第1話 鬼にだってなる(脚本)
〇宮益坂
日野 寛樹「ノエミ! 予約の時間に遅れちゃうぞ」
五十鈴 乃笑「随分と嬉しそうね、ヒロキ」
日野 寛樹「そりゃそうさ。ノエミと俺がやっと二十歳になったんだ」
日野 寛樹「しかもノエミと一緒に祝えるんだから嬉しいに決ってる」
五十鈴 乃笑「まったく・・・バカ正直なんだから・・・」
日野 寛樹「ん?」
五十鈴 乃笑「なんでもない。行くわよ」
日野 寛樹「うん! 行こう!」
五十鈴 乃笑「それにしても・・・」
五十鈴 乃笑「ちょっと陽気が頑張り過ぎね・・・まだ4月だってのに」
日野 寛樹「ん・・・?」
五十鈴 乃笑「どうかした?」
日野 寛樹「いや、この天気の宮益坂にしては人がいないなって・・・」
黄瀬 克巳「人払いの術式を展開しましたので」
五十鈴 乃笑「誰?」
黄瀬 克巳「お初にお目にかかります。黄瀬と申します」
黄瀬 克巳「扶桑様に仕える陰陽師と言っておきましょう」
五十鈴 乃笑「・・・扶桑って、あの扶桑?」
黄瀬 克巳「ええ、鬼道王たる扶桑様ですよ」
黄瀬 克巳「怪綺の女王たる五十鈴乃笑嬢ならば御存知でしょう」
日野 寛樹「で、その黄瀬さんが俺たちに何の用です?」
黄瀬 克巳「二人の二十歳の誕生日だというのに、申し訳ありませんが・・・」
黄瀬 克巳「急急如律令!」
日野 寛樹「ぐはっ・・・!」
五十鈴 乃笑「ヒロキ!」
五十鈴 乃笑「ヒロキ・・・!」
日野 寛樹(なんだ今の・・・普通のパンチじゃなかった・・・)
日野 寛樹(俺は・・・俺は、死ねない・・・)
日野 寛樹(ノエミを残して・・・俺は絶対に死ねない!)
日野 寛樹「うおおぉぉ!!」
黄瀬 克巳「・・・やはり既に眷属でしたか」
黄瀬 克巳「ん? 術式も破られたようだ・・・分が悪すぎますね・・・」
黄瀬 克巳「急急如律令!」
日野 寛樹「ま、待て・・・!」
五十鈴 乃笑「ヒロキ!」
日野 寛樹「ノエミ・・・俺は・・・」
五十鈴 乃笑「大丈夫? 大丈夫なのね?」
日野 寛樹「ああ、大丈夫・・・みたいだ・・・なぜか」
五十鈴 乃笑「そう・・・良かった・・・」
柿平 篤臣「お嬢様!」
五十鈴 乃笑「柿平・・・」
柿平 篤臣「お二人と距離を取っていたのが徒となりました」
柿平 篤臣「ここは人目につきます。こちらへ」
〇テレビスタジオ
アナウンサー「こんにちは。2019年4月1日」
アナウンサー「月曜日のお昼ワイドのお時間です」
アナウンサー「発表されましたね。新元号!」
アナウンサー「「令和」という響きにも数年もすれば慣れているのでしょうか」
アナウンサー「はい。5月から令和になるという実感は未だに湧きませんが」
アナウンサー「きっと、すぐに慣れるのでしょうね」
〇車内
柿平 篤臣「残念ですが、ランチはキャンセルといたしましょう」
日野 寛樹「俺は、もう大丈夫みたいなんですが・・・」
五十鈴 乃笑「なに言ってるの。死にかけたのよ」
日野 寛樹「でも・・・」
柿平 篤臣「血の発動によって躯は治癒しているでしょうが・・・」
柿平 篤臣「少しは時間を置きましょう」
柿平 篤臣「ディナーを手配しておきます」
五十鈴 乃笑「ええ、そうしましょう」
日野 寛樹「うん・・・って、血の発動? なんですか、それは?」
柿平 篤臣「・・・」
五十鈴 乃笑「わたしが伝えるべきね」
五十鈴 乃笑「ヒロキ。わたしはね・・・吸血鬼なの」
日野 寛樹「はっ? 吸血鬼!?」
五十鈴 乃笑「そして、ヒロキは私の眷属。ヒロキも吸血鬼なの」
日野 寛樹「眷属!? ちょっと待って、理解が追いつかない」
五十鈴 乃笑「だよね・・・でも、真実なの」
日野 寛樹「そうか・・・吸血鬼・・・」
日野 寛樹「・・・それで、俺は無事だってことか」
五十鈴 乃笑「うん」
日野 寛樹「でも、いつから?」
