根暗なアルファと根明なオメガ ~オフィスで見つける運命の恋~

あいざわあつこ

第四話 『家族』(脚本)

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〇ボロい家の玄関
羽島哉人(た、確かに・・・確かに言ってた!)
羽島哉人(僕に家族を作ってくれるって、けど こんな意味だなんて思ってなかった!!)

〇駅のホーム
  ――数時間前
羽島哉人「ちょっ、ちょっと、待って! そんな引っ張られると、転んじゃう!」
  とある週末。
  朝イチ大きな駅に呼び出されたかと思えば
  出会った瞬間からずっと走らされている。
  しきりに時計を気にする菅野君を
  見る限り、何か電車を予約している
  ようだけど・・・。
羽島哉人(と、遠出するとは聞いていないんだけど、 どこ行くんだろ)
羽島哉人「っ、菅野君! これ、どこ行くの!? 僕、もうげんか、いっ」
菅野薫「もうちょい頑張れ、先輩! 新幹線の時間、あんねんから!」
羽島哉人「し、新幹線!?」
菅野薫「言うたやろ? 先輩に家族、作ったるって!」
  爽やかに笑う菅野君とは対称的に、
  僕の額を冷や汗が流れていった。

〇実家の居間
  ・・・そして、あっという間に今に至る。
弟5「おんぶー! おんぶー!」
羽島哉人「うえっ!?」
菅野薫「おお、適当におぶったって〜。 俺はお茶淹れるよって」
妹1「ねえねえ、羽島さんって お兄ちゃんのなんなの? お友達?」
羽島哉人「えっ、えっと」
弟1「家につれてきたんだし、コレだろ。コレ」
妹2「きゃーきゃーっ、やばーーーっっ!!」
羽島哉人「ちがっ、あっ、背中、勝手に登ったら、 だっ、ダメだよっ!?」
  かしましい妹さんたちは、僕と菅野君を
  交互に見て可愛らしい笑い声をあげる。
  それもかなり恥ずかしくて問題だけれど、
  それ以上に小さな弟さん、妹さんが
  スキあらば僕の体をすべり台にして
  遊ぼうとしてくるのがかなりしんどい。
羽島哉人(ど、どうしよう。どうしたら・・・! 怪我させたら・・・あわわ)
弟3「今度はおれ〜! おれの番〜!」
妹3「あたしもっ、あたしもぉ〜!」
羽島哉人「うぐっ、ちょっ、待って待って・・・!」
  扱い慣れない子供たちに
  もみくちゃにされる僕。
  お茶を持ってきた菅野君はちらっと
  僕を見た後、にんまりと笑った。
菅野薫「家族って、ええやろ」

〇実家の居間
  ――その夜
羽島哉人「ぜえ、はあ、ぜえはあ」
菅野薫「わはは、お疲れさんっした」
菅野薫「たいへんやったな、 昼飯から夕飯の買い出し」
菅野薫「夕飯食べさせて、風呂入れて、 寝かしつけまでゴクローさん」
羽島哉人「死ぬ、かと、思っ、た」
菅野薫「まあまあ。けど、おかげで、父ちゃんら 今日は久しぶりにデートできたみたいやし」
菅野薫「すんません、親孝行に使わせてもらったわ」
羽島哉人「あ、なるほど・・・? ううん、それはいいです」
羽島哉人「というか、お父さん、たち、 いらっしゃらないの・・・ そういうことだったんだ」
  上の弟さん、妹さんたちも明日は部活
  だとかで早々に部屋に戻ったので、
  今、リビングには僕と菅野君しかいない。
  改めて部屋の中を見回すと、そこかしこにおもちゃがちらばり雑然としているが、
  柱には背を比べる線が引かれていたり、
  壁には誰かの表彰状が貼られていたり、
  家族への強い愛情と絆が
  感じられる部屋だった。
羽島哉人(こんなおうちだから、菅野君みたいな ひとが育ったんだなぁ)
羽島哉人(・・・僕も、こんな家に生まれていたら、ちょっとは違ったのかな)
  もしも、自分が菅野君の
  家の子供だったら。
  そんなどうしようもない妄想を
  してしまい、思わず苦笑する。
羽島哉人(少なくとも、 すごく体力がある子に育ったはず)
菅野薫「あ、そろそろ帰ってくるんちゃうか」
羽島哉人「え?」
  ――ガチャガチャ
  鍵が回る音がして、
  玄関から足音が聞こえる。
羽島哉人「えっ、あっ、あっ!? 待って、菅野君、僕、手土産とか」
菅野薫「ああ? いらんいらん、そんなもん」
羽島哉人「やっ、いない間に帰るのかって 思ってたから! 僕、心の準備が!」
菅野薫「わはは、そんなのが必要な 相手ちゃいますよ」
羽島哉人「え、ええええ!」
  ドアがキィと音をたてて開く。
  と、すごい勢いで人影が飛び出してきた。
パパ「わああっ、薫くーんんっ、 今日はありがとう!」
菅野薫「うぐっ!?」
お父さん「パパ、抱きつき終わったら 次はお父さんの番だからね!」
菅野薫「ちょお、苦しいて、アホ。 お客さん、来てんねん。自重せえや」
パパ「え、お客さん?」
お父さん「!?」
  二人の視線が僕を捉える。
  バツが悪くなって、
  思わずパッと視線をそらしてしまう。
羽島哉人「お、お邪魔、しておりま、す」
パパ「えええええ〜〜〜っっ! 待って待って! 薫君、彼氏!? ねえ、彼氏!?」
羽島哉人「あ、ちが──」
お父さん「お父さん、聞いてなかったな・・・」
お父さん「今日は薫君ひとりだけで帰ってくると 思ってたんだけど・・・」
羽島哉人「え」
菅野薫「え? 言い忘れとったっけ? すまんすまん」
菅野薫「この人は、俺の会社の先輩。 羽島哉人さんっちゅうねん」
菅野薫「先輩、こっちがオメガのパパ、」
菅野薫「で、こっちがアルファのお父さん、な」
  そう聞くやいなや、パパとお父さんは
  すごい勢いで僕に向かってくる。
  そして手を握って、
  ぶんぶんと振り回した。
パパ「いつもうちの薫君が お世話になっております!!」
お父さん「すみません、まさか会社の先輩を子守に 狩り出してるとは、つゆしらず・・・」
お父さん「しっかり夜までデートしてしまいました」
羽島哉人「あ、いえ・・・その、えっと、僕は」
菅野薫「先輩、困ってるやんけ。やめえや」
  菅野君の言葉に、パパとお父さんは
  困ったように顔を見合わせた。
パパ「でもねえ、薫君が人を連れてくるなんて 珍しいし。ついつい」
羽島哉人「そう、なんですか?」
羽島哉人(なんか、なんだろう・・・ すごく、うれしい)
お父さん「そうなんですよ、関西に引っ越してから お友達できるまで」
お父さん「すごく時間がかかったせいかなって、 責任感じてたんですけど」

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