飛んでぶつかり過去に戻った俺の未来は(脚本)
〇SHIBUYA109
21XX年
全自動空中走行自動車──通称、空飛ぶ車。
その免許を取るため空路演習に出掛けたのだが、今日の生徒は厄介だ。
〇車内
タツヤ(教官)「エミル、手動ブレーキの位置確認したか?」
エミル「大丈夫。機械には強いんだから」
タツヤ(教官)「発進するときに突然猛スピード出したのは誰だ?」
エミル「あれはたまたま!」
タツヤ(教官)「ちゃんと前方確認して。空路は頭に入ってるな」
タツヤ(教官)「・・・っておい! そっちは道じゃない!」
エミル「え、嘘っ! どこが全自動なんだよ~!」
タツヤ(教官)「と、とにかくブレーキ! ブレーキだ!」
エミル「さっきから踏んでるけど止まらないの! なんか加速して・・・あああ」
目の前には渋谷のシンボル、109。
そのど真ん中に突っ込んでいくこの車。
エミル「もうダメ! ぶつかるー!」
タツヤ(教官)「あああーっ!」
〇黒背景
ガッシャーン!!
〇SHIBUYA109
──ドンッ
エミル「ったーい!」
タツヤ(教官)「俺、生きてる──」
エミル「あれ?」
エミル「何で私たち地上に? 車は? っていうか、なんか様子おかしくない?」
タツヤ(教官)「ん? 言われてみれば──」
エミル「ここ・・・本当に渋谷?」
タツヤ(教官)「・・・おそらく”何年も昔の”渋谷だ」
エミル「え?」
タツヤ(教官)「周りを見てみろ」
〇ハチ公前
〇渋谷駅前
〇SHIBUYA109
エミル「ハチ公もJRの改札も地上にある・・・」
タツヤ(教官)「そもそも、空が静かだろ」
エミル「車が一台も飛んでない」
タツヤ(教官)「な?」
エミル「時間を越えちゃったってこと?」
タツヤ(教官)「おそらくな」
エミル「いつ頃なんだろう?」
エミル「あそこにいる人に聞いてみよ~」
タツヤ(教官)「おいっ!」
エミル「すみませ~ん」
マナミ「はい?」
エミル「今って何年ですか?」
マナミ「2017年ですけど」
タツヤ(教官)「2017年・・・」
俺はふと顔をあげた。
タツヤ(教官)「え・・・エミルにそっくり」
エミル「え?」
マナミ「は?」
「ええ~!?」
〇女性の部屋
俺たちが未来から来たことを話すと、彼女は意外にもすんなり受け入れてくれ──
未来に帰る手だてを探すのに、彼女の家にお邪魔することになった。
エミル「マナミさん、これ借りますね!」
マナミ「どうぞ。未来の方には、ポンコツかもしれないけれど」
エミルは必死にキーボードを叩いている。
カタカタ──
エミル「未来のバックドア発見!」
カタカタ、カタカタ──
エミル「未来のデータ掴めました!」
タツヤ(教官)「すげえな! 一体どうやって?」
エミル「言ったでしょ、機械は得意なの!」
エミル「ちょっとハッキングしただけです~」
タツヤ(教官)「ハッキングって!」
エミル「これで帰れるかもしれないんだからいいでしょ!」
タツヤ(教官)「まったく」
エミルはその後も難しい顔でPC画面とにらめっこしている。
カタカタ、カタカタ──
エミル「ワープポイントかぁ」
タツヤ(教官)「ワープポイント?」
エミル「それが分かれば、未来に帰れると思うんだけど」
エミル「・・・ウトウト」
タツヤ(教官)「寝るなよ!」
エミル「目が疲れたの~。 1時間したら起こして・・・zzz」
タツヤ(教官)「はぁ」
マナミ「あの、そのワープポイントってのが分かればいいんですよね?」
マナミ「私にもお手伝いさせてください」
タツヤ(教官)「いや、でも・・・」
マナミ「ぐー」
マナミ「あ、やだ」
タツヤ(教官)「それなら──」
〇女性の部屋
マナミ「タツヤさん、お料理上手なんですね!」
タツヤ(教官)「いやぁ・・・」
マナミさんが手伝ってくれるお礼に、俺は手料理を振る舞っていた。
マナミ「私、料理出来ないから尊敬しちゃいます!」
