サンタクロースはもういない(脚本)
〇古めかしい和室
三枝家・和室
花に囲まれた
祭壇の上に、遺影が飾られている。
三枝章真(さえぐさ しょうま)、
祭壇の前に座り、遺影を見つめている。
三枝章真「・・・・・・」
三枝章真「くしゅんっ」
三枝加世(さえぐさ かよ)、
和室に入ってくる。
三枝加世「そこにいたら寒いでしょ」
三枝章真「大丈夫だよ」
三枝加世「お父さんも、最期まで あんたの体のことは心配してたんだから」
三枝章真「・・・・・・」
三枝加世「弔問客の人、少なかったね。 年末の忙しい時期だもんね」
幹本恵(みきもと めぐむ)、
和室に入ってくる。
三枝加世「あ、恵ちゃん。 今日はありがとう」
三枝加世「折角のクリスマスイブ、 家族でゆっくりしたかったでしょ」
幹本恵「いいの。 伯父さんとちゃんとお別れしたかったし」
幹本恵「それより、こっちに健来なかった?」
三枝加世「え? 来てないけど」
幹本恵「そう」
恵、和室を出ていく。
三枝加世「健くん、可愛いよね。 えっと、 従姉妹の子供って何ていうんだっけ?」
三枝加世「さっきも 「サンタさんにスイッチお願いしたんだ」 って楽しそうにしてた」
三枝加世「ねえ、サンタさんって 何歳まで信じてた?」
三枝章真「信じてなかった。 物心ついた時から」
三枝加世「え?」
三枝章真「でも信じたふりしてれば プレゼントもらえるし」
三枝章真「純粋な子供の方が大人は好きだろうから、 信じてるふりしてた」
三枝加世「嫌な子供だったわねえ」
三枝章真「心配させてる自覚はあったから、 こっちも親に喜んでもらえるよう、 色々気を遣ってたんだよ」
三枝加世「・・・・・・」
恵、再び入ってくる。
幹本恵「ごめん、加世ちゃん、章真くん。 健、家の中にいないみたい」
三枝加世「えっ。 もしかして、外に出ていっちゃった?」
三枝加世「ちょっと家の外見に行ってくるわ」
三枝章真「あ、じゃあ俺もその辺見に行ってみるよ」
幹本恵「うん。ごめんね」
〇商店街
幹本健(みきもと たける)、
和菓子屋の店内を外から覗いている。
三枝章真「あっ、健くん!」
幹本健「!」
健、走って逃げ出す。
三枝章真「えっ、何で?」
章真、健を追いかける。
三枝章真「ま、待って、健くん!」
三枝章真「げほっ! ごほっ、ごほっ!」
章真、咳き込み、その場に蹲まる。
幹本健「!」
幹本健「章真兄ちゃん、大丈夫?」
〇住宅街の公園
章真と健、ベンチに座っている。
幹本健「章真兄ちゃん、ごめんなさい。 大丈夫?」
三枝章真「大丈夫。 ちょっと走り慣れてなくて」
幹本健「?」
三枝章真「子供の頃、俺、体弱くて。 体育とか、いつも見学してたから」
三枝章真「そんなことより。 駄目だろ、勝手に外に出たら」
幹本健「・・・・・・」
幹本健「おまんじゅう、食べちゃったから」
三枝章真「?」
幹本健「おじさんの、お供え物を、つい」
幹本健「だから、代わりを買おうと思って」
三枝章真「そんなこと、気にしなくていいよ。 ほら、帰ろう」
幹本健「・・・・・・」
三枝章真「分かったよ。 じゃあ、一緒に買って帰ろう」
幹本健「! うん!」
〇市街地の交差点
章真と健、並んで歩いている。
健はケーキの入った箱を抱えている。
幹本健「おまんじゅうじゃなくて良かったの?」
三枝章真「いいんじゃない。クリスマスイブだし。 父さ・・・・・・ おじさん、ケーキ好きだったし」
幹本健「これで、サンタさん来てくれるかな!」
三枝章真「?」
幹本健「サンタさんは、良い子のとこにしか 来てくれないんだって」
三枝章真「ああ。 えっと、大丈夫なんじゃない?」
幹本健「良かった!」
