幸せのホールケーキ

士郎

幸せのホールケーキ(脚本)

幸せのホールケーキ

士郎

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幸せのホールケーキ
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〇コンビニ

〇個室のトイレ
  丸山聡子が熱心にトイレ掃除をしている。

〇コンビニのレジ
  レジでお金を数えている長身で爽やかな出で立ちの杉原大輔。
杉原大輔「あれー。おっかしいなー」
丸山聡子「どうかされましたか?」
杉原大輔「合わないんすよねー」
  聡子がささっとお金を数える。
丸山聡子「千円、足りませんね」
杉原大輔「お釣り間違えたかなあ。 こういう場合って、僕の給料から引かれるんですっけ?」
丸山聡子「一応、ルールだとそうなってます。 このレジは杉原君しか触っていないですから」
杉原大輔「うわー、まじかー。今月きっついのにー」
丸山聡子「今日は、私が払います」
杉原大輔「え!?」
丸山聡子「杉原さんはまだ3日目ですし、私の教育ミスということで」
杉原大輔「いいんすか?」
丸山聡子「今日が最初で最後ですよ」
杉原大輔「まじっすか! あざっす!」
丸山聡子「今後気を付けてくださいね」
杉原大輔「はい! あ、ところで先輩。 明日って空いてますか?」
丸山聡子「え、明日ですか?」
杉原大輔「はい。そうです。暇かなーって」
丸山聡子「明日って、クリスマスイヴですよ?」
杉原大輔「はい。そうです」
丸山聡子「空いてはいますけど・・・。 その、私なんかでいいんですか?」
杉原大輔「良かったー。 じゃあ、明日、俺とバイト交代してください!」
丸山聡子「え?」
杉原大輔「シフト入れた後、彼女できちゃって」
丸山聡子「・・・・・・」
杉原大輔「先輩?」
丸山聡子「あ、そうなんですね。そうですよね」
杉原大輔「バイトだって言ってんのに、六本木のイルミネーションみたいって聞かなくて」
丸山聡子「イルミネーションですか。 私の分まで楽しんできてください」

〇アパートの前
聡子の声「あめあめ ふれふれ かあさんが♪」

〇古いアパートの部屋
  聡子が、沢山のテルテル坊主を逆さに釣り下げている。
丸山聡子「ピッチピッチ チャップチャップ ランランラン♪」

〇アパートの前
丸山聡子「よし」

〇コンビニ

〇コンビニの店内
若い女「ねえ、私このチョコ大好き♪ 買って~♪」
若い男「しょうがないな。じゃあ、3つまでだぞ」

〇コンビニのレジ
「・・・・・・」
若い男「あのー、ケーキ受け取りに来たんですけど」
丸山聡子「あ、はい。こちらになります」
若い女「わー可愛い♪」

〇コンビニ
聡子の声「ありがとうございました~」
  たカップルが手を繋ぎながら店を出ていく。

〇コンビニのレジ
中西信夫「糞が!」
丸山聡子「え?」
中西信夫「すまん、心の声がつい出ちまった」
丸山聡子「・・・・・・」
丸山聡子「ふふふ」
中西信夫「何笑ってんだよ!」
丸山聡子「すみません。おかしくて」
中西信夫「おかしいことあるか!」
中西信夫「さっきの2人、ぜってー俺らのこと負け組って思ってたよ」
丸山聡子「え? 私もですか?」
中西信夫「あったりめーだろ。 クリスマスにコンビニでバイトしてる奴なんて、誰がどう見ても負け組じゃねーか」
丸山聡子「・・・確かに」
  後ろに陳列されているケーキの箱を見る。
中西信夫「このケーキこそが勝ち組の証だよ」
  おもむろにケーキの箱を空けてケーキを取り出す中西。
丸山聡子「美味しそうですね」
  中西が苺を一つ手に取って口に放り込む。
丸山聡子「ちょっと何してるんですか!」
丸山聡子「お客様が予約してるケーキですよ!」
中西信夫「うるせえ。一個くらいわかんねーよ」
丸山聡子「店長に言いますから!」
中西信夫「はあ? お前、裏切るのか」
丸山聡子「裏切るって、私、何もしてないです」
  中西がもう一つ苺を取り出して聡子に差し出す。
中西信夫「ほれ。お前も食え」
丸山聡子「食べません」
中西信夫「つまんねえ女だな。 そんなんだから男できねーんだよ」
丸山聡子「関係ありません」
中西信夫「ほれ。勇気を出して一歩踏み出せ」
  中西が苺をもって聡子に迫る。
丸山聡子「ちょっと、止めてください」
  聡子が中西から離れて後ずさりする。
  しかし、壁まで追いやられる。
中西信夫「こないだ杉原が言ってたぞ」
丸山聡子「え? な、なんて?」
中西信夫「丸山ならバイト変わってくれるだろうって。絶対男いないだろうからってよ」
丸山聡子「!」
  聡子に苺を押し付ける中西。
中西信夫「いいのか? 負け組のままで」
  苺から顔をそむける。
中西信夫「ほれ。お前も幸せ分けてもらえ」
丸山聡子「幸せ!?」
  聡子がパクっと苺を頬張る。