タツヤ(教官)「大袈裟な。適当に切って炒めただけですよ」
マナミ「適当でこれですか!? すごすぎる!」
エミル「ん~、いい匂い~」
エミル「マナミさんと教官、ご飯食べてるしっ!」
タツヤ(教官)「これは俺がマナミさんにお礼として・・・」
エミル「お礼? 何の?」
タツヤ(教官)「ワープポイント探しを手伝ってくれるそうだ」
エミル「ええ~!? ありがとうございます!」
マナミ「エミルちゃん見てたら助けたくなっちゃって」
マナミ「それにしても、お二人は仲良しなんですね!」
「仲良くないっ!!」
マナミ「ほら、息ぴったりっ!」
マナミ「何だか、親子みたい!」
タツヤ(教官)「こんなじゃじゃ馬娘が俺の子どものわけないじゃないですか!」
エミル「教官、何気に失礼」
マナミ「ふふっ」
何だかんだ言いながらもこの後、俺たちはワープポイントとその発生時刻まで突き止めたのだった。
〇渋谷駅前
翌日
エミル「この辺りのはずなんだけど・・・」
エミルはワープポイントのデータをマナミさんのスマホに転送していた。
その位置情報を頼りに、この場所にやって来たのだが──
マナミ「エミルちゃん、見つかった?」
エミル「あ、あそこだ!」
タツヤ(教官)「スクランブル交差点のど真ん中!?」
エミル「そうみたい。 この時代は地上に人が多いから厄介だな」
タツヤ(教官)「ワープポイントが開くのは・・・」
エミル「3分後。 これを逃したら次いつワープポイントが現れるか分からない」
タツヤ(教官)「・・・」
エミル「マナミさん。スマホ、返しておきますね」
エミル「3分後、このデータは消えるように設定してあるんで!」
マナミ「もう帰っちゃうのか。何だか寂しいです」
エミル「教官は未来に帰りたい?」
タツヤ(教官)「そりゃもちろん・・・どうだろうな」
エミル「やっぱり」
タツヤ(教官)「え?」
エミル「教官はこの時代の人でしょ?」
タツヤ(教官)「どうしてそれを・・・」
エミル「この時代についた時、全然取り乱さなかったから。 むしろほっとした顔してたよ」
タツヤ(教官)「エミル・・・」
エミル「なーんてね。 本当は私、政府の極秘組織のエージェントだから」
タツヤ(教官)「は?」
エミル「時間を越えて未来に飛ばされた教官を、元の時代に戻すのが私の任務」
エミル「教官は時間を越えたことで、出会うはずだったマナミさんに出会えなかった」
エミル「だから、私が出会えるよう仕組んだの」
「じゃあ・・・」
エミル「そういうことだから! 私は未来に帰るね」
タツヤ(教官)「ちょっと待て!」
エミル「未来で待ってるよ。ひいおじいちゃん、ひいおばあちゃん」
「・・・え?」
エミルはスクランブル交差点の真ん中に向かって駆け出した。
〇渋谷駅前
〇渋谷駅前
タツヤ(教官)「ひいおじいちゃん、か」
マナミ「タツヤさん。私、タツヤさんとなら──」
マナミ「エミルちゃんに会える気がします」
タツヤ(教官)「マナミさん・・・」
〇病室
2022年
タツヤ(教官)「可愛いなぁ」
マナミ「本当ですね」
タツヤ(教官)「パパですよ~」
新しい命を迎えたこの日、俺はあの日のことを思い出した。
あのじゃじゃ馬娘に会えるのは、そう遠くない未来なのかもしれない。
ラストの展開にえええっとなりました!
ヒロインたゃんかわいいと思っていたらそんな秘密が……🥰
素敵なお話ありがとうございました!
最初のかけあいで息のあった二人だなと思いましたが、まさか最後にこうなるとは……!
いますれ違った人ともどこかで繋がってるのかな、と心が暖かくなるお話でした!
空飛ぶ車が109に突っ込む!というタイムトラベルの仕方が面白く、わくわくしながら読み進めていました。ラストも面白かったです。非日常的な話ですが描写にリアリティがあり、作中のシーンが鮮明に浮かんできました。