サンタを拾った。

入海月子

サンタを拾った。(脚本)

サンタを拾った。

入海月子

今すぐ読む

サンタを拾った。
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇広い公園
  会社帰りの公園で
  えらくイケメンのサンタを拾った。
  しかも、記憶喪失。
  明日はクリスマスイブなのに
  やばくない?
  白磁の肌にゆるいウェーブの金髪が閉ざされた目にかかっている。
  とても均整のとれた美しい顔。
立花あおい「だ、大丈夫ですか?」
  私が駆け寄ると、彼はゆっくりと目を開けた。
  宝石のような碧い瞳が私を見つめる。
  ふっと幼い日の記憶が蘇る。
  忘れられない男の子の顔が重なった。
  
  (ルディくんと一緒の色合い)
サンタ「あなたは誰ですか?」
  日本語がしゃべれるんだ!
  よかった。
立花あおい「私は立花あおい。 起きあがれますか?」
  彼は起きあがると、顔をしかめて、額に手を当てた。
  
  「僕は・・・?」
  なんと彼は記憶喪失だった。
  記憶がないのに、なぜサンタだって、わかったか?
  だって、サンタ服の上、そばでトナカイがオロオロしてたから。
  しかも、しゃべるトナカイ。
  なんてファンタジー!!
トナカイ「どうしよう? ごめんなさい! 僕がサンタさんを落としたせいで・・・」
立花あおい「落とした!?」
トナカイ「僕、新人で、うまくソリが引けなくて 曲がるときにひっくり返っちゃったの。 せっかく選んでもらえたのに」
  ポロポロと泣くトナカイに、ぼんやりとしたサンタ。
  シュールだわ。
立花あおい「とりあえず、寒いから家に来なよ」
サンタ「いいんですか?」
立花あおい「もちろん! でも・・・」
  狭い部屋にトナカイなんて、入るかしらと思ったら、「大丈夫です」と言ったトナカイがみるみる小さくぬいぐるみサイズになった。
  やっぱりファンタジー!

〇女の子の一人部屋
トナカイ「社員証を失くしたのが原因だと思うんです」
  トナカイによると、サンタの社員証というのがあって、それを持っていると、プレゼントが会社から支給され、家に忍び込み放題。
  ただ、それはサンタの秘密だから、社員証を持っていないとすべてを忘れる仕組だそうだ。
立花あおい「じゃあ、明日探しに行こうよ」
サンタ「ありがとうございます!」
  クリームシチューを作ってあげると、二人とも喜んだ。

〇田舎の学校
  翌朝、私達はトナカイの案内で
  サンタさんが立ち寄った場所に
  行くことにした。
  ちなみに、ぬいぐるみサイズのトナカイはサンタさんが抱いている。
  美形サンタとリアルトナカイ。
  絵になるわ〜。
立花あおい「あれ? ここ、私の行ってた小学校だわ」
  サンタさんはじっとその小学校を眺めた。
  「なにか思い出せそう?」
  「う〜ん、大事なことがあったはずなんだけど・・・・・・」
  
  首を傾げたサンタの髪が揺れる。
  小学校の付近を探したけれど、社員証は見つからなかった。
トナカイ「次は堤防だよ」
立花あおい「堤防・・・」
  ──『特等席があるんだって!』
   
  繋がれた手。全力で走ってきた堤防。打ち上がる花火のきらめき。
  
  大切な思い出。
  架空の花火を見上げるように、サンタさんは空を見上げた。
  (まさか、よね・・・・・・)
  
   その綺麗な横顔を見つめる。
  堤防にも社員証は落ちてなかった。

〇田舎町の駅舎
  次は駅。
  引っ越しするルディくんを見送った駅。
立花あおい「(どうして・・・?)」
立花あおい「ねぇ、トナカイさん。なんでサンタさんはここに来たの?」
トナカイ「思い出の場所だって、懐かしそうにしてたよ」
立花あおい「思い出?」
  社員証を探して辺りを見回すサンタさんを見つめる。
  ──ピカピカの金髪にキラキラした碧い目の天使のような男の子。
  ルディくんは小六の時だけいた転校生だった。
  母を亡くし、忙しい父と二人暮しでさみしかった私をよく慰めてくれた。
  『私の家にはサンタさんが来なくなったの』
  
  泣きべそをかく私に『じゃあ、僕がプレゼントをあげるよ』と言ってくれた優しい子
  なのに、クリスマス前に転校してしまった。
  不思議なことにそれ以来、私の枕元にはクリスマスプレゼントが届くようになった
立花あおい「(本当にルディくんなの!?)」
サンタ「ここにもないね。大事な用事があったはずなのに・・・」
サンタ「ごめんね。君まで巻き込んで」
  私を気づかう瞳はルディくんの眼差しと同じかもしれない。
  ドキドキしながら、首を横に振る。
立花あおい「ううん。土曜日だし、会社も休みだし、暇だからいいの」
サンタ「ありがとう」
  彼の全開の笑顔に心臓が跳ねる。
立花あおい「そ、そうだ! 交番に行ってみようよ! 届けられてるかもしれない」
サンタ「そうだね」
  急に踵を返したら、足が滑った。
サンタ「危ない!」
  転びそうになったところをサンタさんに抱きとめられる。
  温かい腕に包まれた。
  至近距離で目が合って、ブワッと体温が急上昇する。
サンタ「君は・・・?」
  碧い瞳に覗き込まれて、慌てて体を離した。
  「ご、ごめんね」
  「大丈夫?」
  「うん。行こう!」
  不思議そうに私を見るサンタさんに背を向けて、交番へ急いだ。
  動悸がなかなか治まらない。

〇街中の交番
お巡りさん「あ、あなた!」
  交番に行くと、なにも言う前にお巡りさんがサンタさんを見て、叫んだ。
  そして、ゴソゴソと机の引き出しを漁る。
お巡りさん「これ、落としたでしょ?」
  お巡りさんが取り出したのは写真付きのカード。
  もちろん、サンタさんの写真だ。
サンタ「そうなんです! ありがとうございます!」
  受け取った瞬間、サンタさんは目を見開いた。
  そして、ゆっくり私を振り返る。
  碧い瞳が優しく細められた。
サンタ「やっと直接言える!」
サンタ「メリークリスマス、あおちゃん」
  ルディくんは懐かしい呼び名で私を呼んだ。

コメント

  • 発想がおもしろかったです。
    まさかサンタさんが落ちてるとは思いませんよね。笑
    転校していった後にプレゼントが届くようになったのは、やっぱり彼が届けてくれていたからでしょうか?

  • タイトルがいいですね、落とし物ではなくサンタさんを拾うだなんて。かっこいいイケメンサンタ、記憶喪失。発想が面白いと思いました。

  • サンタさんの記憶喪失の理由→ルディくんとの思い出→ルディくんがサンタさんになったわけ、と気になるところがするすると明かされていくのが心地良いです。だからこそ突然の急接近にドキッとしました。新米トナカイくんもとてもかわいいです。

コメントをもっと見る(5件)

成分キーワード

ページTOPへ