エリシアの怒り(脚本)
〇貴族の応接間
ラン「・・・」
セリファ「・・・」
ラン「・・・どうぞ」
エリシア「お父様!お母様!」
ラン「エリシア・・・」
セリファ「エリシア!アリエイルが!」
エリシア「お母様、落ち着いて下さい」
エリシア「すでに王都全体に我が騎士団を配置済みです、アリ一匹逃がしはしません」
セリファ「あぁアリエイル・・・」
ラン「すまんエリシア、俺がついていながら・・・」
エリシア「お父様・・・」
ラン「何が英雄・・・子供一人守れんとは・・・情けない・・・」
エリシア「お父様、それは違います」
エリシア「王都の治安維持は我等の朱凰騎士団の責任、しいては団長である私の責任です」
ラン「エリシア・・・」
セリファ「エリシア・・・お願い・・・アリエイルを・・・」
エリシア「お任せ下さいお母様、アリエイルは私が必ず取り戻します」
エリシア「お二人はこの場で吉報をお待ちください」
ラン「・・・うむ」
エリシア「それでは、失礼致します」
ラン「・・・」
ラン「・・・頼むぞエリシア」
〇立派な洋館(観測室の電気点灯)
エリシア「・・・」
レオナルド「バベル団長殿、朱凰騎士団、全員配置完了致しました」
ガロ「相手はおそらく最近隣国より流れてきた盗賊団っすね」
ガロ「先月から被害報告が上がっている者達かと」
レオナルド「これからいかが致しますか?徐々に範囲を狭め、彼奴等を炙り出して・・・」
エリシア「必要ない」
レオナルド「!?」
エリシア「逃走経路だけ押さえておけば充分だ、貴様等は手を出すな」
レオナルド「・・・は、御意に」
レオナルド「・・・」
ガロ「はぁ~あんな団長殿は初めて見たっすねぇ・・・」
レオナルド「ああ、敗軍の殿を務めた時でさえあれ程の殺気は纏っていなかった・・・」
ガロ「バカな盗賊団だねぇ」
ガロ「ヤツラはトラの尾・・・いや、ドラゴンの尾を踏んじまったらしい」
〇城壁
エリシア「アリエイル・・・」
エリシア「怖くて震えていないだろうか・・・泣いていないだろうか・・・」
エリシア「ああ・・・可愛そうなアリエイル・・・もう少しだけ待っていて・・・」
エリシア「お姉ちゃんがすぐに助けてあげるから・・・」
エリシア「まさかこんなに早く使う事になるなんて・・・」
エリシア「月夜で良かった・・・」
エリシア「ブリオレットよ・・・月光を纏い、愛しき者の在処を我に示せ・・・」
エリシア「・・・そこか」
〇荒れた小屋
盗賊A「はっはっはぁー!まさかこんなお宝に巡り合えるとはなぁ!」
盗賊B「英雄ラン・バベルの嫡子!身代金したら幾らになることやら!」
盗賊A「情報屋に感謝しねぇとなぁ!」
アリエイル「・・・」
盗賊B「しかし、ラン・バベルと言えば伝説の英雄だ」
盗賊B「もし乗り込んできたら・・・」
盗賊A「はっ問題ねぇよ」
盗賊A「英雄ラン・バベルの伝説なんぞカビの生えた御伽噺」
盗賊A「息子一人守れないヤツに、何をビビる事がある」
盗賊A「かつての英雄も、今やただの隠居ジジイよ」
盗賊B「ははっ!そうかもな!」
アリエイル「お、お父様を愚弄するな!」
盗賊A「ん~?」
アリエイル「お父様は国民を護る為に命を賭して戦われてきた!侮辱は許さないぞ!」
盗賊A「はっはっは!さすが英雄殿の嫡男!この状況でもビビらねぇか!」
盗賊A「だが口の利き方に気をつけろよ?」
盗賊A「お前は生きてさえいれば良いんだからなぁ」
盗賊B「そうそう、俺らにとっちゃ手足の一本や二本無くても問題ねぇんだよ」
アリエイル「・・・ぅ」
リーダー「おいおい、はしゃぐのは良いが見張りくらいつけておけよ」
盗賊A「何だよリーダー、ビビってんのか?」
リーダー「ここは敵陣の真っただ中だって言ってんだよ」
盗賊A「言っただろ、例え元英雄が乗り込んでこようが怖かねぇって」
