あやかしの國へ

よつば 綴

あやかしの國へ(脚本)

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〇古いアパートの部屋
  今日もママは帰ってこない。
  昨日はお弁当だけ置いて、
  すぐに出ていった。
  久しぶりのご飯、
  すごく美味しかった。
  一昨日、電気がつかなくなったから、
  チンが使えなくて冷たいままだったけど、
  それでも美味しかった。
  今度はいつママが帰ってくれるかな。
  今度はいつご飯食べれるのかな。
影女「アンタはここを出ようと思わないのかい?」
ちー「だれ!?」
影女「私は人ならざるもの ずっとアンタを見ていたんだよ」
ちー「どこにいるの?」
影女「ここだよ」
  月明かりを背にカーテンの向こうから現れたのは、
  とても背の高い女だった。
ちー「アナタだれ?」
影女「私は影女」
影女「いつからだろうねぇ······ お前を見てたんだよ よく大きくなれたもんだねぇ」
ちー「······アナタはおばけなの?」
影女「そうさねぇ、アンタとは違うねぇ」
ちー「どうしてここにいるの?」
影女「あの女がねぇ、アンタの母親がねぇ、」
影女「もう帰って来ないからだよ」
ちー「え····?」
影女「あの女はね、アンタを捨てたのさ もうここには帰らないよ」
ちー「なんでそんな事言うの!? ママは帰ってくるよ! また帰ってくるもん!」
影女「アンタ、名前は?」
ちー「······ちー」
影女「本当の名は?」
ちー「······知らない」
影女「アンタねぇ······ 自分の名前も知らないんだね 何でだろうねぇ」
ちー「だって、だって···· ママはいつもちーの事ちーって呼んでたもん」
影女「そうだねぇ、アンタはちーとしか呼ばれなかったんだよねぇ」
  ちーの母親は産み落とした赤子に何の執着も愛情もなかった。
  運良く生き延びている我が子を、時折思い出し世話をした。
  赤子が五歳になる頃、母親は頻繁に家を開けるようになった。
  数日に一度帰り、弁当だけ置くと再び出かけてしまう。
  影女はいつからか、ちーを見ていた。
  健気に母親を待ち続けるちー。
  影女がまだ人間だった頃、
  待ち望んでいた赤子を亡くした。
  それ故に妖となった身でありながら、
  見るに耐えない子に声をかけてしまう。
  幼い子というものは視えてしまう子が多く、
  時々こうなってしまう。
  そして影女は可哀想な子を攫っていく。
  あやかしの國で幸せを見つけられるように。
影女「私と来るかい? 独りぼっちにはしないからさぁ」
ちー「····本当にママは帰ってこないの? どうして?」
影女「アンタより男といる方が、あの女は幸せなんだってさ」
影女「こんなに可愛い子がいるってのにねぇ······」
ちー「ちー、可愛いの? 可愛いって何?」
影女「アンタみたいな子を可愛いって言うんだよ」
ちー「ママにすてられた子の事?」
影女「違うよ 抱きしめたくなるような子って事だよ」
  そう言って影女はちーを抱き抱え空へ飛んだ。
  真冬の寒空、ちーは笑顔であやかしの國へと誘われた。

コメント

  • 小さな子どもを育てる身としては、とても温まらない気持ちになりました。こんな親でも、子どもはお母さんのことが大好きなんですよね。愛情を持って、育てたいと思いました。

  • 親がいないも同然の女の子と、子を失った影女は、やはりお互いにないものねだりでひかれあってしまうのかな。悲しいけれど、2人が少しでも幸せでいられるのなら、こんなホラーもいいと思いました。

  • 気まぐれに子供に愛情をそそぐネグレクト母親、その気まぐれに縋る幼子、想像すると胸が痛くなります。この難しいテーマをノベル化されるところに感服です。

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