第一話 『出来損ないアルファ』(脚本)
〇綺麗な教会
〇教会の控室
羽島哉人「すぅ・・・はぁ・・・」
羽島哉人(やばい、緊張する)
手を握って、開いて、握って開いて。
何度も繰り返すけれど、
指先は冷え切ったまま、
一向に温まらない。
羽島哉人「・・・・・・」
鏡に映る自分は、白いタキシードに
身を包んでいる。
羽島哉人(似合ってる、かな)
緊張から、ふと不安になるけれど、
きっと“彼”なら似合っていると
笑ってくれるはずだ。
羽島哉人(そうだよ。 もう、卑屈な自分は捨てるんだ)
羽島哉人(だって、こんな僕だって・・・ ――運命の恋ができたのだから)
コンコンッ
控室のドアが無遠慮にノックされる。
思わず、頬が緩んだ。
だって、このドアの向こうには・・・。
〇豪華な社長室
社長「この大馬鹿者が!」
羽島哉人「・・・っ」
社長「こんな数字じゃ満足できるわけが ないだろう」
社長「もっとしっかりしろ、哉人(かなと)!」
羽島哉人「あの、でも・・・えっと、 売上成績も人並みには」
社長「人並みじゃダメだろう!?」
社長「だいたいお前は態度も卑屈で、 そんなんじゃ営業先だって不安になる!」
社長「お前はこの老舗である、 羽島堂の三代目を継ぐんだ」
社長「今からそんなんでどうする! 化粧品会社だっていうのに顔も隠しおって」
羽島哉人「はい・・・すみません、でも前髪は」
社長「でもでもなんでもない!」
社長「まったく、アルファのくせに・・・。 この出来損ないめっ」
羽島哉人「・・・はい」
〇黒背景
この世界には、
男女以外にも3つの性別がある。
特に個性のない、大多数のベータ。
それから、容姿、知能ともに優れた
アルファ。
そして、男女問わず子を生む性、オメガ。
羽島哉人(そう、そして信じられないけれど)
羽島哉人(僕は・・・ 優秀とされるアルファのはずなんだ)
〇オフィスのフロア
羽島哉人「はあ・・・」
羽島哉人(おじいちゃん・・・じゃなかった、 社長、今日も今日とて、 めちゃくちゃ怒ってたなぁ)
先程の叱責を思い出しながら、
無心で手を動かす。
同僚1「あの、羽島(はねしま)さん、この書類」
羽島哉人「あ、終わってます。 これです・・・どうぞ」
同僚1「あ、ありがとうございます。 えっと、これは・・・」
羽島哉人「分類はCです。 詳しくは須崎部長に聞いてください。 部長の担当です・・・ので」
同僚2「あの羽島さ」
羽島哉人「こちらですよね。押印、終わってます」
同僚2(すご・・・!)
画面を見ると、18時ジャスト。
・・・定時を迎えていた。
羽島哉人「それでは、お先に失礼します」
机の上をまとめ、立ち上がる。
すると、周りにいた同僚たちが
小さく頭を下げた。
同僚3「さすが、アルファ・・・」
同僚2「それ言われるの、嫌うらしいぞ」
同僚3「そ、そうなんだ」
同僚1「それにしてもさ・・・」
同僚2「とっつきづらいよな」
同僚1「なあ」
クスクスと笑う声が聞こえて、
胸がぎゅっと痛くなる。
羽島哉人(なにを話しているのかは わかんないけど・・・)
羽島哉人(笑われると、悲しくなる・・・落ち込む)
出口に向かっていると、
入れ替わりで外回りから戻ってきた
部長に、声をかけられた。
須崎部長「羽島君、ちょっと頼みがあるんだよ」
羽島哉人「頼み、ですか・・・? いや、でも」
須崎部長「今度、大型コンペがあるだろ?」
羽島哉人「ああ、はい・・・行政との、ですよね」
須崎部長「そうそう、それ! それ、君が担当だったろ?」
羽島哉人「資料制作・・・のみ、の予定です」
須崎部長「わはは! 君の資料は見やすいからな! でさ、そんな君の腕を見込んで!」
羽島哉人「嫌な予感がします」
須崎部長「関西支店からくる新人、 アシスタントとして育ててよ!」
羽島哉人「むっ、無理」
須崎部長「菅野君っていうんだけど、 元気いっぱいでいい子そうだったからね」
羽島哉人「いやあの、絶対、そういうの向かな・・・」
須崎部長「それじゃ、よろしく! 帰るとこだったんだよね? おつかれさん!」
羽島哉人「いや、待っ・・・!」
自分なりには声を張ったつもりだが、
部長にはまったく届かない。
そのまま調子のいい彼は、女子社員たちに
お土産を配りに行ってしまった。
羽島哉人(女子社員たちには、外回り行くたびに お土産を買ってくるのに)
羽島哉人(僕にはその1万分の1も 気を使ってくれない・・・)
同等に気を使ってほしい、
というわけではないが、
なんだか物悲しくなってきてしまう。
羽島哉人(・・・帰ろ)
〇高級一戸建て
羽島哉人「ただいま、戻りました・・・」
〇おしゃれな玄関
母「おかえりなさい、哉人さん」
羽島哉人「・・・はい」
母「お父様はまだです。 食事の時間まで、自室にいなさい」
羽島哉人「はい」
冷たく突き放すような物言いに、
思わずうつむいて、
そのまま自室へと向かう。
〇一人部屋
羽島哉人「・・・疲れた」
つぶやいて、ベッドに突っ伏す。
僕の家は、ほとんどがアルファ性。
僕も、もれなくアルファとして
生まれたけれど・・・。
羽島哉人(父さんと母さんから見れば、 僕は・・・出来損ないなんだろうな)
羽島哉人(おじいちゃんも、よく言うし)
羽島家の恥なんだろう。
それを証拠に、ここ数年、どころか、
生まれてこの方、父母に微笑みかけ
られたことなんてほとんどない。
羽島哉人(ああああ・・・。 ダメだ、考えてたらどんどん、 悲しく、つらくなってくる)
どうにか気分転換をしよう、と思い、
ベッドの下にしまいこんだ
本を一冊取り出した。
羽島哉人(我ながら、まるでエロ本みたい)
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