嘘つきサンタはだあれ?(脚本)
〇黒
12月24日
夜太郎(──みんなが、最近おかしい)
〇クリスマス仕様の教室
林「夜太郎(よたろう)、参詑(さんた)って都市伝説は知ってる?」
参詑。人を欺き騙す、人の姿をした人でない者。
夜太郎「なにそれ」
林「騙されて、その後に殺されるんだって」
夜太郎(──本当は知っている)
林「最近、ジサツ・・・も多いし。やっぱり参詑と関係あるのかな」
ザザ。
夜太郎(耳鳴りがする。ノイローゼにでもなったのだろうか)
夜太郎「外出も気をつけないとね」
夜太郎(自殺のニュースなんて、最近一度も耳にしていない)
夜太郎(4ヶ月前からだ。みんなが取り留めのない嘘を口にするようになった)
林「ま、オレたちクリぼっちには関係ないか」
夜太郎「俺はクリぼっちじゃないよ」
平然を装って、嘘をつく。
夜太郎(クリぼっちなんて、予定が空いてると宣言するに等しい)
夜太郎(誰も信用できない。あまりにもおかしい)
夜太郎(間違いなく、参詑だ)
夜太郎(俺を殺すつもりなら、殺してやる)
林「嘘つけ、クリぼっち」
そこで、林が俺の意中の人──与宮(よみや)茉莉(まつり)に声をかけた。
林「茉莉はクリスマス予定あるの?」
茉莉「んー?」
茉莉「クリぼっちじゃないよん」
茉莉だけは俺に嘘をつかなかった。だから、好きなままでいられている。
しかし──
茉莉「ね、夜太郎くん?」
夜太郎「え?」
林「んだよ、マジでリア充かよ」
林「参詑に気をつけろよ」
夜太郎「いや、ちが──」
茉莉「私は親が警察だし、大丈夫」
茉莉「駅で待ち合わせだからねん」
有無を言わさぬ彼女の不敵な笑みに、俺は何も返すことができなかった。
夜太郎(なんでこんな嘘・・・嘘?)
〇広い改札
25日 18:00
茉莉の強引な説得もあり、結局俺は集合場所に足を運んだ。
なぜ嘘をついたのか、彼女からの返答はない。
彼女と両思いなのか?
つまり──茉莉も俺のことが好きで誘った、という線だ。
参詑?
ううん、彼女が参詑であるはずがない。
嘘・・・。
茉莉「待った?」
茉莉が小走りでやってきた。
夜太郎「ううん、今来たところ」
茉莉「じゃ、行こっか」
〇イルミネーションのある通り
そんなこんなで、俺たちはイルミネーションを見歩いたり、ご飯を食べたり、普通のデートを楽しんだ。
朗らかに笑う彼女を見て、俺は自分の気持ちを再確認する。
彼女のことが好きだ、と。
彼女は俺に嘘をつく参詑じゃない、と。
〇黒
そして、何気なく歩いていて、人気のない公園にたどり着いた頃だ。
〇クリスマスツリーのある広場
茉莉「楽しかったねん」
夜太郎「ものすごく・・・うん」
茉莉「どうしたん?」
口の中でもどかしく止まる言葉を、息を思い切り吐くように押し出す。
夜太郎「あ、あのさ」
夜太郎「最近困ってることがあって」
夜太郎「そんな中でひとりだったから、苦しくて」
茉莉「そうだったんだ」
夜太郎「だから、今日はありがとう」
夜太郎「それで、どうしてあんな嘘──」
茉莉「ところで、困ってることって?」
俺の言葉は強引に遮られた。
夜太郎「えっと、馬鹿らしいけど」
夜太郎「──参詑って知ってる?」
その瞬間、茉莉の目の色があからさまに変わった。
鋭い視線が、俺の目を射抜く。
茉莉「やっぱり、夜太郎くんが参詑なのかな」
茉莉「捕まえなきゃだねん」
夜太郎「え?」