盗賊A「コッチは20人もいるんだぜ?」
リーダー「ラン・バベルの事じゃない、王都にはもっと厄介なヤツラが居るだろうが」
盗賊A「あぁ?厄介なヤツラ?」
リーダー「朱凰騎士団だ」
リーダー「特に現団長エリシア・バベルが就任して一年、どれだけの同業者が殺されたか・・・忘れてないだろう」
盗賊A「エリシア・バベルね・・・」
アリエイル「お姉様・・・」
盗賊A「知ってるかいお坊ちゃん?お前の姉君は今や父親を超える有名人だ」
盗賊A「善良な国民には国を守護する新たな英雄、中には「守り神」の生れ変りなんて言う者達もいる」
盗賊A「しかし俺達札付きにとっては、神は神でも死神に等しい存在さ」
アリエイル「・・・死神?」
盗賊A「ヤツは民を傷付ける者に容赦はしない、命乞いも意味はない」
〇流れる血
俺達にとっちゃ血にまみれた死神でしかないってことさ
〇荒れた小屋
盗賊A「そう、俺の兄弟もヤツに殺された・・・」
アリエイル「・・・」
盗賊A「ヤツにも、俺と同じ思いをさせてやろうか・・・」
アリエイル「!?」
リーダー「オイ」
盗賊A「大丈夫だよ、殺しはしねぇ」
盗賊A「なぁ!お坊ちゃんよぉ!」
アリエイル「くっ!!」
盗賊A「楽しみだなぁ~・・・あの死神が片腕を無くした弟を見て、どんな顔をするか」
アリエイル「・・・ぅ」
盗賊A「何だ?泣くのか?泣いちゃうのかぁ?死神の弟がよ~」
アリエイル「お姉様は死神なんかじゃない・・・」
盗賊A「あぁん?」
アリエイル「世界一尊敬する、世界一大好きな僕の憧れ人だ!」
盗賊A「な!?」
リーダー「な、何だ!何が起こった!」
エリシア「・・・」
アリエイル「お姉様!」
盗賊A「ちっ!出やがったか!」
盗賊A「オイ!動くなよ!動いたらお前の弟が・・・」
盗賊A「・・・アレ?」
盗賊A「ぐぁああああああ!!」
エリシア「汚い手で弟に触るな」
アリエイル「お姉様・・・」
エリシア「遅くなって済まないアリエ・・・」
エリシア「!?アリエイル・・・その傷は・・・」
アリエイル「あ、す、少し腕を刺されただけで何ともありません」
エリシア「・・・」
エリシア「すぐに終らせる、しばらく目をつむっていなさい」
アリエイル「・・・で、でも・・・」
エリシア「アナタもいつしか現実を、民を護る事による功罪を目の当たりにする時が来る」
エリシア「しかしそれはまだ先、今は見なくて良い」
エリシア「今はまだ、アナタの清らかな心を私に守らせて欲しい」
アリエイル「・・・お姉様」
エリシア「そう、それで良い・・・」
リーダー「終わったかい?死神殿」
リーダー「俺達を前にしてのんきにお喋りとは、流石だねぇ」
リーダー「お陰で完全に包囲できて・・・」
エリシア「黙れ」
リーダー「な・・・」
エリシア「これから先、貴様等が口にして良いのは断末魔のみ」
エリシア「民に恐怖を与え、財を奪い、あまつさえ私の宝物を傷付けた罪・・・」
エリシア「死をもって償え」
盗賊B「て、テメェ!!」
リーダー「ふ、ふざけ・・・」
エリシア「終わりだ」
「グギャアアアアア!!!!」
「がぁああああああ!!!!」
エリシア「・・・」
エリシア「他愛ない」
〇荒れた小屋
アリエイル「・・・お姉様?」
エリシア「終わったよアリエイル」
アリエイル「す、凄い・・・ほんの一瞬で・・・」
エリシア「だがまだ目を開けてはダメ」
エリシア「目を開けるのは外に出てからね」
アリエイル「・・・は、はい」
アリエイル「で、でも目を開けないと歩けないです・・・」
エリシア「大丈夫、私が外まで抱えて・・・」
エリシア「はっ!?」
エリシア「か、抱えて・・・」
〇ハート
エリシア(か、抱える!?そ、それはつまり、つまり・・・)
エリシア(お姫様抱っこ!?)
