クララクルル 〜 加減を知らない妖精 ~

土井和人

第9話 『夢やぶれて山河あり』(脚本)

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土井和人

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〇平屋の一戸建て

〇ボロい家の玄関
孝志「・・・・・・」
  家の前にやってきた若い男は、複雑な表情を浮かべて玄関の前で立ち止まった。

〇空
クララ「とうとうこの時が来たわ。 あー、なんだか私まで緊張してきた・・・!」
クルル「ねぇ、クララお姉ちゃん。 いい加減教えてよ」
クルル「あの男の人にどんな魔法をかけたの?」
クララ「わかったわかった。では発表します!」
クララ「実はあの男の人、数年前に夢を追いかけて家出をしたの」
クララ「でも夢破れ、疎遠になっている実家に戻って謝りたいと思った」
クララ「でもその勇気が出ない! そこで!」
クララ「私が魔法で、その勇気を授けたってわけ!」
クルル「なるほど!」
クララ「いやあ今回こそ、バッチリ人助けできそうだぞ」
クララ「これで一人前の妖精へ一歩前進だ!」
クルル「あ、お姉ちゃん! あの男の人、お家に入るよ!」
クララ「よし! 私達も移動するよ!」

〇古い畳部屋
  ガラガラ・・・
母「どなた? 今、玄関開く音したけど・・・」
孝志「・・・母さん」
母「孝志・・・!」
孝志「ただいま」
母「・・・あなた! あなた!」
父「なんだうるさい。 昼飯くらいゆっくり食わせてくれ――」
父「!」
孝志「・・・親父」
父「・・・孝志」

〇ボロい家の玄関
クララ「やった! 親子が感動の再会を果たした!」
クルル「お姉ちゃんのお陰だね! 人助け、大成功〜!」

〇古い畳部屋
孝志「・・・親父。あの、俺――」
父「何しに帰ってきたんだ?」
母「あなた・・・」
父「5年前、大口たたいて出て行ったのはどこのどいつだ?」
父「ミュージシャンになって、親父が一生かかって工場で稼ぐ金を、一曲で稼いでやるとか言ってな」
孝志「・・・・・・」
父「それとも何か? もう稼いで帰ってきたのか?」
母「あなた! せっかく孝志が帰ってきたんだから!」
父「お前は黙ってろ!」
父「おい、どうなんだ!? 反論があるなら言ってみろ!」
孝志「・・・・・・」

〇ボロい家の玄関
クララ「え、どうして喧嘩になるの!?」
クルル「あのおじさん、なんかヤな感じ〜」

〇古い畳部屋
父「・・・ふん、情けない奴だ。 それでも男か!」
孝志「・・・いや、俺だって必死に頑張ったけど――」
父「頑張っても結果ダメだったんなら同じだ!」
父「どうせ今日だって、金が無くなったから仕方なく帰ってきたんだろ!」
孝志「!!」

〇ボロい家の玄関
クララ「ヒドイ! そんな言い方ないじゃん!」
クルル「私、あのおじさんキライ・・・!」

〇古い畳部屋
父「言い返せないってことは図星か!?」
母「あなた! いくらなんでも言いすぎよ!」
父「・・・ふん」
孝志「・・・・・・」
父「・・・とにかく、そんなところに突っ立ってないで、さっさとあがれ」
父「それで荷物を置いたら、工場に来い」
孝志「・・・え?」

〇ボロい家の玄関
クララ「ん? ちょっと待って。 なんか様相が変わってきた気が」

〇古い畳部屋
母「父さんね、孝志がいつ帰ってきてもいいように、ずっと工場に孝志のロッカー用意して待ってたのよ」
孝志「!」
父「・・・俺は厳しいぞ。覚悟しておけ」
孝志「親父・・・!」
母「うぅ・・・」

〇ボロい家の玄関
クララ「な〜んだ!」
クララ「あのお父さん、口では厳しいこと言ってるけど、実はいい人なんじゃ〜ん!」
クララ「よかったよかった!」
クルル「いや、よくないよ!」
クララ「え?」
クルル「お金のために帰ってきたとか。 ・・・ヒドイよ!」
クララ「うん、たしかにそうだけど、それは愛情の裏返しっていうか」
クルル「何が愛情の裏返しよっ! 私は絶対、許せない!」
クララ「いや、だから、なんて言うか――」
クルル「こうなったらこうしてやる!」
クララ「ちょっと、何をする気!?」
クルル「クルルクルルクルクルルクル〜!」
クルル「あのタカシって人よ、お金持ちになれ~!」

〇古い畳部屋
父「じゃあ、俺は先に工場に行ってるから――」
孝志「親父」
父「ん?」
孝志「何か勘違いしてない?」
孝志「たしかに俺、ミュージシャンにはなれなかったけど、金に困ってるわけじゃないから」
父「・・・は?」
孝志「たまたま買った宝くじが当たってさ」
父「宝くじ?」
母「当たったって・・・」
孝志「10億円」
「10億円・・・!?」

〇ボロい家の玄関
クルル「よしっ! バッチリ!」
クララ「全然バッチリじゃない!」

〇古い畳部屋
父「ふん、何寝ぼけたこと言ってるんだ」
父「宝くじなんて当たるわけない――」
孝志「嘘なんてつくわけないだろ? ほら、通帳見てみろよ」
  孝志が取り出した通帳を見ると、たしかに10億円の記載がある。
「!!」
孝志「な? だから別に働かなくてもいいんだよね」
「・・・・・・」
父「・・・ん? お前、何しに帰ってきたんだ?」
孝志「え?」
父「何だお前!?」
父「ただ10億当たったって言いたくて帰ってきたのか、ええ!?」
孝志「まあ、報告っていうか」
孝志「ミュージシャンじゃ無理だったけど、宝くじ一枚で親父が一生かけて稼ぐ金、超えちゃったって話?」
父「何が超えちゃっただ!」
  父は孝志の胸ぐらを掴んだ。
母「やめてーー!」

〇ボロい家の玄関
クルル「あれ、結局喧嘩になっちゃった」

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