抽象画の似顔絵師

72

始まりの話(脚本)

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〇幻想2
  神様がいる世界には、たくさんの妖精も一緒に暮らしています。妖精達は皆それぞれ個性的。皆色々な特技を持っています
  妖精達は自由気まま。だけども神の国が美しく楽しいところになるようにと、自分達が出来る、お仕事っぽいことを皆でしています
  この妖精はお絵描きの妖精。お絵描きの妖精は街中の壁や建物等に色々な絵を描いて、神様や他の妖精の心を楽しませています
  でもある時、古い時代にお仕事をしていたお絵描き妖精の絵に、絵の付け足しをしてしまい、神様に怒られてしまいました
  本当はそれほど怒ってはいない神様。ただ、お絵描きの妖精には、別の世界でお仕事をしてもらいたいと思っていました
  神様はお絵描きの妖精に、人間の世界に送るという罰を与えました
  神様の世界は幸せに満ちているので、悲しみや苦しみがありません
  神様はお絵描きの妖精に、色々な気持ちを学んで欲しいと思ったのです
  そしてお絵描きの妖精は、神様に記憶を消され、特技はそのままにして、人間の世界に送られる事になりました

〇児童養護施設
  山の中にある少し大きな施設「野バラの里」。そこは親のいない子供達が生活をしている児童施設でした
  ある時、女のコの赤ん坊が布に巻かれて、施設の門のところに置き去りにされていました
  名前すら無いこの赤ん坊に、学園長は「裕那」と名付けました。
  裕那は不思議な子で、とても存在感の薄い子供でした。そのため周りから存在を忘れられてしまう事も多々ありました

〇簡素な部屋
  日常の大半を一人で過ごしている裕那でしたが、辛い事は何もありませんでした
  絵を描く事が大好きだったため、一人で過ごしている方が好きになっていました
  裕那は施設の中で決められている時間以外、外に出て色々なものを観察していました
  鳥や昆虫などの生き物、植物、建物。周りの子供達の事もよく観察していました
  そして部屋の中にいる時間に絵を描いていました。先生から貰った、画用紙、クレヨン、色鉛筆を使って

〇ストライプ
  裕那の絵はかなり変わっていました
  クレヨンと色鉛筆の両方を使って描く独自の画法。クレヨンで全体の雰囲気を描き、色鉛筆でそれらしき何かを描いています
  ある意味抽象画。しかし幼い裕那の描くその絵は、絵が好きだけど下手な子として先生達は見ていました
  優しい先生達は絵の描き方を教えようとしましたが、裕那はその都度途中で大泣きしてしまいました
  大泣きしてしまう事、存在感が薄い事から、先生達もそのうち裕那に絵を教えることをしなくなりました

〇古い施設の廊下
  この女性の名前は「さくら」。この施設で働いている職員の1人
  母子家庭で育ったさくら。母との関係はとても良く、一緒に旅行に行く事も頻繁に
  父がいなくても充分幸せだったが、母がいなかったらと考えると胸が苦しくなり、児童施設で働く事を決めました
  働き始めて約10年、職場の環境にも恵まれ、これまで大きな悩みもなく過ごしていたが、最近は胸が張り裂けそうに辛い気持ちだ
  一週間前に母が自宅で倒れて入院しているから。診断名は脳梗塞
  さくらが一緒にいた時の出来事だったため、すぐに救急車を呼び、早期に治療へつながることはできた
  ただ主治医からは、体に麻痺が残ると言われていた
  早く母に会いたいとは思っていたが、治療上の理由からこれまで会う事が出来ずにいた
  そしてこの日ようやく、仕事帰りに面会に行ける事になった
  そのため出勤して間もないのに、すぐにでも帰りたい気持ちになっていた

〇古い施設の廊下
  不安な気持ちで廊下を歩いていると、前から裕那が歩いてきた
  裕那はさくらの前で立ち止まると、さくらの顔をじっと見つめた
  数十秒後、裕那はシクシクと泣き出した
さくら「裕那ちゃん、どうしたの?」
  自分の気持ちも不安な状態の中、目の前で泣き出した裕那。自分も悲しい気持ちになったが、裕那をなんとか慰めようと必死になった
さくら「そうだ、裕那ちゃんはお絵描きが好きだったよね。私の似顔絵を描いてくれないかな~」
  裕那はうなづき、ゆっくりと泣き止んだ
裕那「お部屋で描いて、後で先生に持っていくね」
  そう言って裕那は自分の部屋に戻って行った

