シリアス・ブレイカー!

ラム25

ぶんれちゅどけい(脚本)

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〇研究施設のオフィス
矢坂「お疲れ、コーヒー飲むか?」
暦「ああ、お疲れ、頂くよ」
琥珀「あなたたち、お疲れ様」
暦「あぁ、君もお疲れ」
琥珀「ここでは私が上司よ、暦君」
暦「あ、すみません・・・」
琥珀「なんてね。 帰りましょうか、あなた」
  暦と琥珀は夫婦だった。
  7年前、琥珀は暦を突如呼び出した。
  リストラではないかと怯える暦に琥珀は告白した。
  脳科学に関する分野で天才と言われ、美人であるばかりでなく部下への気配りも忘れない理想の上司。
  暦に断る理由はなかった。

〇高級マンションの一室
緋翠「お父さん、お母さんお帰りなさい!」
琥珀「良い子にしてたわね、緋翠」
緋翠「うん!」
暦「日曜日は遊園地行こうか!」
緋翠「やった! お父さん大好き!」
琥珀「えぇ! 全アトラクション制覇目指しましょう!」
  暦は平日は〝遅く〟まで働く一方、休日は極力3人での時間を優先した。
  優秀な科学者である一方で立派な父親でもあった。
  その時、ふと暦がふらつく。
琥珀「あなた? 大丈夫?」
暦「ああ、なんてことない。 それより遊園地のプランを練ろうか」
緋翠「お父さん、具合悪いの? やっぱり家にいようよ」
  そんな顔をしないでくれ。
  そんな声を出さないでくれ。
  暦は慌てて明るく振る舞う。
暦「緋翠・・・お前は本当に優しいな。 でも遊びたいのは緋翠だけじゃない、お父さんもだ!」
  妻の、娘の笑顔が見たい、明るい声が聞きたいんだ。
  そして3人は遊園地のプランを練る。

〇ジェットコースター
緋翠「きゃああああああ!!」
暦「うわああああああ!!」
  楽しげに悲鳴をあげるのは緋翠、苦しげに悲鳴をあげるのは暦であった。
緋翠「ジェットコースター楽しかったね! もう一度乗ろうよ!」
暦「え、えぇ!?」
琥珀「あなたが昨日3回乗るってプラン立てたんじゃない」
暦「あ、あぁ・・・」

〇遊園地の全景
緋翠「楽しかったね!」
暦「あぁ、緋翠が満足してくれて何よりだ」
琥珀「あなたったらお化け屋敷でも緋翠より怖がっちゃって」
暦「あ、あれはだな! 突然顔に冷たいのがぶつかったから驚いただけで、それに気付くと暗いのに隣に緋翠もいなくて・・・」
緋翠「お父さんは私が守るから大丈夫だよ!」
暦「・・・はは、ありが──」
  その時、暦はまたしてもめまいがした。
緋翠「お父さん、大丈夫? ごめんなさい、ジェットコースター3回も乗ったから・・・」
暦「いや、お父さん緋翠よりはしゃいじゃったからなー。 それで疲れちゃったみたいだ!」
琥珀「・・・」

〇諜報機関
暦「・・・」
  暦は黙々とタイピングしている。
石井「順調かね」
暦「はい、あなたは恩人なのにこのくらいでしか恩を返せませんが」
石井「結構だ。君には助けられている」
暦「それならよかったです。 それに娘は・・・」
暦「あなたが作ったクローンは紛れもなく正常です」
石井「そうかね」
  緋翠の正体はクローン人間だという。
  暦は娘を事故で亡くした。
  そこで悲しみに暮れる暦に石井がクローンを作ったのだ。
石井「君も家族がいる、今日のところはこの辺にしておきたまえ」
暦「はい、すみません。 最近疲労が溜まっているみたいで・・・」
石井「君という頭脳はかけがえのない資本だ。 ゆっくり休んでくれ」
暦「・・・ありがとうございます」