幹本健「今年は俺、サンタさんのこと 寝ないで待ってようと思ってたんだ!」
三枝章真「それは、 やめてあげた方がいいんじゃないかな」
幹本健「何で? あ、章真兄ちゃんもやったことある? サンタさん待つの」
三枝章真「まあ、あるけど」
幹本健「どうだった? サンタさんに会えた?」
三枝章真「どうって・・・・・・」
〇勉強机のある部屋
三枝加世「今日はね、寝ないで サンタさんを待ってようと思うの!」
三枝章真「やめたほうがいいと思うけど」
三枝加世「何でよ!」
三枝章真「だって、サンタさんって・・・・・・」
三枝章真「いや、ほら、夜更かしは駄目だって」
三枝加世「大丈夫だって! 章真も付き合ってよね!」
三枝章真「・・・・・・」
〇勉強机のある部屋
三枝加世「すー・・・・・・」
三枝章真「・・・・・・」
キイイ・・・・・・
部屋のドアがゆっくり開く。
三枝章真「!」
章真、寝た振りをする。
三枝克己(さえぐさ かつみ)、
部屋の中に入ってくる。
三枝克己「・・・・・・」
克己、章真と加世のベッドの横に、
プレゼントを置く。
克己、ベッドで目を瞑る
章真の顔を見つめる。
三枝克己「・・・・・・」
三枝章真「・・・・・・」
克己、章真の頭を手で撫でる。
三枝章真「!」
三枝克己「ちゃんと寝ないと、駄目だぞ・・・・・・」
三枝章真「!」
克己、部屋を出ていく。
三枝章真「・・・・・・」
〇市街地の交差点
三枝章真「・・・・・・」
幹本健「どうしたの?」
〇一戸建て
章真と健、三枝家の前まで歩いてくる。
幹本恵「健!」
幹本健「あ、お母さん」
幹本恵「勝手に外出て行ったりして! 何してたの!」
幹本健「・・・・・・」
三枝章真「健くん、父さんのために、 ケーキを買いに行ってくれたんだって」
幹本健「!」
幹本恵「え? それでも、勝手に出てくのは・・・・・・」
三枝加世「いいじゃない、とりあえず、 無事に帰ってきたんだから」
幹本恵「・・・・・・もう! 健! もうこんなことしないでよ!」
幹本健「は、はい!」
恵と健、家の中に入っていく。
三枝章真「・・・・・・」
三枝加世「章真? どうしたの?」
三枝章真「父さん、俺がサンタを信じてないこと、 気づいてたかもな」
三枝加世「え?」
三枝章真「気付いてて、 気付かない振りしてくれてたのかも」
三枝加世「何で? 言えば良いじゃない」
三枝章真「お前サンタさん信じてないだろ、 じゃあ今度からプレゼント無しな、って?」
三枝加世「言えないね、そんなことは」
三枝章真「本当、気を遣わせてばっかりだったんだな」
〇古めかしい和室
健、祭壇の前で手を合わせている。
祭壇の上に、ケーキが供えられている。
章真、健の横に正座する。
幹本健「!」
章真、遺影を見つめる。
三枝章真「・・・・・・」
三枝章真「まだまだ、 頼りなく見えるかもしれないけどさ」
三枝章真「出来れば、安心して見守っててよ」
三枝章真「もう、サンタクロースがいなくても、 大丈夫だからさ」
章真、遺影に向かい、手を合わせる。
私もプレゼントが欲しくて、サンタクロースを信じてるふりをした子どもでした。笑
でも、子どものサンタさんを信じる気持ちって大切にしたいですよね。
子供は大きくなるにつれて、サンタクロースの正体を知ってしまいます。この子供が親になるとサンタクロースになるんです。親子の愛情はいいもんですね。
子どもの頃はサンタさんを信じていて、大人になった今は子どもたちのためにサンタさんになっている私です。私たちは皆ずっと子どもではいられなくて、どこかの段階でサンタさんの真実を知り、大人になり、そして今度はその優しい世界を受け継いでいくんでしょうね。