聖夜にやることは

伊吹宗

聖夜にやることは(脚本)

聖夜にやることは

伊吹宗

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〇イルミネーションのある通り
「はぁ、クリスマスですねぇ」
「聖夜ねぇ」
  テレビでバラエティ番組が流れている。
  大きな広場で色とりどりのイルミネーションが輝いている様子が映し出されている。

〇クリスマス仕様の畳部屋
藤堂竜也「綺麗ですねぇ」
最上琴子「こんな寒い中、外に出る人の気が知れないわ」
最上琴子「わざわざ自分の体をいじめに行くなんてバカのやること。冬はこたつの中で丸くなるのが一番よ」
最上琴子「それにイルミネーションなら外に出なくてもこうしてテレビで見られるじゃない」
藤堂竜也「夢もロマンもないですね・・・」
  こたつの上に置かれたみかんを手に取り、丁寧に皮を剥いていく。
最上琴子「藤堂君」
  僕の名前を呼ぶ方に振り向くと、こたつの上に頭を乗せた最上先輩が口を開けてこちらを見ていた。
藤堂竜也「はい、どうぞ」
  皮をむき終えたみかんを一粒取って、先輩の口に運んでやる。
最上琴子「うん・・・うん・・・」
  先輩は満足そうに口の中のみかんを味わっている。
藤堂竜也「せっかくの記念日なのにやってることは変わりませんね」
  僕と最上先輩は付き合っているが、やることと言えば部屋でだらだらしながらテレビか映画か読書くらいだ。
  お互いにインドアな性格をしているからこのことに不満はない。
  しかし、記念日であっても変わらず無気力に過ごしていると、世間一般の恋人同士の関係とは思われないだろう。
最上琴子「だいたいクリスマスっていう文化自体、本来、日本にないものじゃない」
最上琴子「私たち日本人が祝う誕生日なんて天皇誕生日だけで十分よ」
最上琴子「クリスマスなんて盛った男女どもがまぐわうための口実に変なこじつけをしただけのイベントでしょ」
最上琴子「結局あいつらが考えてることなんてセック──」
藤堂竜也「ああ、ストップ、ストップ! 先輩のリア充僻みはわかりましたから! あとクリスマスは誕生日じゃなくて降誕日ですから!」
最上琴子「なん・・・ですって・・・」
  先輩は大きく目を見開いてこちらを見てきた。
  クリスマスがキリストの誕生日ではなかったことに対して、本気でショックを受けているようだった。
最上琴子「それじゃあなに? 日本人どもは信仰もしていない神様の誕生を祝ってるっていうの?」
藤堂竜也「そういうことになりますね。日本人が神を信仰するのかどうかには一考の余地がありますが」
最上琴子「はぁ・・・クリスマスを祝ったかと思えば、その一週間後には大晦日で一年の終りを祝って、その次の日にはお正月で新年を祝う」
最上琴子「日本人ってイベントごとに忙しないのね」
藤堂竜也「僕は良いと思いますけどね。楽しいことが多いのは。・・・・・・あっ、そろそろ食べますか?」
最上琴子「・・・ん」
  先輩が小さく頷いたことを確認すると、こたつからのそのそと出ていく。
  人工的な温もりに名残惜しさを感じながらも、遅い晩ご飯の準備を済ませた。
藤堂竜也「いただきまーす」
最上琴子「・・・いただきます」
  勢いよく麺をすする。温かいスープと鼻に抜ける出汁の香りに心が満たされていく。
藤堂竜也「はぁ、温まりますねぇ」
最上琴子「そうね、最高に日本人って感じがするわ」
  テレビでは晴れ着姿の女性がインタビューを受けている様子が映されている。
最上琴子「食べ終わったら神社に行きましょうか」
藤堂竜也「寒いなか外に出るのはバカって言いませんでしたっけ」
最上琴子「価値観というのは変わるものなのよ」
  二人は食事を終えると、食器を手早く片付け、外に出る準備を始めた。

〇線路沿いの道
  冬の深夜の外はとても寒く、先輩はコートのポケットに手を入れて体を震わせていた。
藤堂竜也「さっさと行って帰りましょう。そんなに並ばないと思いますし」
最上琴子「ほんと、忙しないわね・・・」
藤堂竜也「言い始めたのは先輩じゃないですか。クリスマスと大晦日と正月が近いのが気に食わないから一纏めにしてやろうって」
最上琴子「冷静に考えて、一緒にやったところで何か変わるわけでもなかったわね」
  1月1日の今日、僕と先輩はクリスマスと大晦日、正月を一度に味わってみるというおかしな体験をしてみた。
  特別感もなにもあったわけではなかったが、僕たち二人にとってはこれくらいのノリがちょうどよかった。
藤堂竜也「今年も一年、何事もなく過ごせるといいですねぇ」
最上琴子「去年も何もたいしたことはしなかったし、きっと今年も何もないわよ」
藤堂竜也「いや、そういう意味じゃなくて・・・」
  つかみどころのない会話を繰り広げながら、僕と先輩は夜道を進む。
藤堂竜也「今年もまたよろしくお願いします、最上先輩」
最上琴子「ええ、よろしく、藤堂くん」

〇空
  記念日なのにいつもと変わらない、なんでもない日。
  いつも通り二人でだらだらと気ままに過ごすだけの今日は、どこか特別な日に感じられた。

コメント

  • 好きな人と過ごす日は、何もなくても素敵な日ですよね。
    たしかに日本人はお祭り好きなのか、海外の風習にもよく馴染んでますよね。

  • なんでもないことがいちばんの幸せ〜。これって好きな人だからなんですよね♪好きな人となら特に何をするわけでもなく、イベントも華やかに過ごすこともなく、ただ時間を一緒に共有するだけで楽しい。私も彼と「何する?」「なにもしなくていいよっ」て感じのやりとりするので、共感できました。

  • こんなカップルもありなのかなあと思いました。やってることはすごく素敵なので、周りに文句言わずに幸せだなーって言い合えるようになるともっと素敵だなあ。

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