根暗なアルファと根明なオメガ ~オフィスで見つける運命の恋~

あいざわあつこ

第三話 『家族を作ったる』 (脚本)

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〇オフィスのフロア
社長「だから言っているだろう! それでは達成目標にしか届かないと!」
社長「お前ならもっとやれる、そうだろう?」
羽島哉人「はい・・・」
  気まぐれで営業部へとやってきた
  社長であるおじいちゃん。
  皆の前での喝も、
  いつもどおりだとわかっている。
  それに、そもそも期待に応えられない
  自分が悪いのだ、と理解している。
羽島哉人(だけど・・・今は)
菅野薫「・・・・・・」
羽島哉人(菅野君に、見られたくないな)
  後ろに立っている菅野君の
  表情はわからない。
  でも、僕ならこんな先輩、嫌だと思って
  しまうから、きっと軽蔑の眼差しを
  向けているのかも・・・。
  そう思うと、彼の表情がわからない
  位置に立っているのは、
  却ってよかったかもしれない。
社長「わかったな? それもこれも、お前に期待しているからで」
羽島哉人「はい──」
菅野薫「お言葉ですがおっさん」
羽島哉人「えっ、ちょっ」
菅野薫「いやおっさんちゃうわ、じいちゃん」
社長「お前は・・・」
菅野薫「営業部へとやってきた期待のエース、 菅野薫っす!」
社長「ああ、君がそうなのか」
  おじいちゃんの瞳が細められる。
  その顔は獲物を前にした猛禽類みたいで、
  空恐ろしい。
羽島哉人「こっ、この子は、 最近入ったばかりの後輩で・・・!」
  にわかにざわつく部内。
  僕が怒られているときに、
  わざわざ割って入るような人間は
  今まで誰一人としていなかったのだ。
菅野薫「先輩は! しっかり、頑張っとります!」
菅野薫「ちゃんと後進育成もして、その上で 達成目標にもちゃんと手が届いて!」
菅野薫「エライやないですか! なんでいじめるんすか!」
社長「いじめ・・・だと?」
羽島哉人「だっ、大丈夫だから! 僕は・・・っ」
菅野薫「せやで、じいちゃん! これは立派ないじめっすよ! よう、覚えとき!」
羽島哉人「か、菅野君、この人は・・・っ」
菅野薫「先輩、こんな人の言葉、 聞かんでいいっす!」
菅野薫「ほら、俺と一緒に外回り行こ!」
羽島哉人「ちょっ、あっ」
  僕の腕をひっつかんだ菅野君が、
  ずんずんと歩き出す。
  その力は想像以上に強く、驚いてしまう。
羽島哉人(おじいちゃん、ごめん!)
  慌てておじいちゃんにジェスチャーで
  謝罪するが、ちゃんと届いたかは
  わからなかった・・・。

〇公園のベンチ
菅野薫「はあああ!? あれ、社長やったんかー!?」
羽島哉人「知らなかったんだ」
  公園までやってきたところで、
  菅野君に事情を説明する。
  ベンチにどかっと腰掛けた彼は、
  ほうけた顔をしていた。
菅野薫「俺ぇ、社長に啖呵切ったんすかー」
羽島哉人「ごめん・・・。 説明、しておけばよかった、ですね」
菅野薫「んにゃ、説明されたとこで 俺のやったことは変わらへんし」
羽島哉人「え?」
菅野薫「社長だろうと、理事長だろうと、 ソーリ大臣だろうと」
菅野薫「あんなこと言わせとったらあかんで!」
羽島哉人「・・・っ」
菅野薫「あんたはやることちゃんとやってんすよ!」
菅野薫「誰より見やすい資料作って、定時で ちゃんと帰って、スーパー社員やで!?」
菅野薫「ちゃんと言い返さんとダメっす!」
羽島哉人(僕が、おじいちゃんに言い返す・・・? 考えたことも、なかった)
菅野薫「あんたはちゃんと 正当な評価を受けなあかんで」
羽島哉人「ありが、とう。 でも・・・」
菅野薫「でもやない! しっかりしぃ」
  バシッと背中を叩かれて、
  痛みに顔をしかめる。
  だけど、なんだか背筋が伸びた気持ちだ。
羽島哉人「うん・・・頑張って、みる」
羽島哉人「おじいちゃんに、 ちゃんと言い返せるように」
菅野薫「え? なんて?」
羽島哉人「おじいちゃん?」
菅野薫「おじいちゃんて、ガチのガチの? 祖父的なやつ?」
羽島哉人「え、はい。 僕の父方の祖父です、おじいちゃん」
菅野薫「うおぁ〜〜〜っっ!」
  突如叫んだ菅野君に、身構える。
  彼は頭を抱えてしばらく叫んだ後、
  大きく息を吐いた。
菅野薫「あー、合点いったわ。せやから、 あんなに先輩にだけうるさかったんか」
菅野薫「なんや理由なく いじめられとんのかと・・・」
羽島哉人「いじめ・・・って、 あ、気づいてなかったの?」
羽島哉人「僕、えっと、羽島、哉人」
菅野薫「はねしま・・・はね・・・! 弊社、羽島堂や!」
羽島哉人「あ、ハイ。 だから、気づいているだろうって勝手に」
菅野薫「気づかへんて・・・ みんな、ちゃんと教えてや・・・」
菅野薫「ごめ、人の家庭にズカズカ踏み込んで」
菅野薫「ほんまのじいちゃんやったんなら、 話は別やわ」
菅野薫「俺が勝手に突っ込んでええことやない」
  頭をペコペコと下げる菅野君を、
  慌てて制する。
羽島哉人「い、いいよ! 謝らなくって」
菅野薫「でも、家庭っていろんな形あるやろ? すまんかった」
  真っ直ぐに僕を見つめて謝る菅野君に、
  ふっと興味がわいた。
羽島哉人「あの、菅野君の家ってどんな感じ・・・?」
羽島哉人「ぼっ、僕はその、あんまり、 家族仲、よくないし」
羽島哉人「おじいちゃんとも、あんなだから」
菅野薫「うーん・・・うちは、オメガとアルファの 組み合わせなんやが、男と男やねん」
羽島哉人「えっ、あ、そうなんだね」
菅野薫「うん、ほんで子供は俺を筆頭に8人」
羽島哉人「はちっ!?」
菅野薫「まあ、兄弟同士で喧嘩もすごいで。 一番下はまだ幼稚園児やしな」
菅野薫「大変なことも多いけど、 まあほんでも仲良しっちゃ仲良しやな」
菅野薫「弟も妹もめっちゃかわいい」
  そう語る顔は、優しいお兄ちゃん、
  のものだ。
  菅野君は、本当に
  コミュニケーション能力が高い。
  嫌味のない明るさと距離感の詰め方で、
  クライアントからの評判もとてもいい。
羽島哉人(きっとあったかい家庭で育ったんだろうな)
羽島哉人(大事に、思い合って 生きてきたんだろうな)
羽島哉人「羨ましい、な」
菅野薫「・・・!」
  思わずこぼれた言葉。
  何故か菅野君は少し考え込む。
  そして・・・。
菅野薫「せやな、うん。 ええで、先輩にも家族、作ったる」

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