五十鈴 乃笑「あの、交通事故の時だよ」
日野 寛樹「俺だけが助かったのは、そのおかげだったのか・・・」
五十鈴 乃笑「ええ、わたしが駆けつけたとき・・・」
五十鈴 乃笑「ご両親はすでに息を引き取られていた・・・」
五十鈴 乃笑「ヒロキも重体だった」
五十鈴 乃笑「わたしは、ヒロキに生きて欲しくて、血の交換をした」
日野 寛樹「それで、俺は助かった・・・」
日野 寛樹「じゃあ、俺が日野の家に引き取られたのと同時期に」
日野 寛樹「ノエミが五十鈴家に入ったのは、偶然じゃない?」
五十鈴 乃笑「ええ、わたしはヒロキを眷属としたことで」
五十鈴 乃笑「五十鈴家の意向を受け入れたの」
日野 寛樹「そうか、それで五十鈴の分家に当たる日野家が俺を・・・」
日野 寛樹「俺が吸血鬼になった経緯は分かったよ」
五十鈴 乃笑「大丈夫?」
日野 寛樹「ああ、受け入れるさ」
日野 寛樹「俺はノエミに命を救われたんだろ」
五十鈴 乃笑「う、うん・・・」
日野 寛樹「俺はノエミのことが好きだ」
五十鈴 乃笑「は? 急に、なに?」
日野 寛樹「ノエミの血が俺を救ってくれたんなら」
日野 寛樹「俺は、嬉しい」
五十鈴 乃笑「・・・その感情が、わたしを好きって感情が」
五十鈴 乃笑「眷属だったからとは思わない?」
日野 寛樹「それはないよ。断言できる」
日野 寛樹「俺は、あの事故の前からノエミが好きだった」
日野 寛樹「俺の好きのほうが先だよ。血の繋がりよりもね」
五十鈴 乃笑「そ、そう・・・」
日野 寛樹「まあ、ちょっとした疑問はあるけどね」
日野 寛樹「俺がずっと、普通の人間として暮らしてきたこととかさ」
五十鈴 乃笑「それは、五十鈴家に伝わる秘術で血を抑制していたから」
日野 寛樹「五十鈴家ってのは、ただの名家じゃないんだ?」
五十鈴 乃笑「ええ、五十鈴家は吸血鬼に関する一切を取り仕切る家系」
五十鈴 乃笑「真祖と呼ばれる五十鈴道明が数百年に渡り守り継いだ家系」
日野 寛樹「ノエミもその家系だったの?」
五十鈴 乃笑「ううん。わたしは遠い隔世遺伝と思われる突然変異に近い形で生まれた・・・」
五十鈴 乃笑「道明と同じ、真祖なの・・・」
日野 寛樹「それで、怪綺の女王?」
五十鈴 乃笑「うん・・・そんな呼ばれ方もしてるらしい」
日野 寛樹「そうか・・・その真祖ってのは、他にもいるの?」
五十鈴 乃笑「いないよ。日本には道明とわたしだけ」
日野 寛樹「そんな五十鈴家に対して敵対行動を取った扶桑ってのは?」
柿平 篤臣「それは、私から」
柿平 篤臣「扶桑は五十鈴家と同様に、怪奇を取り仕切る家系です」
柿平 篤臣「その歴史は五十鈴家より古く、千年以上と云われています」
柿平 篤臣「扶桑の当主である扶桑雅彦は」
柿平 篤臣「鬼道王あるいは不死賢者などと呼ばれています」
日野 寛樹「・・・その当主は、真祖と敵対できるほどの力を持っているんですか?」
柿平 篤臣「それは私にも分かりかねます」
柿平 篤臣「ただ、今までに敵対したという記録は残っていないはずです」
日野 寛樹「そうですか。では、今回の一件は・・・」
柿平 篤臣「怪奇に連なる者たちにとっては一大事」
柿平 篤臣「五十鈴家も動くことになるでしょう」
日野 寛樹「そうですか・・・分かりました」
日野 寛樹「じゃあ俺は、ノエミのそばにいます」
五十鈴 乃笑「え?」
日野 寛樹「ノエミは俺が守る」
日野 寛樹「今の俺には吸血鬼の力があるんだろ?」
五十鈴 乃笑「でも、目は赤いままだったり」
五十鈴 乃笑「定期的に血を摂取しなきゃいけなくなったりするよ」
日野 寛樹「摂取する手段はあるんだろ?」
五十鈴 乃笑「あるけど・・・いいの、本当に?」
日野 寛樹「俺がノエミを守れるなら、俺はなんだってする」
五十鈴 乃笑「ヒロキ・・・」
柿平 篤臣「かしこまりました」
