エピソード21(脚本)
〇個別オフィス
紫苑と北澤は社長室で蛇淵(へびぶち)の不正の証拠を探していた。
松山紫苑「本当に何も知らないんですか?」
北澤瑛士「うーん、確かに売れそうになったのに不自然に消えて行った子たちは居たかもしれないけど・・・」
松山紫苑「なんか些細な事でもいいんです。 あと菜々美の契約書も怪しい」
松山紫苑「この前菜々美に渡されたコピーには大きく『アダルトビデオ等への出演』と書いてあったみたいで」
松山紫苑「あんなの見逃す筈が無い・・・つまりニセモノを菜々美に見せたんじゃないかって」
松山紫苑「その証拠を掴めれば、まず一つ、私文書偽造で訴えられます」
北澤瑛士「・・・なるほど。さすが紫苑だね。 その原本、探してみる価値は大いにあると思う」
松山紫苑「それはどういう?」
北澤瑛士「・・・ごめん、俺、社長に数千万借金してて、背いたら全額返済しないといけないんだ」
北澤瑛士「だから黙ってたんだけど、やっぱり、もう言う! 」
北澤瑛士「俺、見ちゃったんだ。 社長が菜々美の契約書を改ざんしているところを」
松山紫苑「えええええっ!?」
北澤瑛士「黙ってて本当にごめん」
松山紫苑「・・・いえ。事情は人それぞれですから」
北澤瑛士「・・・ありがとう」
松山紫苑「それより、何か他に社長の行動で違法性のありそうなものはありましたか?」
北澤瑛士「ああ、小学生ユニットの『じんじゃあスメルズ』なんだけど・・・」
北澤瑛士「いつでも撫でられるアイドルっていうのがウリでね」
松山紫苑「撫でられる?」
北澤のことばに紫苑は思わず顔をしかめる。
北澤瑛士「でも実際には、抱っことか、ほっぺにチューとか、許可されてる以外のことをするファンの人も居てね」
北澤瑛士「あの子たち可哀想だったよ。 将来トラウマになっちゃうんじゃないか、おじさん心配」
松山紫苑「ふーん、それもちょっと児童福祉法違反の香りがしますね・・・他には?」
紫苑は北澤の話を聞きつつ、蛇淵のパソコンを開いた。
〇ホールの舞台袖
一方、菜々美は舞台袖から紫苑に電話をかけていた。
何回目かで、ようやく電話が繋がる。
大野菜々美「ヤバいよ! 映像長すぎて、社長居なくなった」
え? トイレじゃなくて?
大野菜々美「わかんないけど・・・。 そろそろ観客も飽きてザワついてきてるし、限界かも」
大野菜々美「ねぇ、契約書は? 証拠は見つかった?」
それがまだ・・・
大野菜々美「何やってんの!?」
あと二十分! あと二十分繋いでおいて!
大野菜々美「えええ! そんなに!?」
菜々美が客席を見ると、席を立ち、帰ろうとしている客がチラホラ出始めていた。
出口に向かう観客たちの中に見覚えのある影を見つける。
大野菜々美「居た! ううう、よーし!」
蛇淵を見つけた菜々美はステージへと飛び出した。
〇コンサート会場
大野菜々美「ハイ、ここで『ナナミンゴの一発芸、何回デキルカナ?』のコーナー行きまーす☆」
出口に向かっていた観客たちが振り返り、座席に戻り始めた。
蛇淵も自分の席に戻る。
大野菜々美「まずは、おなじみ『一人マシュマロキャッチ、何個入るかな?』いきまーす! 」
大野菜々美「はい、いーち!」
いーち!
大野菜々美「にーぃ」
にーぃ
観客の掛け声とともに菜々美は次々と口の中にマシュマロを入れていく。
大野菜々美「じゅうくー」
じゅうくー
大野菜々美「う、ゲホゲホ・・・」
あまりの量に菜々美はこらえきれず、マシュマロを口から出してしまう。
ハッピィ山田「ナナミンゴ頑張れぇ!」
がんばってー!!
客席から観客たちが声援を送る。
大野菜々美「ありがと! 」
大野菜々美「もう一度! いーち!」
いーち!
〇コンサート会場
大野菜々美「次は逆立ちで客席まわります!」
おおおおお!
菜々美は笑顔のまま逆立ちをして客席へ降りて行った。
客席を進んでいると、ふとあることに気付く。
──座っていたはずの席に、蛇淵の姿が見当たらない。
大野菜々美「えっ、やばい!」
〇寂れた雑居ビル
〇個別オフィス
紫苑と北澤は探し出した資料をまとめていた。
松山紫苑「あった! これだけあれば、もう戻れる!」
北澤瑛士「しかし、社長がこんなにも悪いことしてたなんて・・・」
ギイイ
そのとき、事務所の入り口を開ける音がした。
「!!」
甲高い靴音が徐々に大きくなっていく。
紫苑は慌ててまとめた資料を鞄に詰め込んだ。
「北澤! どこに居る?」
北澤瑛士「はーい! 掃除してますが~?」
北澤は蛇淵の呼びかけに返答しながら部屋の隅に移動する。
そして本棚の前で立ち止まると、本棚を横から押し始めた。
人ひとりが通れるぐらいのスペースが出来ると、北澤が紫苑を手招きする。
紫苑が北澤の元に駆け寄ると、本棚をずらしたスペースの奥に隠し階段があった。
北澤瑛士「社長が逃げるように作った階段だ。 下からは入って来られない。急げ!」
松山紫苑「ありがとう北澤さん! 本当にありがとう!」
紫苑は北澤にお礼を言うと大急ぎで階段を駆け降りた。
ゴトッ
その拍子に紫苑は懐から何かを落としたが、かまわず駆けて行った。
紫苑が階段を降りたあと、北澤はすぐに棚を閉め始める。
北澤が本棚を元に戻すやいなや、蛇淵がドアを開けて部屋に入ってきた。
蛇淵雅子「・・・・・・」
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