エリシア(いや、正確には王子様抱っこになるのか?いやいや、そんなことはどうでも良い!)
エリシア(アリィを抱っこするなんて、いったいどれほどぶりになるのか・・・)
エリシア(私が・・・アリィを抱っこ・・・抱っこ・・・抱っこ・・・)
〇荒れた小屋
エリシア「・・・ア」
アリエイル「?」
エリシア(ア~~~リィ~~~!)
兵士C「団長殿!ご無事ですか!」
兵士C「ぐほぅ!!」
エリシア「はぁ~はぁ~はぁ~・・・」
アリエイル「ど、どうしたのですか!?お姉様!?」
エリシア「だ、大丈夫・・・何でもない・・・」
ガロ「アレ?何でコイツこんなトコで寝てんだ?」
ガロ「って、うぁ・・・こりゃまた派手にやりましたねぇ団長殿」
ガロ「ひ〜ふ〜み〜・・・20人かぁ・・・御愁傷様」
レオナルド「団長殿、後片付けは我等にお任せを」
レオナルド「団長殿はアリエイル様を子爵様の下へ」
エリシア「ぐ・・・くぅ・・・・・・」
エリシア(だ、ダメだ、今アリィに触れたら私は感情を抑えられない!)
エリシア「ガ、ガロ・・・」
ガロ「はい?」
エリシア「アリエイルを護衛しつつ、お父様とお母様の下へ届けてくれ・・・」
エリシア「腕の傷は止血した、後はお母様に見て貰うのが一番良いだろう」
ガロ「そりゃ良いっすけど、団長殿は?」
アリエイル「お姉様・・・一緒に行ってはくださらないのですか?」
エリシア「うぅ・・・」
エリシア(行きたいよぉー!私だってアリィと一緒に戻りたいよぉおお!)
エリシア「す、すまないアリエイル」
エリシア「私は団長として、現場の処理と残党の捜索に参加せねばならないんだ」
ガロ「(ホント、自分に厳しい人だねぇ)」
レオナルド「(しっ、聞こえるぞ)」
アリエイル「・・・わかりました」
アリエイル「でも・・・でも王都を出る前に、必ずもう一度お会いできますよね?」
エリシア「ああ、勿論だ」
アリエイル「良かった・・・」
エリシア「ではガロ、世話をかける」
ガロ「何の何の、お安い御用ですよ」
ガロ「じゃあ行きましょうか、アリエイル様」
アリエイル「はい、宜しくお願い致します」
エリシア「・・・」
エリシア(あぁ・・・アリィが、アリィが行ってしまう・・・)
レオナルド「本当は心配なんでしょう?」
レオナルド「残党の捜索くらい、我らにお任せ頂ければ・・・」
エリシア「そもそも、このような族をのさばらせたのは朱凰騎士団の、しいては私の責任だ」
エリシア「責任者である私が現場を離れる訳にはいかん」
レオナルド「・・・」
エリシア「一人だけ生かしてある、すぐに残党の有無を吐かせろ」
エリシア「それに、こいつらだけじゃない、今夜を持って近辺の族を一掃する」
エリシア「寝る暇などないと思え」
レオナルド「御意に」
エリシア(一秒でも早く終わらせてやる!そしてアリィとの時間を作るんだ!)
エリシア「行くぞ!」
レオナルド「はっ!」
エリシア(待っててね!アリィ!)
エリシアの感情の揺れ幅が凄いことにww
そして兵士Cさんの絶妙なタイミングでの登場からの流れ、もはや様式美と言えそうですね!
騎士として己を律する生き方をしていたから、自制心が強い。でも赴くままに弟を溺愛させて上げたい。誰もいなければ、誰も…兵士Cめ…
戦闘表現は難しいですよね
どう読み手のイメージを思い通りに誘導できるか自分も苦戦してます