第23話 『左手の悪魔』(脚本)
〇古い倉庫
犬伏徹「アリスさん、あなたを逮捕します」
佐川アリス「犬伏か。思っていたより早かったな」
警察官たちがジリジリとアリスに詰め寄ると、犬伏は手を上げて制した。
犬伏徹「ですが、最後に一つ聞かせてくれませんか?」
佐川アリス「?」
犬伏徹「アリスさんの過去に何があったのかはわかりました」
犬伏徹「ただ一つだけ、どうしてもわからないことがあります」
佐川アリス「・・・・・・」
犬伏徹「なぜ殺した男性の腕を切り取り、保管していたんですか?」
犬伏徹「そこから足がつく可能性を、あなたが考えないはずはない」
佐川アリス「・・・ふふっ」
佐川アリス「殺した悪魔をコレクションしていたんだ。 狩人が獲物を標本するようにな」
犬伏徹「・・・・・・」
佐川アリス「犬伏、知っているか? 悪魔は左手に宿るんだよ」
〇黒
二十年前──
〇ダイニング(食事なし)
佐川浩司「何度言っても直らねなぁ」
佐川浩司「ヘラヘラ笑うなって言っただろうが!」
アリスの父、浩司は母親の髪の毛を掴むと激しく床に叩きつけた。
部屋の片隅では、幼いアリスが恐怖でうずくまっている。
母を殴る浩司の左手には、金のブレスレットがはめられていた。
アリスはその金色に輝くブレスレットを、ただじっと見つめる──
佐川アリス「・・・・・・」
〇ダイニング(食事なし)
佐川アリス「・・・・・・」
佐川浩司「お母さん、家を出て行ったよ。 俺とアリスを置いてな」
佐川アリス「・・・・・・」
佐川浩司「自分でもやりすぎたかなとは思うんだ」
佐川浩司「けどこの左手が言うことを聞かないんだ。 俺のせいじゃない」
佐川アリス「・・・うん。わかってる」
佐川浩司「アリスは、俺を置いて行かないでくれよ・・・な?」
佐川浩司「なあ、アリス。返事をしてくれ」
佐川アリス「うっ・・・あ・・・」
佐川浩司「返事しろよ! アリス!」
浩司はうずくまるアリスを引っ張り出すと、左手で殴り始める。
佐川アリス「うわぁぁぁぁぁ!!」
〇ダイニング(食事なし)
佐川アリス「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
アリスと須藤の前には、血だまりの中に倒れた浩司の姿があった。
須藤清孝「・・・アリス、ちゃん?」
そのとき、浩司の左手がピクっと動いた。
佐川アリス「!!」
須藤清孝「心配しなくていい。 きちんと警察に説明すれば──」
佐川アリス「この人、運べるよね?」
須藤清孝「?」
〇森の中
須藤清孝「ハァ・・・ハァ・・・」
須藤がスコップで大きな穴を掘っている。
その後ろでは、アリスが息絶えた浩司の左手をじっと見つめていた。
佐川アリス「・・・!」
アリスは慌ててサバイバルナイフを取り出すと、浩司の左手に何度も突き刺す。
須藤清孝「!? いったい何を──」
佐川アリス「全部、この左手のせいだ!!」
〇古い倉庫
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