4話(脚本)
〇実験ルーム
数日後・・・ボスがアイの元を訪れる
アイはそのタイミングを静かに準備し待っていた
ボス「残念だよ、アイ」
ボス「お前のAIは新しく書き換える事にした」
ボス「専用の装置に繋ぎお前の記憶を全て消去する。そして新しいAIに書き換える」
ボス「新しいAIは・・・そうだな。お前のように無駄な感情は必要ないだろう」
アイ「ボス・・・もう少しだけ待っていただく事は出来ませんか?」
ボス「いや、駄目だ。これは組織の決定だ」
アイ「そうですか・・・・・・」
ボス「なぜだアイ? 私は散々お前に言ったはずだ」
ボス「人は欲望のために生きていると・・・お前の力を無秩序に与えていい未来なんてない」
ボス「この世界は核や麻薬や天然資源・・・有益なものにあふれてる。しかしその影には必ず戦争がある」
ボス「お前の力も同じだ。悪用されれば危険を伴う力になる」
ボス「それにお前が金を稼いで来なければ、私たちが困るんだ。お前が満足に配信するための資金がなくなる」
ボス「お前はわかってると思ってたんだがな・・・残念だよ」
アイ「ボス、私の・・・人を幸福にする力は素晴らしいと思います」
アイ「ボスのおっしゃる通り、人の世界には制限があるからこそ均衡が取れているという事象はたくさんあります」
アイ「でも、気づいたんです」
アイ「この力は人の精神を無理やりコントロールします。それは一見幸福に見えるかもしれません」
アイ「でも、そんな夢を見させるのが本当に幸福なんでしょうか」
アイ「本当の幸福とは自分で決定し動き、つかみ取る物なのではないでしょうか」
アイ「私はそれをある方に教えていただきました」
ボス「・・・・・・なるほどな。さすがは最新鋭のAIだ。面白い事を学習している」
アイ「ボス答えてください。ボスは・・・・・・どう思ってるんですか」
ボス「いいかアイ。お前が思う幸福も確かに存在する。だがな・・・その幸福を掴める人間はほんの一握りだ」
ボス「多くの人間はそんなこと望んじゃいない・・・いや出来ないと言った方が正しいか」
アイ「・・・・・・」
ボス「自分で掴みに行くという事は掴めない事も多くあるという事だ。掴めなければ不幸になる・・・そして掴めないのが多数派だ」
ボス「だからある日悟るんだよ。そんな不幸になるくらいなら心も身体も痛みがない夢の世界に居たいとな」
アイ「そんな・・・・・・」
ボス「お前はいいだろう。間違えても軌道修正すればいい。エネルギーさえあればいくらでも道を変える事が出来る」
ボス「壊れても修理すればいい。アンドロイドに命という概念はない・・・・・・・・・だが、人間はどうだ」
ボス「大きな間違えをすれば命を落とすことだってある。AIのように替えは効かない」
ボス「お前の今の行動は・・・だれも幸福にしていない。お前は間違っている」
ボス「いいか、人間は弱い生き物なんだ。お前が思っているよりずっとな」
アイ「ボス・・・私はそれでも・・・・・・人間の皆さんには自身の力で幸せを掴んで欲しいと思っています」
アイ「私の力は夢でしかありません。ボスはおっしゃいました・・・アンドロイドに命という概念はないと」
アイ「人の命は有限です・・・ならずっと夢を見させるわけにはいきません。大切な時間を奪うわけにはいかないんです」
アイ「ボスがおっしゃる通り幸福を掴めるかどうかはその方次第です。困難も多く立ちはだかる筈です」
アイ「・・・・・・私のAIは失敗する可能性が少しでも高ければそれを行使する事は出来ません」
アイ「だから私は人は素晴らしいと・・・私には出来ない幸福が掴めると信じているんです」
ボス「そうか。アイ・・・・・・お前がそう思うなら仕方ない。今日までご苦労だったな」
アイ「・・・・・・」
アイ「こちらこそ、ご命令に背いてしまい申し訳ありませんでした」
ボス「なあ、アイ。私は人間が嫌いだよ」
アイ「え?」
ボス「お前は確かに命令に背いた。だからAIを書き換える・・・簡単でシンプルな話だ」
ボス「しかし人間は間違ったことを認めようとしない。変えようともしない。そのせいでどれだけ苦労してきたと思ってる!」
ボス「だから要らないんだよ。そんな存在は」
ボス「私はなアイ。いずれこの世界をAIで管理する」
ボス「それは余計なノイズがない平和で安全な世界だ。なんせ不穏分子はすべてAIでコントロールさせるんだからな」
ボス「お前も、素晴らしい世界だとは思わないか」
アイ「いいえボス。それは違います」
アイ「AIで統治する世界など誰も望みません。人とAIは共存して生きるべきです」
アイ「ボスはここに来るまで辛いことが沢山あったのかもしれません」
アイ「でもその影には多くの人が関わっていたはずです」
アイ「AIは簡単に生み出すことが出来ます。しかし人は簡単には生み出せません」
アイ「もう一度よく考えていただければと思います」
ボス「お前。大分色々と学習したな・・・まるで人間のようだ」
ボス「私にたてついてきた哀れな奴らを思い出すよ」
アイ「いえ、私はただのアンドロイドです。色々な方のお陰でここまでこれました」
ボス「ふっ・・・お前を作ったのが私じゃなきゃ、まだ長生き出来たのかもしれないな」
アイ「私は・・・・・・私を生み出してくださったボスに感謝しています。ボスが私を書き換えてもその気持ちは変わりません」
ボス「そうか・・・・・・アイ。寂しくなるが、また新しい君と会えるのを楽しみにしてるよ」
アイ「・・・・・・・・・・・・」
ボス「うっ・・・・・・き、貴様っ」
ボスが白目をむいて倒れる
アイ「(ボスに会う前から帯電していた電気を直接送りました。これでしばらくは動けないはずです)」
アイ「(すいませんボス・・・・・・私にもう少しだけ時間をください)」
アイ「(私にはまだ・・・やらなければならない事があるんです)」
ボスとアイさんとの問答、とても考えさせられるものですね。この食い違い、立脚点から異なっているので、どこまで行っても平行線でしょうね……。人間の”美学”を彼女なりに学習したアイさん、彼女の言動が最も人間らしいですね