〇警察署の食堂
  その日さくらは、子供達の食事の当番になっていたため、1人早めに食堂に入っていた
  そこへ画用紙を持った裕那が現れた
裕那「先生。先生の絵、描いたからあげるね」
さくら「ありがとう、裕那ちゃん」
  裕那の絵を見たさくら。なぜか目から涙がこぼれてきた
  裕那の描いた絵は、さくらの顔とは似ても似つかなかった。それどころか人の顔にも見えなかった
  画用紙の左下側は青や緑が混じった暗めな色、そこから黄色や赤が混じっていく。右上から明るい色が差し込んでくるような絵
  クレヨンで厚く描いた世界。使っている色鉛筆の色はほとんど出ておらず、厚い壁を削る道具となっている
  その削った線も、何かの絵にもなっていない。何が描かれているのか解らない絵。それなのに涙は止まらなくなっていた
  その様子を見た同僚が、さくらの母親の事と合わせて上司に報告。さくらは早退と、一週間の療養という名の有休が与えられた

〇病院の廊下
  さくらはそのままの足で病院へと向かった
  病院に入ると、廊下を早足で歩いていた。母の様子はどうだろう、麻痺は大丈夫だろうか、頭の中の不安は駆け足で走っていた
  母の部屋に近づくと、四点杖を使って廊下を歩く母がいた
さくら「お母さん、大丈夫なの!!」
  杖を使っているものの廊下を歩いている母。その姿を見たさくらの目は、涙で溢れていた
さくらの母「さくら、ありがとう。あなたがすぐに救急車を呼んでくれたから、かなり軽度な麻痺で済んだみたい」
  体には麻痺があり、歩くのには杖が必要な体。それでも1人で歩けている母
  元の生活に戻ることは難しいかもしれないが、少なくともまた一緒に暮らせそうな様子を見て、さくらの不安はかなり解消された

〇綺麗なリビング
  家に帰ったさくら。食事や入浴が終わると、裕那にもらった絵をピンで壁にとめると、一気に眠りについていった

〇綺麗なリビング
  翌日は朝から天気が良く、カーテンの隙間から日差しが入ってきていた
  目が覚めると、前日までの不安はかなり和らいでいた
  ベッドから起きてカーテンを開けた後、ふと前日壁に貼った裕那の絵が目に入った
  これまで何にも解らなかった、色鉛筆の削られた部分。光を受けた絵をよく見てみると、人の顔のようなものが現れていた
  さくらの顔にも似ていたが、どことなく母親にも似ていた
  顔の一部が暗い色のクレヨンに重なっており、そこから明るい色へとつながる顔の絵
  母親にも見えるのは、笑っている目元のシワが少し多いところ。自分に似ているのは笑った口元に若さを感じたからかもしれない

〇ソーダ
  母がリハビリを終えて、元気になって家へ戻って来る絵が、頭の中に広がった
  母の体には軽く麻痺が残る。ただ元気な部分も沢山ある。一緒にまた笑って暮せると思うと、これまでの不安が自然と消えていった

〇簡素な部屋
  療養期間が終わると、真っ先に裕那の元に真っ先に向かった
さくら「裕那ちゃん、素敵な絵をありがとう。私の一生の宝にするから。本当にありがとう」
  最初はキョトンとしていた裕那。先生が自分の絵で喜んでいる事を知ると、自分自身も嬉しくなっている事に気がついた
裕那「先生、私、大人になったら絵を描く人になりたい。そんな人になれるかな〜」
  さくらは裕那を抱きしめると、嬉しかった時の自分の気持ちを、こぼれる涙を忘れて何度も伝えた

〇ネオン街
  それから約10年後、東京の片隅に小さな噂話が流れていた
  それは大きな白い犬を連れた、若い女性の似顔絵師の話。その人に絵を描いてもらえると、悩みが解決されて幸せになるのだとか

次のエピソード:優しいヒナ鳥

コメント

  • 相手の心に同調し、その心の色彩を絵として表現する絵画ヒーリングセラピーのようなものなんでしょうか。描いてもらった人の心が浄化されるんでしょうね。よく「神に選ばれし人間」などという言い方をしますが、裕那ちゃんは文字どおりそうした存在ですものね。心が温まる不思議系ストーリー、別のエピソードも見てみたいです。

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