第八話 『根暗な僕と根明な君と』(脚本)
〇おしゃれなリビングダイニング
――チッチッチッ、と
時計の音がリビングに響く。
父さんと母さん、それからおじいちゃんは
ただ静かに僕たちを見つめていた。
羽島哉人(んんッ、まるでお通夜みたい!! でも、しっかりしろ、僕・・・!)
羽島哉人(ついこの間、菅野君と一緒なら怖いもの なんてないって気づいたばっかりでしょ!?)
そう思うのに、喉が張り付いてしまった
ように、声が出てこない。
菅野薫「・・・・・・」
隣に座る菅野君が、
不意に僕の手を握った。
その手の温度に安心して、
ほんの少し前のことを思い出す。
〇高級一戸建て
羽島哉人「すぅ、はぁ。すぅ、はぁ」
菅野薫「顔、真っ青やで。先輩。 ほんま、大丈夫なんかいな」
羽島哉人「だ、だだだだ、大丈夫だよ?」
羽島哉人「た、ただ、その、家族に 誰かを紹介するってハジメテで」
羽島哉人「と、友達とかもしたことないから。 本当に、その、えっと・・・吐きそう」
菅野薫「うわ、マジか」
塀にもたれた僕の背を、
菅野君が優しく撫でる。
羽島哉人(あったかい・・・)
菅野薫「恋人になったばっかやけど・・・」
菅野薫「俺が、哉人のことは絶対守ったるで。 安心しとき?」
羽島哉人「うん・・・情けなくてごめん」
菅野薫「ははっ、そんなん今に 始まったことちゃうわ」
羽島哉人「うぐっ」
菅野薫「ええねん。かっこいい先輩も、 かっこ悪い先輩も、好きやから」
羽島哉人「・・・っ」
無邪気に笑う菅野君は
眩しくて、たまらない。
・・・そうだ、
彼がいるならきっと大丈夫。
どんなことだって、耐えてみせる。
〇おしゃれなリビングダイニング
羽島哉人(って、思ってたんだけど・・・!)
実際、父さんと母さん、
それからおじいちゃんを前にすると、
もうなんにも言えなくなってしまう。
羽島哉人(怖い怖い怖い。 目が、もうなんか怖い)
羽島哉人(こっち、じーっと見てるし、 眉間にシワ寄ってるし)
常務「なあ・・・」
羽島哉人「はっ、はい」
常務「・・・・・・」
もしかして、また・・・
詰められちゃったりするのかな?
そ、それだけはやだっ。
菅野君の前で僕・・・
もうかっこ悪いところ見せたくないっ
そう思うのに、父さんや母さんたちが
何を考えているかわからず、
不安でたまらない。
声が出せないまま、
情けなくうつむいていると・・・。
菅野薫「すぅ・・・」
隣から、小さく息を
吸い込む音が聞こえた。
菅野薫「おい、おっさんら」
「!?」
羽島哉人「か、菅野君!?」
菅野薫「急に訪ねてきたんは、すまんけど・・・」
菅野薫「よぉく聞きや」
菅野薫「こいつを誰かとお見合いさせる つもりだったんやろ?」
常務「あ、ああ」
菅野薫「ふんっ、そうは問屋がおろさへんで」
菅野薫「知っとるか? 今季の営業部のエース!」
菅野薫「一大コンペを勝ち抜いて、 最大の売上たてたんが誰か!」
菅野薫「この俺様! 菅野薫様や! この菅野様が許さへん言うてるんや!」
菅野薫「大人しゅう、お見合い計画なんて 破棄しやがれ!」
社長「・・・っ」
常務「君は、哉人の・・・?」
菅野薫「恋人や!」
羽島哉人「・・・っ、か、菅野君」
菅野薫「ほんまのことやから、ええやろ」
羽島哉人「僕は、い、いいけど」
菅野君が口を閉じると、再びしんっと
あたりの空気が静まり返る。
家族みんなの視線が菅野君に釘付けに
されていて、さすがの菅野君も居心地が
悪いらしく、身じろぎをしていた。
菅野薫「な、なんやねん、その目は」
羽島哉人(僕も・・・っ、僕も、なにか言わなきゃ。 菅野君が、ここまで言ってくれたんだから)
羽島哉人「・・・っ、父さん、母さん、おじいちゃん」
社長「・・・なんだ」
羽島哉人「か、菅野君が今話したとおり、 今、僕は彼とお付き合いしています」
羽島哉人「かっ、会社で知り合って。えっと、 僕が仕事を教えていくうちに、惹かれて」
羽島哉人「・・・僕、菅野君の明るくて、 前向きな、僕にはない・・・」
羽島哉人「キラキラしたものにあこがれて、 好きになったんです」
羽島哉人「だから・・・お見合いはできません」
常務「!」
羽島哉人「今季、一番の売上・・・ 二人だから立てられたんです」
羽島哉人「きっと! ら、来季も、その次も! 菅野君となら、がんばれます!」
羽島哉人「だから、だから・・・ 僕たちの、こと、許してくださいっ」
母「哉人・・・」
ぎゅっと目をつむったまま沈黙に耐える。
・・・と、しばらく経ったところで
小さくため息が聞こえた。
社長「はぁ・・・っ、かなとも、 もうっ、大人なんだな」
羽島哉人「!」
涙で滲んだ声に驚いて顔を上げる。
すると、おじいちゃんが
ポロポロと涙をこぼしていた。
羽島哉人「おじいちゃん・・・っ!? どうして・・・っ」
羽島哉人「な、泣かないで?」
社長「これが泣かずにいられるか・・・ふふっ。 なあ、お前たちもそうだろう?」
言われて、父さんと母さんの顔を見る。
羽島哉人「あ・・・っ」
常務「ずっと、ずっと、子供だと思っていたのに」
母「よかった、あなたは自分のこと なんにも話さないから」
母「お父さんとずっと心配していたの」
母「・・・あなたが、ちゃんと自分で パートナーを選べて、嬉しい・・・っ」
羽島哉人「父さん・・・母さん・・・ 僕ずっと・・・」
羽島哉人「みんなには、期待されてない、 愛されてないって・・・思ってた」
社長「なんでだ!? まさか、逆だろう!」
社長「こんなに、愛して、期待して、 目をかけてきたのに」
菅野薫「不器用なんやな、先輩の家族は」
羽島哉人「・・・っ、僕も含めて、だね」
菅野薫「せやな。 ちゃんと話してみたら、よかったんや」
菅野薫「・・・けど、今からでも遅くないやろ。 これからは仲良うしぃや」
優しく微笑んだ菅野君。
彼の手を握り返すと、
愛おしさがこみ上げてきた。
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