幸福な配信

司(つかさ)

3話(脚本)

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〇幻想
  翌日・・・・・・アイの配信に再度シンゴが訪れる
アイ「あ・・・シンゴさんっ」
シンゴ「『またアイさんの歌が聞きたくて来ました』」
アイ「その・・・お身体の調子はいかがでしょうか」
シンゴ「『アイさん実は・・・言いにくいんですけど・・・・・・』」
シンゴ「『今日は、アイさんにお別れを言いに来たんです』」
アイ「え?」
シンゴ「『まだほとんど配信にも来てない自分が言うのは正直・・・おこがましいんですが』」
シンゴ「『来週の・・・丁度今くらいの時間から手術の予定で』」
シンゴ「『その手術・・・・・・あんまり成功率が高くないんです』」
シンゴ「『だから手術が終わるまでは、もうここに来るのは止めようかと思って』」
アイ「手術ですか・・・成功率が高くないってそれはあの、大丈夫なんでしょうか」
シンゴ「『大丈夫かどうかと言われたら・・・あまり大丈夫じゃないかもしれません』」
シンゴ「『手術に失敗すれば・・・僕は多分死んでしまうんだと思います』」
アイ「そんなっ・・・・・・そんな危ない手術をなぜやられるんですか?」
シンゴ「『前に言いましたよね。僕は長くは生きられません・・・でも手術が成功すればもう少し長く生きられるかもしれない』」
アイ「でも・・・・・・せっかくシンゴさんと知り合えたのに、あなたが危険な目に合うのは辛いです」
アイ「あなたは私を好きだと言ってくれた。私の歌を美しいと言ってくれた。とても嬉しかったんですだから」
シンゴ「『――僕・・・・・・アイさんと出会って思ったんです』」
シンゴ「『今までの僕は、どんどん弱っていく身体を前に希望なんて持ってなくて』」
シンゴ「『何をしてもつまらないし、このまま自分は死ぬんだなって。他人事のように考えていました』」
シンゴ「『でもあなたの歌を聴いた時、また生きたいと思ったんです』」
シンゴ「『生きてれば素晴らしい事があるんだなって、ならもっと素晴らしい事を探してみたいなって。あなたの歌を聴いて気づきました』」
シンゴ「『アイさんに会えて・・・・・・僕はやっと勇気が出たんです』」
アイ「・・・ありがとうシンゴさん。でもごめんなさい。私はまだ信じられないんです」
アイ「だってシンゴさんは私の姿を見ていない。見ていないのにどうして私の声があなたに届いたのか・・・わからないんです」
シンゴ「『アイさん。目が見えない世界というのはとても孤独なんですよ』」
シンゴ「『大好きだった人の顔も、大嫌いだった人の顔もどんどんおぼろげになっていく・・・・・・それは不安だし怖いし悲しいんです』」
シンゴ「『だから知っている人の声を聞くと嬉しい反面辛いんです。僕はいつかこの人の顔を忘れてしまうんじゃないかって』」
シンゴ「『でもねアイさん。あなたの事は忘れない』」
アイ「え?」
シンゴ「『あなたの姿は見たことがないから・・・僕には想像出来るんです。僕の頭の中では、あの時あなたの姿が見えた』」
シンゴ「『黒い長髪がキラキラと光っていて、小顔で笑顔がとてもかわいらしくて、配信では白いドレスに身を包んでいるそんな姿が』」
シンゴ「『そんな綺麗なアイさんが背中を押してくれたんですよ。だから僕は前に進めます』」
アイ「そうだったんですか。私の・・・姿が」
シンゴ「『でもあくまで僕の勝手な妄想なので、違っててもあまり怒らないで下さいね』」
アイ「いえ・・・・・・私の姿を想像してくれてありがとう。シンゴさん」
シンゴ「『・・・・・・じゃあ、今日は早いですがそろそろ失礼します』」
シンゴ「『また・・・手術が終わった後に』」
アイ「(私は・・・シンゴさんを騙しています。彼の純粋な言葉で私の罪悪感が浮き彫りになっていきます)」
アイ「(シンゴさんのためにすべてを告白するべきなんでしょうか・・・でも、やっと決意した彼を前にすると言葉が出ません)」
アイ「はい・・・」
アイ「手術が成功する事を願っています」
アイ「(だから私は、彼を刺激しない言葉を選んでしまいます)」
シンゴ「『ああ、そうだ。アイさん最後に一つだけ』」
アイ「なんでしょう?」
シンゴ「『僕が今度来た時にはちゃんと、お金受け取ってくださいね』」
シンゴ「『あなたにはそれだけの物をもらってるので』」
アイ「(わたしはその文章を見てボスの言葉を思い出していました)」
アイ「(『人を幸福にして、その代わりに対価を頂いているだけ・・・・・・』)」
アイ「(本当にいいんでしょうか。シンゴさんからお金をもらっても)」
アイ「・・・・・・すみませんそれは、考えさせてください」
シンゴ「『強情ですねあなたは・・・それじゃ』」
  シンゴが配信から去る
アイ「(私は・・・力が機能していない私は・・・・・・シンゴさんに幸福を与えられているんでしょうか)」
アイ「(・・・シンゴさんの生き方に恥じない素晴らしい歌をうたいたい)」
アイ「あ・・・・・・」
アイ「(歌をもっと上手くうたいたいと思ったのは初めてでした)」
アイ「(配信を始めてから私は自分の力に甘え、見た目も歌も心からいい物を目指そうとはしていませんでした)」
アイ「(もし・・・シンゴさんが私の催眠術のような力にかかっていたらどうなっていたんでしょうか)」
アイ「(そうなったら彼が手術を受けようと決意する未来も、私を・・・私の歌を好きだと言ってくれる未来もなかった筈です)」
アイ「(私も、今のような気持ちになる事はなかったでしょう)」
アイ「(もちろんそれは偶然です。シンゴさんがこの配信に来なければそもそも何も変わる事はありませんでした)」
アイ「(でも・・・・・・その奇跡は起きたんです)」
アイ「(私の力が効いてない・・・・・・それでも本心で私を好きになってくれて、歩き出したシンゴさん)」
アイ「(それは、初めて見る人が・・・本当の幸せを掴もうとしている姿だと思いました)」
アイ「(私は間違っていたんです。AIは失敗する可能性が高い選択肢を選ぶ事は出来ません)」
アイ「(失敗のない幸福な世界を見せる事が・・・正しいんだと思っていました)」
アイ「(そんな事ありません。人は素晴らしいんです・・・・・・私に出来ない決断が出来るシンゴさんのような方が集まれば)」
アイ「(きっといい未来が待っているはずです)」
アイ「(だから私も・・・覚悟を決めないといけません。このままで終わらせるわけにはいきません)」

次のエピソード:4話

コメント

  • AIであるアイさんの気持ちを変えてしまうシンゴさんの純粋な想い、ステキですね!アイさんの葛藤、人間よりもニンゲンらしい様ですね

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