〇高級マンションの一室
暦「ただいま」
  22:30、琥珀よりだいぶ遅れて帰宅する。
琥珀「お帰りなさいあなた、緋翠が熱を出しちゃったの」
暦「緋翠が? 遊園地ではしゃぎすぎたのかな・・・」
緋翠「お父さん、おかえりなさい」
暦「緋翠!? 寝てなきゃ駄目じゃないか!」
緋翠「ううん、大丈夫! お母さん、お腹空いたなあ」
琥珀「待っててね、今おかゆ作るから」
緋翠「・・・」
  しかし緋翠は倒れてしまった。
暦「あぁ、俺を心配させないよう明るく振る舞って・・・」
  それから緋翠は謎の高熱に魘されることになる。

〇諜報機関
石井「そうかね・・・娘が・・・」
石井「・・・考えられるのはテロメアの異常だな」
暦「テロメア?」
石井「簡単に言うと染色体の末端にある構造で寿命を決めるものだが、クローンはこれが短い傾向にある」
石井「そのテロメアが生まれつき短い事で異常が生じているのかもしれん」
暦「そんな・・・なんとかならないのですか?」
石井「どうにも出来ん。 だが異常は抑えられる。 この薬を飲ませるのだ」
暦「ありがとうございます」

〇高級マンションの一室
緋翠「お父さん、おはよう! 熱も36.9度だし早く学校行きたい!」
暦「緋翠、もうよくなったのか。 でもまだほんの少し熱が高いから今日は休むんだ。 日曜日はまたみんなで映画館行こう」
緋翠「はーい」
暦(この子はクローンだが紛れもなく俺の娘だ。 娘だけは絶対に無事に成長させてみせる)

〇諜報機関
暦「薬がよく効きました。 感謝してもしきれません」
石井「まあ君には私も助けられているからな」
暦「はい。では失礼します」
石井「・・・出てきたまえ」
琥珀「・・・気付いてましたか」
石井「君たちの娘は私が作ったクローン・・・」
石井「彼はそう思い込んでいるようだな」
琥珀「はい、夫は娘がクローンだと信じています」
石井「娘の熱はただの風邪だった。 薬と偽ってビタミン剤を与えたが」
琥珀「夫は気付いていません」
琥珀「自分こそがクローンだと言うことに」
石井「あの様子だとそうだろうな。 それに彼は頻繁にめまいを起こすと言う。 テロメアの異常かもわからん」
琥珀「やはり夫はテロメアが短いのですね」
  琥珀が夫を亡くした時、石井は琥珀の記憶を操作する技術で娘がクローンだと思い込ませるという条件で暦のクローンを作った。
  曰くちょっとした思考実験らしい。
石井(それに娘がクローンだと信じれば私に頼る。 私の意のままに操ることが出来る)
石井(彼には期待しているよ)
  石井は醜悪な笑みを浮かべる。

〇高級マンションの一室
暦「ただいま」
緋翠「お父さん、お母さん、おかえりなさい!」
暦「お土産もあるんだ、欲しがってたチョコ」
緋翠「やった!」
暦「日曜日はショッピング行こうか」
緋翠「うん!」
暦(この子は俺の娘だ。 たとえクローンだろうが無事に育ててみせる)
  その時、暦はまたしてもふらつく。
琥珀「・・・あなた?」
暦「あぁ、なんてことない。 そんな悲しそうな顔しないでくれ」
琥珀「・・・わかったわ」
琥珀(あなたに残された時計の針は残り少ない・・・ それでも私は──)
マキ「ちょっと待つにゃああああああ!!」
暦「な、なんだ君は!?」
マキ「こっちのセリフだにゃ! タイトル読める? シリアスブレイカー! ぶんれちゅどけい! 分裂時計じゃないの! 分かる?」
マキ「何1800文字も分裂時計の再放送して、イラストまで流して終わりにしようとしてんだにゃ!」
暦「いや、何を言っているのか・・・」
琥珀「・・・待って。 ねぇ、彼女と2人きりにさせてもらっていい?」
暦「それは、構わないが・・・」
マキ「ふう、こっちの琥珀は話が早くて助かるにゃ。 伊達に脳科学の天才って設定じゃないにゃ」
琥珀「あなたが何者かは分からない・・・ でもあなたなら夫を救う方法が分かるかもしれない、そう思ったの」
マキ「この薬を飲ませるにゃ。 石井のやつ、こんなのも本当はちゃっかり作ってたんだにゃ」
琥珀「ありがとう」
マキ「あ、でも飲ませる前に石井のやつに一矢報いるにゃ。 あいつ暦を良いように利用してるんだにゃ」

