英雄親子は名誉を捨てる

筑豊ナンバー

27話「再び背中を」(脚本)

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〇戦場
アレックス・ワトソン「チッ!!」
  戦闘が始まり約30分。
  色々試したがまともにダメージをあたえられていない。
アレックス・ワトソン「・・・クソが!!」
  こちらはどんどん削られている。
  体力も集中力も限界が近い。
  だが魔王は相変わらず無表情で息切れひとつしていない。
アレックス・ワトソン「・・・またそれかよ!」
  唯一魔王に攻撃が通るミカの刀も経験不足のためまともに使いこなせず魔王相手では刃を当てることすら出来ていない。
アレックス・ワトソン(どうする?どうすればコイツにかてる?)
  アレックスを押しつぶすはずだった巨大な岩は何者かに粉々に切り裂かれた。
「またせた」
アレックス・ワトソン「何やってたんだ!クロ!!」
クロ「お前が一番嫌がることだ」
アレックス・ワトソン「テメェまさか!!」
クロ「このままじゃ行けばお前は死んでこの国は滅びお前の愛する娘も死ぬか路頭に迷うかだろうな」
アレックス・ワトソン「・・・チッ」
クロ「いいか?これは仲間としての頼みではなく上官としての命令だ」
クロ「魔王殺しの英雄と共に魔王を討て!! 異世界最強の戦士アレックス・ワトソン!!」
アレックス・ワトソン「・・・・・・わかった。ただし──」
アレックス・ワトソン「後で1回殺させろ!!」
クロ「そんな余裕があればな!!」
アレックス・ワトソン「くるぞ!!」
クロ「合図をだしら全力でヤツの左翼に走れ!!」
アレックス・ワトソン「了解!!」
クロ「今だ!!」
  岩の影までなんとか到着した。
  わざわざ敵の攻撃に合わせて移動させたのには意味があるとは思っていたが──
石白 星華「怪我は?」
アレックス・ワトソン「問題ない」
石白 星華「・・・・・・」
石白 星華「ごめんなさい。私はあなたとの約束を守れなかった」
アレックス・ワトソン「・・・もう気にしなくていい。 ミカが目を覚ましてしまったんだろ? それは俺のミスだ」
  麻酔とはいえ実の娘に後遺症が残るのは避けたかった。
  そのためできるだけ麻酔を抑えていたがそれが裏目に出たらしい。
石白 星華「・・・」
  ミカが目を覚ませば止めることは不可能だろう。仕方がなかったとはいえ星華は負い目を感じているようだ。
アレックス・ワトソン「そもそもミカを戦わせたくないってのは俺のわがままだ」
石白 星華「でも!」
アレックス・ワトソン「だったらここで戦って成果を出してこの仮を返してくれ!」
アレックス・ワトソン「期待してるぞ!」
石白 星華「任せてくれ!!」
  星華は辺りに張り巡らせた糸のうち1本を掴むと瞳を閉じて糸に集中した。
  前に教わった糸を使った簡易的な連絡手段だろう。
  この連絡手段の名は「糸振話」と言い。その名の通り糸にあらかじめ決めておいた振動を送ることで意思疎通をはかる。
  この糸の先にミカがいるのだろう。
  一体ミカは今どんな思いでここに戻ってきたのか想像もしたくない。
  嫌われる覚悟はしていたが、裏切った挙句このザマでは合わせる顔もない。
石白 星華「ミカちゃんも配置に着いたみたいだね」
石白 星華「ここから先私らにできるのはせいぜい囮くらいだ。君たち親子に頼るしかない」
アレックス・ワトソン「十分だ」
クロ「くっ!!」
クロ「・・・ッ!!?」
石白 星華「クロ隊長もそろそろ限界みたいだね」
アレックス・ワトソン「出るぞ!!」
石白 星華「了解!!」
魔王「・・・」
石白 星華「今!!」
アレックス・ワトソン「クソが!!」
「伏せて!!」
「なんとか間に合いましたね!!」
アレックス・ワトソン「・・・」
ミカ「話は後です。 今度こそ私に背中を任せて貰えませんか?」
アレックス・ワトソン「・・・了解した」
アレックス・ワトソン「こいつは返すよ」
ミカ「いえ。1本はあなたが持っておいてください」
アレックス・ワトソン「・・・了解」
ミカ「行きますよ!!」
アレックス・ワトソン「ああ!行くか」
アレックス・ワトソン「サルース!!対戦車火器を出せ!!」
アバドン・サルース「了解した」
アレックス・ワトソン「くらいやがれ!!」
魔王「・・・・・・」
アレックス・ワトソン「目は潰した!今だ!!」
ミカ「くっ!外した!?」
アレックス・ワトソン「奴は背後だ!!ミカ!!」
ミカ「背後!?」
魔王「・・・」
アレックス・ワトソン(クソが!ここからじゃ友軍狙撃になる!!)
アレックス・ワトソン「自分の武器事空中にはじき飛ばした!?」
  ミカは振り返りざまに刀を振りかざし魔王の剣を自身の剣ごと空高くはじき飛ばした。
  戦闘中に武器を手放した人間のとる行動は当然相手より先に武器を取るか逃走をはかるのどちらかだがミカはどちらでもなかった。
  ミカは武器をいち早く手に取ろうとする魔王の胸ぐらを掴み背負い込むように持ち上げ地面に叩きつけた。
  今ミカが使用した柔術。それは戦場において剣が破損し使えなくなった際の最終手段。
  兵器が近代化し現在でもそれは変わらない。
  そしてミカが使用した柔術は──「殺生の型」相手を殺す技である。
魔王「ガハッ!!?」
  予想外の攻撃に対し魔王は受身を取れず投げの勢いをもろに背中に受けた。
  当然内蔵にすざまじい衝撃が入る。
ミカ「あなたのバリアは弾幕や刃物は一切通さない。 唯一そのバリアを貫通できるのは私のなんでも切れる剣と「素手」でしたね?」
ミカ「2年前の戦いを私は片時も忘れたことはありません」
魔王「・・・」
  かなりのダメージは入ったはずだがそれでも魔王諦めなかった。地面に落ちた剣に手を伸ばし掴むと剣を杖代わりに立ち上がった。
  運悪くミカの剣はかなり離れた位置に落ちたため取りに行って背中を晒すのはいくら負傷した魔王相手でも自殺行為だ。
  だがミカに焦りはなかった。
  2年前にはいなかった頼れる仲間がいるから──
魔王「・・・・?」
アレックス・ワトソン「終わりだ」

次のエピソード:28話「十五年前の真相」

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