渋谷ハチ公百物語

久望 蜜

渋谷ハチ公百物語(脚本)

渋谷ハチ公百物語

久望 蜜

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〇ハチ公前

〇ハチ公前
七尋(なひろ)「妖怪の相談役の方を探しています! 誰か、相談役を知りませんか!」
  七尋が忠犬ハチ公像の前で叫ぶと、その場にいた群衆が怪訝な目を向けた。
通りすがりの女性「何、あの子?」
通りすがりの女子高生「聞いた? 妖怪だって」
通りすがりの男子高生「テレビの撮影?」
  少女がまた叫ぼうと息を吸いこんだとき、すぐ横から声をかけられた。
波知(なおき)「お姉ちゃん、頭大丈夫?」
  傍らに見知らぬ少年が立っていた。
七尋(なひろ)「ええと、お姉ちゃんは正常よ。 私のことは気にしないで、向こうで遊んでおいで?」
  少年がため息をつく。
波知(なおき)「こんな目立つことをして、妖怪が見つかると思う? こんなところで騒がれても邪魔だし、ついてきて」
七尋(なひろ)「え? もしかして、君──」
波知(なおき)「俺が相談役。波知って呼んで」

〇ファミリーレストランの店内
  場所を移し、近くのファミレスに入った。
波知(なおき)「で、何で俺を知っていたの? お姉ちゃん、妖怪?」
七尋(なひろ)「私は妖怪じゃないけど、代々木公園の桜の精に、教えてもらったの。 ハチ公像前で相談役を探せって」
波知(なおき)「お姉ちゃん、見える人?」
七尋(なひろ)「まぁ、人よりは見えるタチかな」
波知(なおき)「ハア・・・・・・普通は人間の相談なんか受けないんだけど、桜の紹介じゃ仕方ない。 俺に何の用?」
七尋(なひろ)「猫が、いなくなったの」
波知(なおき)「探偵にでも頼めば? 第一、俺は猫が嫌い」
七尋(なひろ)「ブチは代々飼われてきた猫で、猫又になりかけているのよ」
波知(なおき)「チッ。わかったよ・・・・・・。 そういう時期は不安定で、他の妖怪に狙われやすいからな」
  波知は渋々、探す気になったらしい。
波知(なおき)「その猫の匂いがするモノはある?」
七尋(なひろ)「うん。ねぇ、波知くんって、何の妖怪なの?」
波知(なおき)「俺は付喪神だよ。 妖怪と呼べるほど、個は確立していないけど・・・・・・」

〇モヤイ像
七尋(なひろ)「で、これからどうするの?」
波知(なおき)「匂いはこっちからするし、この辺はいろいろな妖怪が集まってくるから、聞きこみだ。・・・・・・おい!」
  近くを通りかかったスーツ姿の女性を呼びとめた。
スーツ姿の女性「あら、波知くん」
波知(なおき)「この猫を知っているかい?」
  写真を見せるが、女は首をふる。
スーツ姿の女性「知らないわ。ねぇ、雪ちゃん?」
  いつの間にか、一緒に覗きこんでいた高校生に声をかける。
女子高生「ん。知らない」
七尋(なひろ)「あのー、この方たちは?」
口裂け女「口裂け女よ」
雪女「雪女」
七尋(なひろ)「は、初めて見ました・・・・・・」
波知(なおき)「ありがとう、二人とも」
  二人と別れると、波知は考えこむ。
波知(なおき)「次は、河童のところかな・・・・・・」
七尋(なひろ)「河童? 渋谷に?」
波知(なおき)「渋谷川があるんだから、当然だろ」
七尋(なひろ)「だって、人間が開発していたり、水量が少なかったりするじゃない?」
波知(なおき)「川の近くで暮らしてさえいれば、大丈夫なんだよ。ほら」
  波知が、一人の男を顎で示す。
おじさん「波知くん、どうしたんだい?」
波知(なおき)「おじさん、この猫知らない?」
おじさん「ああ、コイツならさっき、あっちのほうへ行ったよ。でも、気をつけな。 あの辺はタチの悪い新参モノの牛鬼が出るから」
波知(なおき)「そっか。ありがとう、おじさん!」
  駆けだした波知に続いて、七尋も走った。

