これはクリスマスにお金を優先した少女の話(脚本)
〇クリスマスツリーのある広場
私は彼氏の寺田琢磨と口づけを交わす。
公園で、人目もはばからず。
ゆっくり唇を離して見つめ合うと、時間よ止まれって強く願ってしまう。
だが──
たくま「かなこちゃん、今日はこれから用事だったね」
かなこ「・・・・・・うん。ごめん。明日埋め合わせするからね、たく君」
たくま「ああ。楽しみにしてる」
それからもう一度優しいキスをして、
かなこ「じゃあね、バイバイ」
私はその場から駆け出した。
〇古い倉庫の中
12月24日、23時30分
かなこ「いいか野郎ども」
かなこ「今年のサンタクロース業務もあと30分で終わりだ」
かなこ「しゃかりき働けえっ」
クリスマスイブ。
私にはサンタクロース関東支部部長という冬季限定の肩書きがある。
本来ならプレゼントをもらう年なのに、
気付けば毎年担ぎ上げられている。
かなこ「でも仕方ないじゃない。 自給いいんだもの、このバイト」
構成員1「ボス大変です!」
構成員1「B地区の我孫子様宅のプレゼントが未だに準備できておりません!」
かなこ「ああん?」
かなこ「予定のプレゼントはなんだ?」
構成員1「金魚です」
構成員1「ですが未だに弊社に到着しておりません」
かなこ「おい誰だそんなプレゼントを許可した奴」
かなこ「届くかどうか以前の問題だ生き物はNG」
かなこ「今すぐに変更、至急補填しろ」
構成員1「はっ。ですが一体何を準備いたしましょう」
かなこ「ちっ」
かなこ「生魚は用意できないが、小さなアクアリウムで我慢してもらうぞ」
かなこ「T地区の弓弦様に届ける分から分けてもらえ」
構成員1「かしこまりました」
残り30分。今年も修羅場に突入していた。
〇高層ビル
株式会社プレシャスデリバリー。
昔は便利グッズの販売が主だったらしい。
だが社内で開発した転送装置が一般化し
売れに売れた。
今ではどの家庭にも設置されている。
以降も革新的な商品を販売し、
収益はうなぎのぼり。
莫大な利益を消費者に少しでも還元したいと社長が切り出したのが、サンタクロース代行。
子どもへのクリスマスプレゼント一斉転送というサービスだった。
〇古い倉庫の中
かなこ「うおおおおい」
かなこ「他に不備は無いか、よく確認しろよ社畜」
かなこ「お前ら無能が人様の役に立ちたいなら徹底して確認しろ」
かなこ「ホウレンソウを怠るな」
かなこ「些細な違和感も深堀りしろ」
「イエス、ボスッ」
かなこ(しかし、こんな年端もいかない未成年に罵られるように働く社員たちは本当に大人なのだろうか)
かなこ(社会ってよくわからん)
構成員3「ボス! 今年は計算上電力がギリギリです」
構成員3「最悪停電するかもしれません」
かなこ「んなの知るかっ」
かなこ「今は目先の業務に集中しろ脳タリン」
かなこ「余裕ってんなら、せめてサーバーだけでも確実に守ってみせろ!」
構成員3「了解であります」
構成員2「ボスッ! Y地区の日下部様用の転送装置に故障の兆しが見受けられます」
かなこ「シット」
かなこ「いちいちそんな事を言いに来るな」
かなこ「予備があるだろそっちに切り替えろクソ豚」
かなこ「迅速にスマートに、だ」
かなこ「クソ豚の汚名を晴らしてみろ」
構成員2「ぶっ、ぶひっ」
構成員4「ボスッ! こちらP地区国府津様用のプレゼント、ラッピングが上手くできません」
かなこ「おいこら貸してみろぶきっちょ」
かなこ「こうやって織り込むんだよ」
かなこ「んでリボンをバランスよく結うんだ」
かなこ「・・・・・・ざっとこんなもんだ」
構成員4「おお、流石です、ボス」
かなこ「ドジって送り先を間違えるのは絶対ナシだ」
かなこ「早く行け」
構成員4「イエッサー!」
・・・・・・本当に、大詰めで多忙だ。
〇古い倉庫の中
12月24日、23時57分
かなこ「よおーし、クソ野郎ども」
かなこ「あと3分で今年の業務が完遂される」
かなこ「例年通り転送装置は0時きっかりに作動するからな。平気だな?」
構成員1「ボス! L地区の寺田様のプレゼントが用意されておりません!」
かなこ「ああ知っている。私がそう指示した。 焦らなくていい」
構成員1「そうでしたか」
かなこ「さて、もうすぐ時間だが・・・・・・」
かなこ「今年も皆の尽力によって子どもたちに夢を届けることができる」
かなこ「喜ばれること間違いなしだ」
かなこ「子どもたちの笑顔はここにいる皆で作り出したものだ」
かなこ「誇れ。胸を張れ」
構成員3「うおおおおおおおっ」
かなこ「今年も夜遅くまでご苦労さん」
かなこ「家に帰ったら、家族にうんと優しくしろよ」
かなこ「独り身はたんと自分を甘やかせよ」
かなこ「私からの命令だ」
構成員4「イエス、ボスッ!」
かなこ「それじゃ・・・・・・」
かなこ「私はお先に、おいとましまっす☆」
業務用の服を脱ぎ捨て、転送装置へと飛び込む。
瞬間、日付が変わり転送装置が作動した。
〇本棚のある部屋
12月25日、0時00分
かなこ「たく君。今年の、プレゼントはぁ~」
かなこ「わ、た、し、だ、よっ♡」
・・・・・・
かなこ「・・・・・・え、あれ、たく君?」
〇本棚のある部屋
12月25日、8時00分
たくま「ああ、疲れた」
たくま「ちょっと寝直すか」
かなこ「朝帰りなんて、一体どんな生活してるのかな、たく君?」
たくま「えっ、かなこ!? どうしてウチに?」
かなこ「夜通しずっといたんだよ。でも、 たく君、帰ってこなかったね」
たくま「かなこ・・・・・・」
かなこ「近寄らないでっ」
――もう、無理。
思い至っていた最悪の結論。
たく君の疲弊した様子、慣れない匂い。
そして、首元のキスマーク。
かなこ「・・・・・・あはははははっ」
かなこ「この浮気者!」
たくま「ぐえっ」
顔面に思いっきりグーパンをかました。
かなこ「もう知らない絶交よっ」
たくま「うぁ・・・・・・待ってくれかなこっ。 かなこおおおおおおおおおおお!」
〇ゆるやかな坂道
私はサンタクロース関東支部部長。
かなこ「こなくそおおおおおおおおっ」
かなこ「ちきしょおおおおおおおお」
かなこ「うええええええええええええええええん」
泣きながら元カレの部屋を飛び出し、
業務のアフターケアのため会社へと赴くのだった。
〇高層ビル
数年後、株式会社プレシャスデリバリーは
敏腕女性社員によって
更なる躍進を遂げることとなる。
fin
朝帰りした彼氏は別の支部でサンタクロースのバイトをしていたというオチかと期待しましたが…。失恋にめげることなく出世したかなこ。転んでもタダでは起きないドS管理職。さすがです。
楽しく最後まで読ませて頂きました。とてもたくましい女性ですよね、勇気をもらったようなそんな感じにさえなるお話しでした。会話のテンポもよかったです。
たまにいますよね、女性に罵られるのが好きな人笑
この主人公すごいですね!
即時に代替えの案を出せるところがすごくかっこいいです!
私生活の方は…お疲れ様、みたいな感じです。