エピソード2・謎の中(脚本)
〇白いバスルーム
〇薄暗い廊下
峯岸輪廻「あーさっぱりした!」
須藤蒼「ごめんね、輪廻さん。シャワー、僕が先に入らせてもらっちゃって」
峯岸輪廻「気にするな。どっちが先に入っても同じだしな。・・・さっぱりして着替えて、少し落ち着いてきたか?」
須藤蒼「まあ。・・・正直こんな場所ですっぱだかになって大丈夫かなって疑問はあったけど・・・」
峯岸輪廻「まあな。ただ、あいつらがわざわざ着替え用意してシャワールームまで準備してるんだぜ?」
峯岸輪廻「せっかく第一の試練をクリアした人間を、こんなあほくさいトラップで消すことはしないだろ。もったいないし」
須藤蒼「そうでしょうか・・・」
峯岸輪廻「ていうか、お前無理に敬語使わなくていいぞ?俺は気にしない。なんか不慣れっぽいし」
須藤蒼「そ、そうです、か? ・・・うん、わかった。じゃあそうする。なんかこう、年上の人と話すの慣れてなくて」
須藤蒼「・・・というか、次の試練まだ始まらないみらいだし、何から考えればいいのか・・・」
峯岸輪廻「そうだな」
峯岸輪廻「少し話を整理してみよう」
峯岸輪廻「まず、俺はここに来るまでの記憶がない。自分に関することを何も覚えてない。ただ、己以外に関することは忘れてないみたいだ」
須藤蒼「己以外って?」
峯岸輪廻「例えば、俺は子供とか弟とか後輩とか、そういう相手にとても大事な人間がいた気がする」
峯岸輪廻「お前を見た時真っ先に、こいつは守らなければいけない、それが俺のアイデンティティだと思った」
峯岸輪廻「あとはそうだな・・・結構アレな状況だったのに我ながら落ち着いてるなというか。謎解きとか得意なタイプだったんじゃないか?」
須藤蒼「確かに、さっきの輪廻さんはものすごく頼りになったなって! 本当にありがとう!」
峯岸輪廻「どういたしまして。あとは今の総理大臣の名前とか、そういうのは忘れてないな。本当に自分に関することだけ消えた感じだ」
峯岸輪廻「人の記憶だけ都合よく消す事の出来るクスリか何かがあるのか、他の外的要因か。このゲームをクリアすれば何かわかるかもしれない」
須藤蒼「そうだね。早く輪廻さんの記憶を取り戻さないと」
峯岸輪廻「で、次はお前だ。どういう経緯で此処に連れてこられたのか覚えてるか?」
須藤蒼「え?僕ですか?え、えっと・・・」
〇川に架かる橋の下
「うろ覚えなんだけど。学校帰りに、河川敷の道を歩いてた、気がする・・・」
「そしたら・・・そう、男の人に声をかけられて。 顔も話も思い出せないんだけど・・・」
〇薄暗い廊下
須藤蒼「そうしたら、気づいたら此処にいた、ような?」
峯岸輪廻「その男に誘拐されたのか?」
須藤蒼「多分。・・・ごめんなさい、僕もあんまり覚えてなくて」
峯岸輪廻「いいさ。・・・まあ、そこでヘマしてくれるほど手緩い集団ではないってことだろ」
峯岸輪廻「ただ、はっきりしていることがいくつかある。 こいつらは無作為に人を攫って連れてきたんじゃない」
峯岸輪廻「少なくとも俺とお前については念入りに下調べをして連れてきている。何らかの事故でやむなく選んだわけでもない」
須藤蒼「それはどうして?」
峯岸輪廻「シャワー室の着替えさ。俺もお前も、びっしょ濡れになったのとまったく同じ服が用意されてた。サイズもぴったりだったろ?」
峯岸輪廻「何の服を着ているかを知り、さらに予めサイズを計っておく手段があり、準備もしていた。これが偶然なはずがない」
須藤蒼「え、え?服のサイズって、まさか身内の犯行ってこと?」
峯岸輪廻「そう決めつけるのは早計だ。例えばクリーニングに出した服を盗んだり、その店から情報が漏れていたらどうだ?」
須藤蒼「あ、そっか。それなら服のサイズとか、知っててもおかしくない・・・」
峯岸輪廻「そういうこと。勿論身内がスパイって可能性も消せないけどな」
峯岸輪廻「わからないことだらけだが、このままゲームを進めていけば少しずつ謎も解けていくはずだ。今は協力して頑張ろうぜ」
須藤蒼「は、はい!」
峯岸輪廻「一つだけ言っておく」
峯岸輪廻「・・・さっきの試練もそうだが、このゲーム主催者は俺達を試してる。 土壇場での考える力を、心の強さを」
峯岸輪廻「恐らく奴らが欲しい“勇者”とやらの条件がそれなんだろう」
峯岸輪廻「俺は人が人たる最大の武器は“考えること”だと思っている。 考え続けることができる限り、人は終わることなどない」
峯岸輪廻「だから蒼。お前も考えることをやめるな。 どれだけ絶望しても、絶体絶命に見えてもだ」
峯岸輪廻「これが本当に俺達の心を試すゲームなら、あっちは必ずクリア方法を用意している。諦めなければきっとそれが見つかる筈だ」
峯岸輪廻「人が本当に絶望に負けるのは、諦めた時。考えることを放棄した時だ。いいな?」
須藤蒼「わかったよ、輪廻さん!僕、考え続けるよ、何があっても!」
須藤蒼「またチャイム・・・!」
『第一の試練をクリアされた皆様、おめでとうございます』
『休憩時間は、もう少しで終わりとなります。あとに十分したら、皆さんがいるその通路は閉鎖されます』
『二十分以内に、廊下の突き当りの“NEXT”と書かれたドアを通って、第二の試験場にお越しください』
『通路が閉鎖されますと、消毒のためにそこには毒ガスを流させていただきます。それまでに、ご退去願います・・・』
『繰り返します・・・』
峯岸輪廻「相変わらず、勝手なこと言ってるな」
須藤蒼「まったくだよ。人の命をなんだと思ってるんだか・・・」
峯岸輪廻「洗面所と風呂場から・・・少しだけ道具を拝借するか。何かに使えるかもしれないしな」
峯岸輪廻「蒼、心の準備はいいか?念のため早めに次のフロアに行くぞ」
須藤蒼「僕は大丈夫!」
峯岸輪廻「その意気だ!絶対に勝とうな!」
りんねくんの考え続けることが大事という言葉に胸を打たれました!記憶を失っていても芯は失っていなくて良かったです!デスゲームどうなるんでしょうか
輪廻くんのキャラクターがクッキリと出るお話ですねー。そして、主催者の目的、輪廻くんたちを計画的に連れてきた理由、一層強く気になりました。
アナウンスの声、場の空気を変える感じでイイですね!