心優しい子(脚本)
〇住宅街
湊さんとのゲーム撮影を終え、明日も早いからと夜道を歩いているとある人物と会った。
森岡 涼恵「おや?君は・・・」
高城 誠「涼恵さん?こんな時間まで仕事ですか?」
森岡 涼恵「見て分かる通りだよ、出張でね」
森岡 涼恵「君は湊さんの家からの帰り?」
高城 誠「ま、まぁそんなところです・・・」
森岡 涼恵「そうか」
森岡 涼恵「・・・また、湊さんに何かあったのか?」
その言葉にドキッとする。
なんで分かったのだろうか?
森岡 涼恵「そんなことだろうとは思っていたよ」
森岡 涼恵「彼女、どうしても一人で抱え込むからね・・・」
森岡 涼恵「それに、いとこのことは聞いてるから」
高城 誠「そういえば、そんなこと言っていましたね・・・」
森岡 涼恵「湊さんの方は、明日にでも行ってみるよ」
森岡 涼恵「お母様とお兄様のことも話さないとだし」
それっきり、会話がなかったのだが少し一緒に歩いた時涼恵さんが口を開いた。
森岡 涼恵「・・・君も知っていると思うけど、うちの研究施設は製薬会社でもあってね」
森岡 涼恵「日々、いろんな新薬を作り出している」
高城 誠「そ、そうですよね」
森岡 涼恵「・・・実はその一端に、湊さんのために作ろうとしているものもあるんだ」
高城 誠「え・・・?」
高城 誠「湊さん、どこか悪いんですか?」
森岡 涼恵「・・・生まれつき、子供が出来にくい体質らしい」
森岡 涼恵「高校の時に、それを聞いてね」
森岡 涼恵「「仕方ないか」って、泣きそうになってた」
それに、俺は何も言えなかった。
涼恵さんはそれでも話を続ける。
森岡 涼恵「だから、彼女に約束した」
森岡 涼恵「不妊の人でも子供が出来るような、そんな薬を作るって」
森岡 涼恵「そのためにも、知り合いの女医さんや湊さんにも協力してもらってる」
森岡 涼恵「・・・それを知っているから、私も彼女のいとこに対して本当に腹が立ってるの」
森岡 涼恵「あまりにも無責任で、人の名前を使って近づくあのバカが」
高城 誠「・・・涼恵さんが言うなんて珍しいですね」
森岡 涼恵「所長だからね、社員の前では暴言を吐かないようにしているの」
高城 誠「でも、実際そうですね」
高城 誠「子供が出来て責任も取らないなんて、男として恥ずかしい」
俺がそう言うと、涼恵さんは目を丸くした後クスッと笑った。
森岡 涼恵「あなたが近くにいてくれるなら、湊さんも安心だね」
高城 誠「それはどういう・・・?」
森岡 涼恵「内緒」
ほら、帰るんでしょ?と先に進んでいく涼恵さんを慌てて追いかけた。
〇住宅街
次の日、車で実家まで向かうとその子はすでに外で待っていた。
立花 湊「ごめんなさい、遅くなっちゃいましたね」
有里 奈々「あ、いえ、大丈夫ですよ」
立花 湊「ううん、妊婦さんに無理させるわけにはいかないから」
立花 湊「どうぞ、乗って」
有里 奈々「し、失礼します・・・」
彼女を乗せると、私の方をジッと見ていることに気付く。
立花 湊「どうしました?」
有里 奈々「あ、いえ、その・・・」
有里 奈々「ほ、本当にかいさん、なんですか?」
立花 湊「そうですよ。作家兼実況者です」
立花 湊「まぁ、本業もありますけどね」
有里 奈々「私、かいさんのファンなんです!」
有里 奈々「まさか会えるなんて思ってなくて・・・」
立花 湊「そうなんだ、ありがとう」
立花 湊「迷惑料ついでにサインでも書いてあげましょうか?」
有里 奈々「え、いいんですか!?」
立花 湊「いいですよ、これぐらい」
この程度であいつのやったことの罪滅ぼしになるとは思っていないが、これぐらいならいいだろう。
〇おしゃれなリビングダイニング
家に着くと、荷物を持って中に入る。
立花 湊「本当にごめんなさいね、うちのバカが・・・」
有里 奈々「いえ、私もあんな人と付き合ったのが悪いんですし・・・」
立花 湊「それで責任を取らない理由にはならないですよ・・・」
立花 湊「何かあったらすぐに言ってくださいね」
そう言って、私は動画を撮る準備をする。
有里 奈々「あの、何をしているんですか?」
立花 湊「撮影準備ですよ」
立花 湊「ゲームを撮るから結構機材の準備があるんですよ」
有里 奈々「そうなんですね・・・」
立花 湊「見てみます?私は大丈夫ですよ」
有里 奈々「え、いいんですか?」
立花 湊「はい、見られて困るものはないですし」
私が笑うと、彼女は恐る恐る覗き込んできた。
有里 奈々「・・・結構な戦績ですね・・・」
立花 湊「基本的には何でもできますから」
立花 湊「まぁ、本業は別なんですけどね」
有里 奈々「そうなんですか?作家さんと実況者さんだけじゃないんですか?」
立花 湊「はい、一応福祉関係の仕事をしているんですよ」
有里 奈々「大変じゃないですか?」
立花 湊「大変だけど、どうしても働かないといけないですからね・・・」