突然の展開に、混乱が混乱を呼ぶ。状況が読めなかった。
夜太郎「あ、冗談か」
夜太郎「俺は参詑じゃないよ」
冗談で返したつもりだった。
──なのに。
茉莉「嘘」
夜太郎「え?」
茉莉「今日、何回嘘ついた?」
夜太郎「だから、言ってる意味がわから──」
茉莉「それも嘘。今起きてる連続ジサツ・・・事件だって──」
ザザ。
また、耳鳴りがした。
夜太郎「自殺? そんなの最近聞かないよ」
夜太郎「みんなしてなんなんだ」
茉莉「・・・自殺って聞こえたんだ」
茉莉「じゃ、もう確定か」
夜太郎「は? だって殺人って言ってたじゃん」
〇黒
夜太郎「・・・あれ、今なんて言った?」
〇クリスマスツリーのある広場
茉莉「・・・」
茉莉「参詑はね、人の考えや記憶を書き換えることができるの」
茉莉「騙すっていうのは、詐欺や悪戯の比じゃないの」
夜太郎「何言ってるんだ?」
茉莉は無視して続ける。
茉莉「ねえ、イエスキリストって知ってる?」
夜太郎「は? いきなりなんだよ」
茉莉「彼も参詑なんだ」
茉莉「人は生き返ったりしない。民衆の記憶を改竄したんだよ」
夜太郎「・・・」
茉莉「なんでクリスマスが12月25日かわかる?」
夜太郎「キリストが生まれた日?」
茉莉「不正解」
茉莉「あれは、キリストが初めて大規模な記憶の改竄を行なった日なんだよ」
〇雑踏
茉莉「民衆も、明らからに12月25日にキリスト信者が爆発的に増えたことに気づいて、その日はクリスマスとして記録に残った」
茉莉「参詑はね」
茉莉「人に嘘をプレゼントすることで快楽を得られるの」
〇黒
茉莉「嘘で傷つけて殺したり」
茉莉「逆に嘘で幸せにしたり、ね」
〇クリスマスツリーのある広場
茉莉「夜太郎くんは前者だった」
茉莉「現に疑心暗鬼になっていた」
茉莉「人を殺したことに耐えきれず、自らも騙したんだ」
ごくりと唾を飲み込む音が、嫌に大きく耳に入る。
茉莉「クリスマスにやってくるサンタクロースの語源は”嘘が参る”」
茉莉「参詑、なんだよ」
茉莉「最初のサンタクロースはキリストだった」
茉莉「そして──」
茉莉「今”目の前にいる”のもね」
俺は、その場に崩れ落ちるしかなかった。
つまり──俺が、参詑だということ。
自分すら欺いていたということ。
自らが行った殺人を、認めないように。
見事に俺は、何も覚えていない。
茉莉「ごめんね」
〇黒
急に視界が揺れ始め、力が抜けていく。
事前に食べたものに、睡眠薬でも入っていたのだろうか。
夜太郎(全て夢ならいいのに)
例えば、茉莉が”俺を参詑だと誤認させている”・・・そう欺いているのだとしたら──
茉莉「クリぼっちじゃないのは、本当になったねん」
〇クリスマス仕様の教室
クラスメイト「うちの学校から行方不明者が出て、そろそろ1年かぁ」
クラスメイト「殺人事件も未だに起こるもんね」
クラスメイト「今年? クリぼっちじゃないよ」
クラスメイト「茉莉さんは、クリスマスひとり?」
茉莉「クリぼっちじゃないよ」
茉莉「──ね?」
どちらが嘘をついているのかわからなかったですが、なんとなく彼女の方かなぁと思いました。
そして次の年もまた被害者を出す…ように感じるんですよね。
何で騙されたんだろ。ほんとはいい人?でも悪い人もいるのかな?
初め「どういうこと!?」と考えましたが、読み進めると深い話しだなとわかりました。記憶、これって本当に確かなものかさえもわからないですよね。