クリスマス寄席

笑門亭来福

来福一席(脚本)

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〇教会の中
「時が経つのは早いもんで、もう師走ですな」
「えー、笑門亭来福でございます」
「このお寒い中、ようこその、お運びで」
「一席お付き合い願います」
「えー、出囃子にも色々ありまして」
「今日は試しに、パイプオルガンでやってみましたが、勝手が違いますな」
「しかし、クリスマスも、すっかり」
「冬の風物詩となりまして」
「外では、イルミネーションがキラキラ・・・」
「プレゼント選びに目がギラギラ・・・」
「値札をみて、頭がクラクラ・・・」
「なんて言うてますけども、さて、そもそも、クリスマスと言うのは、」
「キリストのミサが縮まったんだそうでございます」
「なんでも、山口市さんでは、12月、郵便の宛名をクリスマス市にしても配達されてたんだそうで、」
「日本で最初のクリスマスを大内氏が始めたお祝いにと、まあ、ロマンチックな話ですな」
「クリスチャンではない私は、」
「ミサの様子が分かりませんが、」
「音が鳴って、人が話しをして、それを聞くと言うのは、落語と、よう似てますわ」
「このコロナのご時世ですから、お一人ミサもできるかもしれません」
「江戸時代には、隠れキリシタンと言われる人がいて、」
「禁教になったキリスト教への弾圧を逃れて、」
「密かに室内や、お堂に集まって、納戸にしまったマリア像を拝んで」
「お祈りをしていたんだそうでございます」
「周りに聞こえたら大変ですので、ボソボソとつぶやくようになったそうです」
「オラショと呼ばれた、そのお祈りは、書き物にする訳にもいかず、」
「宣教師が去った後は、元の意味も分からず、音だけが受け継がれたんだそうでございます」
「長崎や熊本の教会など、世界遺産にもなりました」
「今では、無人島となった中、ぽつんと教会が建っているところもあって」
「鹿に囲まれながら海を見渡すことができるんだそうで」
「コロナが収まったら、是非一度行ってみたいもんですな」

〇雷
「教会の中、テーブルに小包がひとつ」
「ステンドグラスの赤や青、緑の色が畳に映っている」
「どやどやと、大勢の人が入ってきた」
「あんたんとこ、どこなん?」
「うちはナンマイダー(南無阿弥陀仏)」
「あぁ、浄土真宗」
「うちはナンミョーホーレンゲーキョー(南無妙法蓮華経)」
「あぁ、日蓮宗」
「そういうあんたは?」
「特にないんよのぉ」
「キリスト教にゃ、念仏のようなもんは、あるとかいな?」
「聞いたことないのぉ。アーメンは違うんか?」
「アーメンはさいごのシメやけん、それだけを言わんのと違うか」
「じゃあ、急ぐ時は、どうしよるんかな?」
「オーマイガーとか」
「いやいや、日本的かもしれんが、「主よ」の後は、察してくれと・・・」
「イエス」
「おっ、先生、みんな揃ったで」
「それじゃあプレゼント交換始めます。音楽がとまったら、前のプレゼントを取ってください」
「マイムマイムが鳴り始め、止まった」
「みなさん、行き渡りましたか?」
「テーブルにひとつ残っている」
「じゃあもう一回」
「やはり1個余る、もう一度、もう一度、もう一度・・・」
「もう、いい加減にして。ちゃんとやりなさいよ」
「余らなかった」
「やればできるじゃない」
「先生、栄さん2個持っとる」
「もう一度、もう一度、もう一度・・・」
「なんで、こんな簡単なことができんの? 誰が悪いんね? あんたか それともあんたか? 今日は全員食事抜き!」
「先生は叫び続ける、暴力はいけん、やめて、ごめんなさい・・・マイムマイムは流れ続ける」
「みんなのうめき声、すすり泣き、つぶやきが、やがてキリシタンのオラショとなった」
「あんめんじんす 丸やさま・・・ (アーメン ゼウス マリヤ様・・・)」
「キリスト教伝来の初期、戦国大名が貿易の旨味から、自ら、また領民にも改宗させ、寺社を壊し、宣教師に与えたところもあった」
「江戸時代になると、禁教となり、激しい弾圧にさらされる」
「摘発され(崩れ)、尋問され(踏絵)、改宗させられ(転び)、転ばないものは処刑された」
「処刑された者は、首と胴を切り離され、復活しないように、首塚と胴塚に分け埋められた」
「明治に解禁となっても、隠れキリシタンの信仰は続き、今も細々と受け継がれている」
「奥の納戸が開き、観音様似のマリア様の目は、ローソクに照らされて真っ赤に燃えていた」

〇幻想空間
「遠くで波の音がする」
「テーブルには私宛の小包がひとつ」
「道理で何回やってもひとつ余るはずね・・・開けてみた」
「新聞記事とメダル」
「10年前の老人ホームであった虐待記事」
「50円玉様のメダルには、吾唯知足とある」
「10年前の私からのメッセージだ」
「10年後の私へ 元気にしていますか」
「じいちゃん子だったあなたは、お年寄りのためになる、この仕事が楽しくて、誇らしいようです」
「ここは誰も住んでいない島。そこにある教会から10年後の私へ手紙を書こう」
「あれから色んなことがあったけど、必ず何かに繋がって、無駄なことは何ひとつなかった」
「本当に不思議、何かに導かれているみたいに」
「『執着には快楽が少なく、苦しみが多い。犀の角のように、ただ独り歩め』」
「『すべてのことには季節があり、すべてのわざには、時がある。』」
「『愛するに時があり、憎むに時がある。 黙るに時があり、語るに時がある』」
「雪が激しくなってきた」
「すべては包みこまれ、許される、ホワイトクリスマス」
「おあとがよろしいようで」

コメント

  • クリスマスのミサは特別な雰囲気がありますよね。
    私はキリスト教徒ではありませんが、それでも教会は受け入れてくれます。
    宗教は難しいところもありますから。

  • 世の中には色々なルール、風景、宗教…ありますよね。
    まぁ少し皮肉に言うと、それだけ人間が頼るものがあって、無いと困るっていう弱さの象徴かもしれません。

  • ゲーム小説はキャラの表情や衣装を動かせるからできるだけ見た目を豊かにしたいという発想で僕は作っていて、間違っているとは思いません。でもキャラ絵が前面に出ない語りも、巧ければ情感が伝わっていいなあと感じます。落語には枕や締めがあるからでしょうか? これはたしかに良質なエッセイです。
    10年前からの手紙や隠れキリシタンの話はおもしろいし、過去を顧みて今を省みてみようという気持ちになれました。

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