〇コンビニ

〇コンビニのレジ
  時計の針は23時30分を指している。
  ケーキは残り2箱になっている。
丸山聡子「取りに来ませんね」
中西信夫「今年は少ない方だよ」
丸山聡子「え?」
中西信夫「毎年残るんだよ。明日には廃棄処分」
丸山聡子「・・・そうなんですか」
中西信夫「予約したはいいけど、今日までに必要なくなったんだろ」
丸山聡子「・・・なんか、悲しいですね」
中西信夫「・・・・・・」
丸山聡子「あ!」
中西信夫「あ?」
丸山聡子「残るの、知ってて食べたんですか?」
中西信夫「まーな」
丸山聡子「なんか、ずるいです」
中西信夫「ずるかろうがずるくなかろうが、悪いことには違いない」
中西信夫「お前も食ったから共犯だぞ」
丸山聡子「わかってますよ。 でも、なんかすっきりしました」
中西信夫「は?」
丸山聡子「幸せな誰かに悪いことしたなって思っていたので」
中西信夫「やったことは万引きと変わんねーぞ?」
丸山聡子「後で弁償します」
中西信夫「真面目か」
  自動ドアが開き、女が入って来る。
「・・・・・・」
  女はレジの前までやってくると、無言のまま財布から紙を取り出して差し出す。
丸山聡子「あ、ケーキですね」
  聡子、慌てて紙を受け取り、レジ裏のケー
  キを取る。
丸山聡子「3千2百円になります」
中西信夫「千6百円でいいっすよ」
丸山聡子「え?」
中西信夫「どうせ30分後には半額で売り出されるん で。適当に処理しときます」
女「うう・・・ありがとうございます」
丸山聡子「・・・全部が全部、幸せのケーキってわけではないんですね」
中西信夫「何それ」
丸山聡子「中西さん、私、勘違いしてました」
中西信夫「は?」
丸山聡子「私、中西さんのこと、ヒドイ人だと思ってました」
中西信夫「バカ言ってんじゃねえ。 俺は昔からいいやつだ」
丸山聡子「そうですね。ちょっと見直しました」
中西信夫「俺は、人の幸せっつーもんが大っ嫌いなんだ」
丸山聡子「私もです」
中西信夫「でも、人の不幸はもーっと嫌いなの」
丸山聡子「・・・私もです」
中西信夫「真似すんじゃねえ」
丸山聡子「あ!」
中西信夫「あ?」
中西信夫「お、おい」

〇コンビニ
丸山聡子「ホワイトクリスマスですね!」
中西信夫「さみーから早く戻るぞ」

〇コンビニのレジ
丸山聡子「私、杉原君に悪いことするところでした」
中西信夫「あ?」
丸山聡子「・・・いえ、何でもないです」
杉原大輔「お疲れ様でーす」
中西信夫「おう、杉原、どうした?」
杉原大輔「あ、ケーキ予約してたんすよ」
「!」
杉原大輔「?」
「あははは」

コメント

  • 内部事情含めてのリアリティ、とっても心に響きますね。クリスマスという一大イベントに対しての各人の心情描写がとてもリアルで魅力的な作品ですね。

  • てるてる坊主のところ、なんだか笑えました。
    たしかにムカつきますよね。笑
    でも、彼もなかなかいい人のような気がするんですよ。
    ケーキ食べちゃったのはアレですが。

  • 帰宅後、歌を口ずさみつつ即てるてる坊主を笑顔で逆さ吊りするシーンに吹いてしまいました
    幸せのお裾分け(イチゴつまみ食い)が巡り巡ってシフト押し付けた彼から頂けたのも因果応報感があり…
    面白かったです!

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