〇諜報機関
石井(素晴らしいぞ! 彼のAIなら私の思うがままに操作できる)
石井(そしてクローンを製造する規模を増やし、統制すれば、私は・・・!)
石井「ふ、ふはは、ふははははははは!!!」
マキ「うわ、1人で突然笑い出したにゃ・・・」
石井「な、なんだお前は!?」
マキ「お前が作った薬は預かってるにゃ。 もう暦を言いなりにできると思うにゃよ」
石井「ふ、どこのコソ泥か知らんがそのクローンのテロメアを伸ばす薬は1錠で1日分しか効果がない」
石井「つまり私がいなければ飲ますことはできない。 所詮は私が作ったクローンは私には逆らえない定めなのだよ」
マキ「石井「所詮は私が作ったクローンは私には逆らえない定めなのだよ」」
石井「!?」
マキ「前の世界の石井もだけどちょっと自滅多すぎじゃないかにゃ? 毎回録音されて負けてるのが笑えるにゃwww」
  そう、なんかこの世界ではクローンが当たり前みたいに言われてるが、普通に違法だ。
  石井のボイレコは自白に等しい。
石井「あ、あぁ・・・そんな、この、私のプランが・・・! こんな、訳の分からない小娘なぞに・・・!」
マキ「こいつは暦に渡すにゃ。 捕まりたくなかったら一生暦に頭下げて薬作り続けるんだにゃ」
石井「あ、あぁ・・・」

〇高級マンションの一室
マキ「と言うわけにゃ」
琥珀「そう、ありがとう。 あなたは救世主・・・神様みたい」
マキ「!? そ、それより私がここにいると画面に3人しか写せない都合上緋翠が空気になっちまうにゃ。 じゃーにゃ!!」
琥珀「えぇ、ありがとう・・・」
暦「しかし緋翠でなく俺がクローンだったとは・・・ あれからめまいもない。 もう大丈夫だ」
琥珀「そう、それはよかったわ」
緋翠「日曜日はまた遊園地行きたい!」
琥珀「えぇ! またジェットコースター乗りましょう!」
暦「あぁ! 今度の俺はひと味違うぞ!」

〇ジェットコースター
緋翠「きゃあああああ!!」
暦「うわぁあああああああ!!」
  5分ほど高速で揺り動かされ、3人は降りる。
暦「も、もう勘弁してくれ・・・」
琥珀「あなたったら昨日は今度の俺は一味違う!って言ってたのに」
緋翠「お父さんどこが一味違うの?」
暦「ぐぬぬ・・・それは・・・」
  その時、また目眩がした。
琥珀「・・・あなた? まさか・・・」
暦「・・・いや、どうやら俺はここまでみたいだ」
緋翠「そんな!」
琥珀「あなた・・・」
暦「なにしろ10回も連続でジェットコースターに・・・乗ったからな・・・」
暦「ジェットコースターは・・・こり・・・ごり・・・だ・・・」
  そして暦は倒れてしまった。
マキ「やれやれ、この世界の暦は情けないにゃ」
マキ「・・・神様みたい、ねぇ」
マキ「もし私が神の中でも邪神だとしたら・・・?」
マキ「なーんてにゃ! ぶっ倒れた暦を背景に写真撮るにゃ〜」
  マキが何者なのかは分からない。
  しかしこの世界の暦も琥珀も救われた。

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