エピソード4 不正にして不当(脚本)
〇シックなカフェ
坂頭 優「あっはっはっはっは」
来栖 誠司「いや、笑い過ぎですよ坂頭さん」
坂頭 優「いやいや、失礼。あまりにも突飛な発想だったから」
来栖 誠司「そ、そうですか?」
今日も今日とて善行を積もうと街を歩いてたところ、偶然坂頭さんと再会した俺は、
彼の誘いを受けて一緒にお茶をすることになった。
俺の周りにはめったにいない年上の人ということで、何だか話しやすく、
そのせいもあってか、俺は気づけば自分が抱いている「来世に全賭け」という思想を話していた。
坂頭 優「いやはや、確かに前世の行いが今世に影響を及ぼすという考え方はあるだろうけど」
坂頭 優「まさか、それに全てを賭ける人がいるとはねぇ」
来栖 誠司「変、ですかね?」
坂頭 優「いやいや、そんなことないよ。ただ」
坂頭 優「来世に拘ることもないんじゃないかなと」
来栖 誠司「どういうことです?」
坂頭 優「君に人生、まだまだこれからということだよ。そうそう捨てたもんじゃない」
来栖 誠司「捨ててるつもりはないですが」
坂頭 優「なら今世で積んだ徳は、今世で消化すればいい。違うかな?」
来栖 誠司「でも、これからがよくたって、どうしようもないことだってあると思うんですよね」
坂頭 優「ほう? 例えば?」
来栖 誠司「え、いや、それは・・・」
ただ、自分の生い立ちまではさすがに話さなかった。
面識の浅い人に話すようなことではないだろうし、話すことによって同情されるのも嫌だったからだ。
坂頭 優「・・・まぁいいや」
坂頭 優「ところで、常世くんも君と同じ考えなのかな?」
来栖 誠司「え?」
来栖 誠司「ああ、そうみたいですよ。理由までは聞いてませんが」
坂頭 優「なるほどね・・・」
来栖 誠司「あ、そういえばあいつ、この前坂頭さんだけやたら犬に吠えられていたのを気にして──」
???「おい! どうしてくれんだ!」
ウェイトレス「申し訳ありません」
客「申し訳ありません、じゃねぇんだよ! 見ろよ! 服にミートソースが跳ねちまったじゃねぇか!」
客「当然、弁償してくれんだよなぁ!?」
ウェイトレス「申し訳ありません・・・」
客「さっきからそればっかだな。他に言うことないのか!」
客「もういい。責任者出せ」
ウェイトレス「え、えっと」
客「責任者だせ、つってんだよ!」
ウェイトレス「は、はい!」
来栖 誠司「ムカつきますね。俺、行ってきます」
坂頭 優「いやいや。ここは俺に任せて」
来栖 誠司「え、ちょ、坂頭さん?」
坂頭 優「ちょっといいかな?」
客「あん? 何だてめぇ?」
坂頭 優「ちょっと乱暴すぎやしないか?」
客「てめぇには関係ないだろ」
坂頭 優「聞くところによると、ただ服をちょっと汚されただけだろ? そんなに怒鳴るほどか?」
客「わかってねぇな。俺が怒ってるのは服を汚されたからじゃねぇ」
客「そんなミスを犯すプロ意識の低さに怒ってるんだよ。要は教育だ。この店の為なんだよ」
坂頭 優「欺瞞だな・・・」
坂頭 優「じゃあ、逆に聞こうか。君はプロかい?」
客「ああ? なんだその質問は?」
坂頭 優「いいから答えなよ。君はプロの客か?」
客「何なんだよ! プロの客って!」
坂頭 優「そんなこともわからず店に入ったのか。そりゃ驚きだ」
客「ああ? アマチュアだろうと入ったっていいだろうがよ!」
坂頭 優「ご尤も。だけど、立場の低いものが立場の高いものを叱るのは道理に合わないんじゃないか?」
客「誰の立場が低いって?」
坂頭 優「君さ。たった今、プロの客じゃないって認めたばかりだろ?」
客「さっきから訳の分からねぇことをゴチャゴチャと言ってんじゃねぇ!」
客「痛い目見てぇのか!」
坂頭 優「わからないかな。これは君のために言ってるんだよ」
客「ああ?」
坂頭 優「君は今、不当なことを言われている。そして君も同じことをした」
坂頭 優「君は自分がいったい何をしたのか、学ぶチャンスを得たんだよ」
坂頭 優「要は教育だ」
客「ふざけるなよ!」
男は殴りかかる。しかし、坂頭さんはそれを
坂頭 優「よっと」
軽くいなした。
客「うおっ!」
男は勢いを殺しきれず、床に倒れる。
坂頭 優「俺はあまり暴力は好きじゃなくてね。でも、どうしてもというのならお相手するよ」
客「くそっ! 覚えてろよ!」
坂頭 優「やれやれ」
ウェイトレス「あ、あの」
坂頭 優「ん?」
ウェイトレス「その、ありがとうございました」
坂頭 優「よしてよ、大したことはしてない」
坂頭 優「それに、どうせお礼を言うなら笑顔で言って欲しいかな」
ウェイトレス「・・・はい。ありがとうございました」
坂頭 優「それじゃあ、俺はこれで失礼するよ」
坂頭 優「代金はいくらかな?」
ウェイトレス「あ、お代は結構ですって店長が」
坂頭 優「そう? ならお言葉甘えちゃおうかな」
来栖 誠司「坂頭さん、大丈夫でしたか」
坂頭 優「ああ、そうだそうだ。同伴の彼の分もよろしくね」
〇河川敷
来栖 誠司「っていうことはこの前あったのよ」
来栖 誠司「いやぁ、あの時の坂頭さん。めちゃくちゃかっこよかったなぁ」
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