エピソード3(脚本)
〇ポリゴン
夢遊病──
または、睡眠時遊行症、夢中遊行症とも呼ばれる。
夢遊病とは、眠っているはずなのにベッドから起き出して何かしらの行動をとる障害のことである。
家の中をうろうろ歩くだけのこともあれば、衣服を身に着けたり、入浴しようとしたり、車の運転をすることもあるという。
患者によっては、しゃべったり、叫んだりするが、目がうつろで周囲の応答には反応が鈍いことがほとんどである。
主に、睡眠覚醒スケジュールの乱れ、疲労感、身体的あるいは情動的ストレスなどが発症の原因であるとされている・・・
〇大樹の下
メアが、日中の男性に会いに行った日の夜。
「・・・・・・・・・」
メアは、日中のことを思いだし、1人不貞腐れて、うずくまっていた。
(あんなに、メアと話してたクセに、メアから会いに行ったら、ガン無視するとか・・・)
(・・・マジ、意味わかんない)
(・・・それに・・・)
(・・・・・・・・・)
(・・・メア、なんでこんなに、)
「・・・こんなに・・・」
「胸が、ズキズキするんだろ・・・」
男性「こんばんはーっと」
「・・・!!!」
男性「あれ?今日は反応がないな」
「・・・あなた、日中メアのこと無視したでしょ」
男性「え、なんのこと?」
「とぼけないでよ!」
「メア、わざわざあなたに会いに行ったのに、思いっきりガン無視するんだから!!!」
男性「え?え?」
「もう、あなたのせいで、メア、 ・・・メア・・・!!」
男性「ご、ごめん。まったく身に覚えはないけど、君を傷つけてしまったなら、謝るよ」
「今さら謝られたって遅いの!!!」
「メアが、どれだけ傷ついたかも知らずに・・・!!!」
男性「・・・そうか、君は、お昼の僕に会いに来てくれたんだね」
「そうよ!!なのに、あなたときたら、ガン無視するんだから・・・」
男性「それは多分、現実だったからじゃないかな」
「・・・は?」
男性「僕と君は、夢の中でしか会えない」
「・・・え」
男性「なんでかわからないけど、なんとなくそう思うんだ」
「あ、あなた、メアが人間の夢のなかで、いたずらできることを知ってるの・・・?」
男性「うーん。よくわかんない。 けど、そうなんじゃないかなって気がする」
「・・・・・・意味わかんない」
男性「とにかく、お昼のことは謝るよ。 僕も、仕事に手一杯で、それどころじゃ・・・」
「・・・さない」
男性「え、?」
「もうっ、許さないんだからぁ!!」
メアは、男性への怒りを抑えきれず、その場から逃げ出した。
男性「あ・・・。 ・・・・・・メア、」
男性「・・・」
男性「・・・メア」
男性「・・・僕は、君に・・・」
「・・・君に、会いたい」
〇汚い一人部屋
メアから距離をとられた男性は、メアとは夢の中で会えることを、なんとなく実感していた。
そのため、メアに会いたい一心で、睡眠時間を確保し、良質な睡眠を心がけ、早めの就寝を行う習慣をつけた。
はじめの頃は、メアの姿を見かけることができた。正面から話しかけ、他愛ない会話を試みる。
しかし、彼女が負った心の傷は、男性が思ったより深く、素っ気ない態度を取るばかりであった。
だんだん、彼女の姿を見かけても、話しかける勇気が出なくなってきた。
男性には、ただ遠くから彼女の姿を眺めるだけしかできなくなった。
そのうち、男性は深い眠りにつくことができるようになり、夢を見ることが少なくなった。
徐々に夢を見る頻度が減り、ついに男性の夢からメアの姿が完全に消えた。
〇シックなバー
メアに会えなくなったものの、睡眠の質は向上し、皮肉にも仕事の効率があがった男性。
週末、男性は上司から飲みに誘われ、半ば無理やり付き合わされることになった。
食事も終わり、上司が2件目に選んだのは、男性には縁もゆかりも無いような、アンニュイなガールズバーであった。
「ハハハ!お前ももっと飲めよ!!」
男性「は、はい・・・」
「ねぇねぇ~、わたしぃ、このお酒飲みたいなぁ~? たのんでもいーい?」
「お!もちろん! この俺が気前よく奢ってやる!」
「やったぁ~♪ありがとう~」
男性(あー・・・こんなとこ来てるなんて、メアに知られたら、絶対怒られるだろうな・・・)
男性(でも、もう彼女に会えなくなってしまったし・・・ うーん・・・)
「・・・ねぇ」
男性(僕が会いたいからって理由で、許してくれるだろうか・・・)
女性「あのー、すみませーん!」
男性「うわっ!び、びっくりした・・・」
バー店員の女性は、入店以来まったく飲もうとしない男性を気にかけ、声をかけた。
女性「さっきからずっと話しかけてたのに、無視されるんですもん!返事してくださいよ!」
男性「う、、、す、すみません・・・」
男性(なんか、前にもメアに似たようなことで怒られたばっかりだな・・・)
女性「なんだか、思い詰めた表情してません? なにかあったんですか?」
男性「あ、いえ・・・はは、そんなに大したことじゃないですよ・・・」
女性「いいんですよ。吐き出しちゃった方が、スッキリすることもありますから」
女性「それに、せっかくうちに来てくれたのに、無愛想な顔で帰られるのも嫌ですからね♪」
男性「すみません・・・気を遣っていただいて」
女性「ほら、一緒に飲みながら、お話聞かせてください。 これ、わたしのお気に入りのカクテルですから」
男性「あ・・・ありがとうございます・・・」
男性「ええと、実は、その・・・ 最近、僕が想いを寄せる方から邪険にされてまして・・・」
男性は、女性の店員に、メアのことをごく一般的な言葉を選びながら、話をした。
夢の中でだけ会える・・・などという話を、到底他人に信じてもらえるはずがないと思ったからだ。
男性は、メアとの覚えている限りの会話や、やりとりについて、女性に伝えた。
女性「へぇ・・・大変そうですねぇ・・・」
女性「・・・その話、よかったらまた今度、聞かせてくれませんか」
男性「え・・・?」
「おーい! そろそろ出るぞ~」
男性「あ、うちの上司・・・」
男性が立ち上がろうとしたその時、女性は男性の手に、紙切れを渡した。
男性「あ、・・・」
声を出そうとする男性を、女性は口許に人差し指を立て、制する。
女性「それ、私の連絡先です。 よかったらまた連絡してください」
男性「・・・・・・」
女性の連絡先の書いた紙切れを受け取り、ペコッとお辞儀をすると、男性は上司に続いて店を後にする。
女性「また来てくださいね~」
女性「・・・・・・」
女性(あの人、恐らくだけど・・・)
(・・・なにか精神病を患ってる)