50万分の1のワタシ、時速40kmのアナタ

高山殘照

日曜日、午前10時(脚本)

50万分の1のワタシ、時速40kmのアナタ

高山殘照

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〇渋谷駅前
キョーコ「あなた、本気で言ってるの?」
トオル「だから、俺が悪かったって言ってるだろ」
キョーコ「そんなこと、聞きたくない」
トオル「いいから、俺の言うとおりにしてくれよ」
キョーコ「イヤよ」
トオル「いや、簡単だって」
キョーコ「信じらんない!」

〇ハチ公前
チヨ「ほー、これがハチ公さんかね」
チヨ「いやはや、話には聞いとったが 人、人、人じゃねえ、ここは」
サキ「うう・・・・・・」
チヨ「おや、どうなさったね スマホ握りしめて、うずくまって」
サキ「いえ、大したことじゃないんです」
チヨ「いやいや 大した顔色しとるが、おまえさん」
サキ「ちょっと、悲しいことがあって」
サキ「今は、少し1人になりたいんです」
チヨ(この人混みで?)
チヨ「そうか なんぞ具合悪くなったら、人呼ぶとええ」
サキ「ありがとうございます」
チヨ(ついつい地元感覚で話しかけてしまったわ)
チヨ「む?」
チヨ(なんじゃ、アクセサリーなんか握りしめて)
チヨ(振りかぶって・・・・・・?)
チヨ「投げた!」

〇空
  よー、飛んどる
  なかなかの強肩じゃのう

〇ハチ公前
チヨ(しかし、ありゃ陶器製じゃろう あの高さから落ちたら、木っ端微塵じゃ)
チヨ(そして、あの娘の顔 激情のままに投げたものの さっそく後悔しておるな)
チヨ「なら、お節介婆さんのやることは、 一つじゃの」

〇渋谷の雑踏
通行人「うおっ!」
チヨ「ほい! ほい! ほい! ほい!」
通行人「なんだ、この婆さん、速ぇ!」
  おい見ろよ
  お婆ちゃんが、
  スクランブル交差点を全力疾走してるぜ!
  なんて身のこなしだ!
  これだけの人の中を、
  ぶつかりもせず走ってる!
チヨ(いやいや、 ぶつからずに済んでおるのは、 ワシの力じゃねえぞ)
チヨ(見れば1000人も通行人があろうに、 誰もが上手にすれ違っておる)
チヨ(ほんの少しの知恵、ささやかな善意 それが集まって、この光景が生まれておる)
  おお、婆さんが!
  跳んだ!

〇空
  なにかつかんだぞ
チヨ「渋谷、ええ街じゃ」

〇渋谷駅前
チヨ「ほ、無事に取れたわ」
トオル「婆ちゃん、なにやってんだよ!」
チヨ「おお、トオルかい 今まで、どこおった?」
トオル「電話で言っただろ、 でっかいテレビの下にいるからって」
チヨ「でかいテレビって、 あっちにもそっちにも、あるじゃろが 分かるかい」
トオル「だから、悪かったって それで、ハチ公前に変更したんじゃないか」
トオル「そしたら、 スクランブル交差点を突っ切る ターボババアが見えたから」
チヨ「誰がババアだい」
キョーコ「あれ、そのアクセサリー」
チヨ「これかい? そこで娘さんが 意を決して放り投げたもんでのう」
キョーコ「これ、私が贈ったものです 一点物だから、間違いなく・・・・・・」
チヨ「ほ?」
サキ「キョーコ!」
キョーコ「サキ」
サキ「ごめん、私、どうかしてた せっかくのプレゼントを」
キョーコ「アタシだって悪かったよ あんな、酷い言い方して」
チヨ「トオル、ワシらはお邪魔じゃ ここは、すっといなくなるが吉じゃぞ」
トオル「へいへい」

〇渋谷の雑踏
トオル「しかし、足の速さは健在だな、婆ちゃん」
チヨ「なんのなんの 最近では、匍匐前進のプロ、 テケテケヨネさんと競っておる」
トオル「怖かったなあ、あのオバチャン 自転車より速いんだもん」
チヨ「そんなことより、 はよこの街を案内せんかい 流行を調べ、地元に持って帰らんとな」
チヨ「たとえば、この交差点よ 1日何人くらい通るんだい?」
トオル「マックス50万人だって」
チヨ「それだけいれば、 ウチの村もにぎやかになるのう」
トオル「婆ちゃんみたいなのが50万いたら、 それは村じゃねーよ」
トオル「軍だ」

〇渋谷駅前
キョーコ「あれ、さっきのお婆さんたちは?」
サキ「どっか行っちゃったみたい」
キョーコ「お礼、言いたかったな」
サキ「また会えたら言おうよ おかげで、壊れずに済みましたって」
キョーコ「うん」
サキ「そのときは、お揃いのアクセしようね」
キョーコ「さっきそれでケンカしたんでしょ? 同じの買っても、 私には、似合わないって」
サキ「一緒がいい」
キョーコ「うーん・・・・・・」
サキ「さっきのお詫びにさ、 プレゼントするから、ね? お願い」
キョーコ「せめて色は変えてよ」
サキ「うん、じゃ、行こ」

コメント

  • ちょっとした喧嘩で感情的になることってありますよね。
    それにしても、おばあさんすごいです!
    確かにみんな、沢山人がいるのにぶつからずに歩いてますね。

  • ターボババアことチヨさんのキャラクターがいいですね!渋谷に最も似つかわしくない人が、渋谷の若人を再び繋ぎ合わせてくれる展開が爽快ですね。

  • 別々のお話かと思いきや、1つにつながって…都会の醍醐味を味わえる面白いお話でした。チヨさんの名言が素敵です。スクランブル交差点をそんな風に捉えたことはなかったです。また、軍の冗談も楽しかったです。チヨさん隊VSテケテケ隊を観戦してみたいです笑

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