〇渋谷ヒカリエ
  人ごみの中を進んでいるうちに、急に人の気配がなくなった。
七尋(なひろ)「あれ? 波知くん?」
  ふり返るが、誰もいない。先ほどまでの喧騒が嘘のように静かで、空も暗い。
  キョロキョロしていると、一匹の猫を見つけた。
七尋(なひろ)「ブチ!」
ブチ「ニャー」
  猫を抱きしめてホッとしたのもつかの間、背後に気配がした。
  ガサガサ――。
  途端に、何ともいえない寒気がした。背後に視線を走らせると、巨大な蜘蛛の脚が一本、七尋目がけてふり下ろされるところだった。
七尋(なひろ)「あっ」
  少女の首が、蜘蛛の脚によってふき飛ばされた――かと思われた。
七尋(なひろ)「っっぶない。 夜しか飛べないんだから、ここが異界じゃなければ死んでいたわ」
  少女の首は、空中にフヨフヨと浮いたままだ。
  牛鬼が再び攻撃しようと脚を構えた、そのとき。
  ワオーン――。
  どこからともなく、犬の遠吠えがした。
  その声に、牛鬼の動きがピタッと止まった。
  ワオーン!
  もう一度声がすると、牛鬼は怯んだように後退りした。
  すると、それを追いかけるように、吹雪が襲う。

〇渋谷ヒカリエ
雪女「こらー、無闇にヒトを襲っちゃダメでしょー」
  どこか能天気な声とともに雪女が現れ、あっという間に牛鬼を氷漬けにした。
雪女「ちょっと懲らしめておく」

〇ハチ公前
  七尋が呆気にとらえて見ていると、空間が歪んで、いつの間にかハチ公像の前にいた。空も明るい。
波知(なおき)「お姉ちゃん、無事!?」
七尋(なひろ)「波知くん! さっきの遠吠えって・・・・・・?」
波知(なおき)「俺だよ。 犬の遠吠えには魔除けの効果があるから」
七尋(なひろ)「あれ? 波知くんは犬の妖怪じゃないよね?」
波知(なおき)「俺はハチ公像の付喪神だから、犬みたいなものだ。ハチ自身じゃないけどね」
七尋(なひろ)「そうだったの!?」
波知(なおき)「そんなことより、お姉ちゃんこそ、妖怪だったんじゃないか」
七尋(なひろ)「違うわ。落頭民という首が飛ぶ種族なだけで、ほぼ人間よ。 それより、ありがとう。ブチも無事に見つかったわ」
波知(なおき)「俺は何もしてないよ・・・・・・」
波知(なおき)「ここは人の思いが集まりやすいから付喪神になれたけど、まだまだ未熟だ。 周りに助けられてばかりだし・・・・・・」
七尋(なひろ)「そんなことないよ。 私一人じゃ、どうにもならなかった」
七尋(なひろ)「波知くんだから、皆んな協力してくれたの。 波知くんがいてくれたから、私は助かったの。 だから、波知くんのおかげなのよ」
波知(なおき)「それはこじつけな気がする・・・・・・。 まあいいや、また何かあったら、ハチ公前に来いよ。話くらいは聞いてやる」
七尋(なひろ)「待っててくれる?」
波知(なおき)「待つのは得意だからな」

コメント

  • なんと全員妖怪!?(笑)
    怖かったり悪意のある存在としてではなく、日常に溶け込んでる普通の妖怪たちの描写にほっこりしました☺️

  • 別の作品に例えるのは失礼かもですが、僕の好きな鬼太郎みがあって楽しく没入できました
    世界観の完成度が高く、渋谷の雑踏と妖怪の親和性の高さは思いがけない発見でした
    エフェクトの使い方もとても効果的で、ちょっとしたアニメを観ている気分になれました
    最後のハチ公に引っかけた締めも、読後の満足感が高まってとてもよかったです!

  • 面白かったです。短時間でファンタジー小説を読んだ気分になりました。登場人物もみんな個性的だけどやさしくてほっこりしました。ぜひシリーズ化して欲しいです。

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