柿平 篤臣「そういうことであれば、血の抑制は無しといたしましょう」
柿平 篤臣「眷属とは云え吸血鬼」
柿平 篤臣「その膂力は常人の数十倍となり、治癒能力も桁違いです」
柿平 篤臣「その代わりとして、要するカロリーは数倍」
柿平 篤臣「さらに、血の摂取も必要となります」
日野 寛樹「分かりました」
柿平 篤臣「覚悟は既に出来ておられるようですね」
日野 寛樹「はい!」
〇道玄坂
日野 寛樹「さあ、ディナーだ」
五十鈴 乃笑「本当に大丈夫なの?」
日野 寛樹「なにが?」
五十鈴 乃笑「なにが? じゃなくて身体がよ」
日野 寛樹「全然大丈夫。自分でも驚くけど、おなかペコペコだよ」
五十鈴 乃笑「そう? ならいいけど」
日野 寛樹「ん・・・この感じは・・・」
黄瀬 克巳「まさか、こうも簡単に次の機会がくるとは思いませんでした」
日野 寛樹「一つ訊きたい」
黄瀬 克巳「なんでしょう?」
日野 寛樹「扶桑は五十鈴と事を構える気なのか?」
黄瀬 克巳「私は乃笑嬢を連行せよと命じられているだけでしてね」
日野 寛樹「連行だと・・・?」
黄瀬 克巳「ええ、扶桑様のもとに」
黄瀬 克巳「妨害は実力を以て排除せよとの御達しです」
日野 寛樹「そうか・・・お前は敵なんだな」
黄瀬 克巳「いまさらですね」
日野 寛樹「分かった」
日野 寛樹「うおおぉぉ!!」
黄瀬 克巳「速いっ・・・! 急急如律・・・」
黄瀬 克巳「ぐっ・・・その、力・・・まさに、鬼、ですか・・・」
日野 寛樹「俺は鬼にだってなる! ノエミを守るためなら!」
日野 寛樹「はぁ・・・はぁ・・・」
五十鈴 乃笑「ヒロキ・・・」
日野 寛樹「ノエミ。俺はノエミを守るためなら何だってするよ」
黒崎 東吾「その意気や良し・・・と言ったところですかな」
日野 寛樹「誰だ!」
黒崎 東吾「黄瀬は回収させていただきます」
黒崎 東吾「急急如律令!」
日野 寛樹「消えた・・・」
日野 寛樹「あれも、扶桑の配下ってことか・・・」
綿貫 清音「お二人とも、ご無事ですね・・・!」
五十鈴 乃笑「ええ、大丈夫よ」
日野 寛樹「よし! お店に行こうか。予約の時間に遅れちゃいけない」
五十鈴 乃笑「えっ・・・!」
日野 寛樹「なに意外そうな顔してんのさ」
五十鈴 乃笑「そりゃ驚きもするわよ。切り換え速すぎて」
日野 寛樹「俺たちは楽しみを奪われちゃいけない」
日野 寛樹「扶桑が何を考えてるのかは分からないけど」
日野 寛樹「分からないものに怯えるなんて、まっぴらだ」
綿貫 清音「その通りだと思います。どうぞディナーへ」
五十鈴 乃笑「そうね・・・そうしましょうか」
日野 寛樹「よっしゃ! やっと二人の誕生日を祝える!」
五十鈴 乃笑「まったく・・・図太いんだから・・・」
ジェイコブ・ネルソン「どう見る?」
御園 恵玲奈「危険ね。花開く前に、摘んでおくべき」
ジェイコブ・ネルソン「同感だ」
御園 恵玲奈「久々の大きな獲物ね」
ジェイコブ・ネルソン「血が沸くな」
糸本さんの作品、アノベから入ったので現代劇メインかと思ってたら他の作品がファンタジーやSFが割とあって実はこっち畑なのかと認識を最近改めてます。
この吸血鬼美少女、よく使われてますね。今回長編なのでより作者愛が色濃く出そうで、ストーリー中の彼女の動きに期待が高まります。
寛樹くんは眷属だから彼女に懸想しているのか、彼本来の気持ちなのか、その辺りも今後見ていきたいと思えるお話ですね!
美少女、可愛い(*^_^*)
吸血鬼の二人。この後の展開が気になります!
っていうか、誕生日くらい、ゆっくりご飯食べさせてあげてーっ!
序盤からグッと世界観に引き込まれ、ワクワクしながら読んでいました😆
恋愛・バトル・ファンタジーの相乗効果で魅力いっぱいの第1話、とにかく続きを読みたいと強く思ってしまいました😂