終末のホワイトクリスマス

白花みのり

読切(脚本)

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〇荒廃した街
  二度とつくことのない街灯。
  外からでも荒らされたとわかる家。
  人を見かけることはたまにしかない。
  昔はこの地震大国、火山大国に生まれたことを後悔した。
  けれど、今となってはどこも似たようなものだ。

〇火山の噴火
  海面上昇による沈没、豪雨、地震、竜巻、山火事、噴火、etc・・・・・・
  復興より先に次の災害が起こる。
  次から次へ、世界的に相次ぐ災害により迎えた終末。

〇荒廃した街
  親が帰ってこなくなったのが1年前。
  どこかで何かに巻き込まれたのかもしれない。
  しばらく1人で過ごして、1、2ヶ月が経った頃に彼女と出会った。
  この世界にまるで絶望などしていないように快活に笑う彼女に助けられた。

〇荒廃した街
マスミ「はぁ」
  彼女が吐いた息が夜空に混ざる。
  真っ暗な世界に無数の星が瞬く。
マスミ「そういえば明日クリスマスだね」
チトセ「いまどきそういうイベント事は関係ないでしょ」
マスミ「こういう楽しみが大切なんだよ、少年」
マスミ「せっかくだから少しは贅沢なご飯にしたいね」
  楽しそうに話すその横顔はどう見たって自分より年上の女性だとは信じられない。
チトセ「大した贅沢ができる状況じゃないでしょ」
  ・・・・・・
  ・・・・・・
マスミ「・・・・・・ご飯を朝晩の2回とか?」
  悩んだ末に出てきた答えは少しズレている。
チトセ「それは確かに贅沢かもしれないけど、なんか違くない?」
チトセ「クリスマスっていったらチキンとかケーキとかでしょ」
マスミ「そんなのあるわけないじゃん」
  拗ねたように膨らませた頬を突きたい衝動にかられ、持っていた袋を持ち直す。
  袋の中で缶がぶつかる音がする。

〇おしゃれな廊下
マスミ「ただいまー」
チトセ「・・・・・・ただいま」
  彼女につられてそういうと、笑顔で「おかえり」と返される。

〇明るいリビング
  笑顔、といっても明かりひとつない部屋では雰囲気しかわからないけど。
  いつものようにマッチを取り出し、ランタンに火をつける。
  暗かった部屋にほのかな明かりが灯る。
  その明かりのもとで適当に調達してきた食料を確認する。
チトセ「明日はこれでいいんじゃない」
  まだ少し拗ねている彼女に缶を渡す。
  途端に目をキラキラさせる彼女は、もはや年下にしか見えない。
マスミ「おー!チキンとケーキ!!」
チトセ「まあイメージとは違うけど」
マスミ「いいよ、こういうのは気分が大事だから」
  ガトーショコラにカレー風味のチキンの缶。
  暗がりでパッケージもほとんど見えていないなかで、丁度いいものを手に取ったものだ。

  翌朝──

〇荒廃した街
  空は雲で覆われ、日中でも部屋は少し薄暗い。

〇明るいリビング
マスミ「ホワイトクリスマスって憧れだったんだ」
  そう言う彼女はさっきから毛布に包まり窓際で空を見上げている。
マスミ「こんなんでも案外綺麗だね」
  ぱっと見では確かに雪に見えないこともないが、
チトセ「火山灰でしょ」
マスミ「もー、せっかくそれっぽく楽しんでたのに」
  言いながら彼女が笑う。
マスミ「あ、そうだ」
  思い出したように彼女が立ち上がる。
マスミ「メリークリスマス」

〇荒廃した街
  窓の外では火山灰が降る。
  終末のホワイトクリスマス──

コメント

  • 現代では、電気や食料が枯渇するなんてイメージが全く湧かないくらい恵まれていますが、逆にいざなくなるとそれに対応できるのか?って心配になります。
    万が一に備えておくことも、大切なのかもしれません…。

  • クリスマスなのに、切ないお話で…。
    そんな中でも生きていく二人が力強く感じます。
    荒廃した世界でも、まだ希望を捨てきれないところが好きです。

  • 人生のはかなさを身に染みて感じなければならなくなった昨今、こういう未来がそう遠くないのかも思い知らされます。そうなった時、こうして一筋の光を出来るだけ感じられるものでありたいですね。

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