クララクルル 〜 加減を知らない妖精 ~

土井和人

第8話 『親子の絆』(脚本)

クララクルル 〜 加減を知らない妖精 ~

土井和人

今すぐ読む

クララクルル 〜 加減を知らない妖精 ~
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇川に架かる橋の下
  川沿いの高架下で中年の男が壁にもたれかかり、うな垂れるように酒を飲んでいる。
若い男「・・・・・・」
中年男「なんだ、また来たのか」
若い男「そんな言い方ないだろ。実の息子に向かって」
父「・・・何の用だ?」
息子「この前の話、考えてくれた?」
父「・・・・・・」
息子「住むところ、俺の方でなんとかするから」
息子「こんなところにいないで――」
父「はあ・・・しつこいなお前も。 俺にはこの生活が合ってるんだ」
父「酒飲んで、適当に空き缶集めて、自由に生きるのが」
息子「いつまでも、そんな暮らし続けられるわけないだろ?」
息子「ちゃんとしようよ、な?」
  父は息子の言葉に答えもせず、無言で酒に口をつける。
息子「親父、これって奇跡だと思うんだよ」
息子「10年以上行方不明だった親父に、転勤で来た街で再会するなんて」
息子「きっと神様がチャンスをくれたんだよ。 だからちゃんとしようよ!」
父「ふん、何がチャンスだ・・・」

〇空
クルル「クララお姉ちゃん! 今回は絶対に人助け、成功するでしょ!」
クルル「だってあのおじさんに、ちゃんとするように魔法をかければいいだけだも〜ん!」
クララ「う〜ん、たしかにそうだけど。 そうやって今まで失敗してきたからなあ」
クララ「なんか複雑そうな親子関係だし・・・」
クルル「じゃあどうするの〜? 黙って見てるつもり?」
クララ「今考えてるとこ!」

〇川に架かる橋の下
父「とにかく。何度来たって同じだ。 帰ってくれ」
息子「俺は親父のためを思って言ってるんだよ」
息子「母さんも死んじゃった今、親父にとって家族は俺だけだし」
父「家族?」
父「母さんとはとっくの昔に別れてたし、お前だって・・・」
父「・・・・・・」
息子「なんだよ」
父「いや」
息子「何が言いたいんだよ」
父「・・・・・・」
息子「じゃあもういいよ。勝手にしろよ!」
  息子は父親に背を向け、去っていこうとする。

〇空
クルル「お姉ちゃん! あの人、帰っちゃうよ!」
クララ「わかってるよ! でもどうしたらいいか・・・」
クルル「あ〜もうじれったい!」
クララ「え、ちょ、ちょっと待って!」
クルル「クルルクルルクルクルルクル〜!」
クルル「あのおじさんよ、ちゃんとなれ〜!!」

〇川に架かる橋の下
父「!?」
息子「なんだ? ――ええ!?」
父「あれ、似合ってないか?」
息子「いや、そういうことじゃなくて! いつのまに!?」
父「たしかにお前の言う通りだと思って反省したよ」
息子「は?」
父「俺は何て適当な生き方をしていたんだろうって」
父「このままじゃダメだ、いや絶対にダメだって」
息子「え、いきなりどうしたの?」

〇空
クララ「あの人の言う通りだよ! いきなりな展開すぎでしょ!」
クララ「ちゃんと加減考えて魔法使わないと!」
クルル「お姉ちゃんはいつも消極的すぎるんだよ! 魔法は大胆に使わないと!」

〇川に架かる橋の下
父「心配かけてすまなかった。本当に奇跡だよ」
父「こうしてお前と再会できなかったら、俺はずっとダメなままだったかもしれない」
息子「・・・まあ、なにはともあれ、やっとわかってくれたんだ」
父「ああ」
息子「じゃあ――」
父「うん。 今日から俺、ちゃんとしたホームレスになるよ」

〇空
クルル「やった〜! 大成功!」
クララ「いやいやいや!」

〇川に架かる橋の下
息子「・・・え、ちゃんとしたホームレスって何?」
父「今まで、どれだけ適当に空き缶を集めてたんだろうって、本当に後悔してる」
父「これからは朝早く起きて、めぼしい場所をくまなくまわる」
息子「・・・いやいやいや」
父「身なりをきちんとすることによって、この辺りのマンションの管理人さんに気に入ってもらって、空き缶を分けてもらおうと思う」

〇空
クルル「よかったよかった! ちゃんとしたね! あのおじさん!」
クララ「ちゃんとってそういうことかな!?」

〇川に架かる橋の下
父「あと、お前に紹介したい人がいる」
父「おい、ちょっと来てくれ」
父「これからちゃんと活動する上にあたって、マネージャーを雇ったよ」
息子「マ、マネージャー?」
マネージャー「よろしくお願いいたします」
  マネージャーは息子に名刺を差し出した。

〇空
クララ「あんた魔法の加減めちゃくちゃじゃない!」
クルル「大丈夫大丈夫!」
クララ「大丈夫じゃないよ!」

〇川に架かる橋の下
父「おい、明日のスケジュールは?」
マネージャー「はい」
マネージャー「朝4時30分より駅周辺、その後7時よりゴミ集積場を順番にまわり――」
息子「いや、どこに向かってちゃんとしてるんだよ!」
父「え?」
息子「そういうことじゃないだろ! マネージャーってなんだよ!?」

〇空
クルル「あれ? なんであの男の人怒ってるの?」
クララ「そりゃ怒るでしょ!」

〇川に架かる橋の下
息子「ちゃんとしようって言ったのは、きちんと家に住んで、定職につくって意味に決まってるだろ!」
父「だから、俺はこの生活が性に合ってるんだ。 何回言えばわかってくれる――」
息子「自分のことばっかり考えてんじゃねえよ!」
父「俺は、お前に心配かけないようにと思って――」
息子「わかってくれよ! 俺たち家族が恥ずかしいんだよ!」
父「・・・え?」
息子「もし近所の人たちに、あんたがうちの親父だってバレたらどうするんだよ!」
息子「恥ずかしくてこの街にいられなくなるだろ!」
息子「子どもだって、この河川敷で遊ぶこともあるんだよ!」
息子「その時あんたがいたら、どうなる!? 恥ずかしいだろ!?」
父「・・・なんだ、やっぱりそういうことか。 俺のためを思ってとか言っておきながら」
息子「は?」
父「やっぱりお前は母さんそっくりだ。 何よりも世間体が大事なところがな」
父「母さんやお前と暮らしていた時は、世間体ばかり気にしていて本当に窮屈だった」
父「やれ家がどうだ車がどうだ。 稼ぎが少ない俺をバカにしてな」
父「挙げ句の果てに他に男作って、お前と出て行って」

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

次のエピソード:第9話 『夢やぶれて山河あり』

成分キーワード

ページTOPへ