4話 別れ(脚本)
〇海辺
海田 風浜「――自転車を止めて、カゴから袋を取り出す」
海田 風浜「今日はプリンを親に怪しまれると思いシュークリームにしたけどきっと『美味しい~』と喜んでくれるはず」
海田 風浜「急いで彼女のマリッサの元に向かった」
海田 風浜「いつもようにゴミがまとめてあって、また彼女が拾ってくれたようだ」
海田 風浜「マリッサ、きょうは······」
海田 風浜「彼女は背を向き夕日を観ているようだった」
マリッサ「フウマ······」
海田 風浜「どうしたんだよ、早く岩影の方に······マリッサ」
海田 風浜「振り向いた彼女は笑顔なのに、瞳がいつもと違い光っている」
海田 風浜「······迎えに、きたのか?」
マリッサ「うん······だから······いかないと」
海田 風浜「そうか」
マリッサ「来ないでっ!」
海田 風浜「足を、止める」
海田 風浜「どうして······」
マリッサ「あ、あたしは人魚であなたは人間、だ、だから」
海田 風浜「······なにを、いまさら」
海田 風浜「砂浜に立つ僕と海に浮く彼女、止められても僕は彼女に近づいて行く」
マリッサ「あ、ああ」
海田 風浜「下半身は海に浸かる。それでも僕は、マリッサを抱きしめた」
海田 風浜「無理して強がるなよ、マリッサ」
マリッサ「······だって寂しいじゃない、離れる、なんて」
海田 風浜「ああ、寂しい」
マリッサ「······初めて想っちゃった、自分が人間の女性だったらって」
海田 風浜「マリッサ」
彼女も両手で抱きしめる。
マリッサ「そしたら、フウマと、ずっと一緒にいれたのに、ぐすっ」
海田 風浜「泣いてる?」
マリッサ「泣くわけ、ないじゃん」
海田 風浜「僕だって、力があれば君を守ってあげれたのに」
マリッサ「······気持ちいい、フウマはこんなに温かいのね」
海田 風浜「マリッサも、温かい······」
海田 風浜「彼女を強く抱く」
マリッサ「でもきっと出会えなかったね」
海田 風浜「どうして?」
マリッサ「あたしが人間の女性で、フウマに力があったら」
海田 風浜「そうか、そうだよな。今の僕たちだから会えたんだ······でも、でも、つらいっ」
マリッサ「フウマ!」
海田 風浜「ずっとこうしていたかった」
マリッサ「······もう、行かなきゃ」
優しく両手を離す二人
海田 風浜「また会える?」
マリッサ「······わからない、ルール破って初めてここに来たし、あたしが決められることじゃないから」
海田 風浜「そうなの、か。でも可能性がない訳じゃないんだよな」
マリッサ「······ごめんなさい」
海田 風浜「ううん、僕はまた、いつものようにゴミを拾うさ······そしたらきっとまた、君に出会える気がする」
マリッサ「フウマッ」
マリッサは髪飾りを外し、
マリッサ「持ってて、そして忘れないで」
海田 風浜「忘れないに決まってるだろ、ぐすっ」
マリッサ「······それと」
海田 風浜「ん······」
キスをする。
マリッサ「······さようなら、フウマ」
海田 風浜「マリッサ!」
海田 風浜「彼女は人の届かない海の中へ消えていった······」
海田 風浜「マリッサッ!」
海田 風浜「それでも僕はずっと黄昏る海を観る。彼女の貝を握りしめて······」
〇海辺
海田 風浜「このあと人魚マリッサの姿を見る事はなかったが僕は諦めずゴミを拾い続ける」
海田 風浜「今日も聴こえる波の音に紛れて、僕を呼びかけるマリッサを想いながら······」