグなんて、おじいさんが 亡くなってから、はじめて作ったねぇ」
参拝者A「わたしを一人にしない、なんて言ってたのに先立たれて・・・」
参拝者A「嘘つかれたんで、恨もうって思ってたのに」
参拝者A「思い出に残るもんだねえ」
参拝者A「楽しい日々があったことさえ 忘れていたよ」
参拝者A「明日も残りのハンバーグを食べようかね」
参拝者A「ねえ、おじいさん」
願望者は、仏壇に飾ってある夫の写真に
そう語りかけた──
暁鈴「ふふっ」
暁鈴「今宵もラッキーアイテムが役立ったな」
暁鈴「・・・」
暁鈴「あやつにも、学習がてら 見せてやってもいいかもしれぬな」
暁鈴様の不遜っぷり、可愛いですね!
ラッキーアイテムがハンバーグ定食!? と朝の占いばりの突拍子ない内容に驚きましたが……何てステキなラスト!