執刃のサティリシア

jloo(ジロー)

【第九話】それぞれの思惑(脚本)

執刃のサティリシア

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執刃のサティリシア
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〇英国風の部屋
ハル「うぅん・・・・・・」
  朝、差し込む陽光が眩しい。良い、気分だ。
  だが騒がしい足音がいくつも聞こえてきて、たまらず目を開ける。
サティリシア「あら、起きたのね」
ハル「って・・・・・・何で、居るんだよ」
  僕の隣には、何故かサティリシアが寝ころんでいた。
  彼女は大きな胸を押しあてるようにして、抱きついてくる。
ハル「ちょ、やめてよ」
  絡みつく腕を払い、勢いよく布団から飛び出す。
サティリシア「気持ちよさそうに寝てるから、私もついうとうとしちゃって」
ハル「それで、何だか騒がしいけど」
サティリシア「本来なら私たちも忙しくしているべきなんだけど、他の任務があるからね」
ハル「人形探しのこと?」
サティリシア「ええ。今日は貴族たちの社交界だから、メイドたちは総出で準備をしているわ」
ハル「シュナイトも、参加するの?」
サティリシア「そういうこと。まあ、私たちが気にする必要は無いんだけどね」
  サティリシアは、そのままベッドの中に潜り込むと再び眠りにつく。
ハル「ちょっと、もう朝だよ。それに、ここは僕のベッドだし」
サティリシア「こんなに広いベッドなんだから、少しくらい貸してくれても良いじゃない」
ハル「嫌だよ、起きてよ」
  しばらく、サティリシアと布団を引っ張り合いながら格闘する。
  だが、次第に疲れてくる。どちらともなく、布団から手を離した。
サティリシア「全く、もう少し優しく起こせないの? 乱暴な子ねぇ」
  サティリシアは、欠伸をしながらゆっくりと身体を起こす。
ハル「そっちが、悪いんでしょ」
サティリシア「まあ、そうね。そろそろ、着替えましょうか」
ハル「え、アリシアが居ないけど」
サティリシア「貴方・・・・・・」
  サティリシアが、呆れたような表情でこちらを見る。
  そして顔を近づけると、こちらの表情を覗き込んできた。
サティリシア「まさか、アリシアにお着換えさせて貰ったの?」
ハル「・・・・・・え」
サティリシア「あら、本当にそうなの? とんだ、変態さんね」
ハル「それは、アリシアが勝手に・・・・・・」
サティリシア「ともかく、私は勝手に着替えさせて貰うわね」
  いつの間に、用意していたのか・・・・・・部屋のテーブルには、外出用の衣装が用意されていた。
  サティリシアはおもむろに服に手を掛けると、その場で着替え始めた。
ハル「・・・・・・っ」
  慌てて顔を逸らすが、衣が擦れる音が耳まで届いてくる。
  サティリシアは、何も気にならない様子だ。
  やがて、あっという間に着替え終えてしまった。
サティリシア「さあ、あなたも早く着替えて」
  サティリシアは薄く微笑むと、部屋の椅子に腰かける。
  そして、こちらを眺めながら頬杖を突いた。
ハル「ちょっと、見られていたら着替えられないよ」
サティリシア「え、まさか恥ずかしいの」
ハル「そうだよ」
サティリシア「そうなのね。だったらさっき私が着替えている時も、そういう目で・・・・・・」
ハル「ああ、もううるさいな! 着替えれば良いんだろう、着替えれば」
  サティリシアを無視して、置いてあった衣装を手に取り着替え始める。
  サティリシアは、驚いたような表情をしながらその様子を見ていた。
サティリシア「貴方、結構大胆なのね」
ハル「サティリシアのことなんて、知らないよ! 僕はもう、行くからね」
サティリシア「行くって・・・・・・何処に向かうか、分かっているの」
ハル「どうせ、また人形探しでしょ。先に、行っているから」

〇立派な洋館
  逃げるように部屋を出ると、玄関へ向かう。
  すると、扉の奥にアリシアが立っているのが見えた。
  どうやら、馬車の御者と話をしていたようだ。
アリシア「ハル、起きていたの・・・・・・。服は、着替えられたみたいね」
ハル「アリシア、酷いよ。一人で衣装を着替えられないなんて、嘘じゃないか」
  ふと、御者と目が合った。
  御者は、慌てた様子で目を逸らす。あの顔、何処かで見たような・・・・・・
アリシア「サティリシアは、まだ起きていないの?」
ハル「いや、もうすぐ来るはずだけど」
  そう言っていると、後ろから肩を叩かれる。サティリシアだ。
サティリシア「おはよう、アリシア」
アリシア「おはようございます」
サティリシア「私たちは、今日も人形探しよ。アリシアも、お仕事頑張ってね」
アリシア「言われなくても、そうします」

〇城門沿い
  サティリシアは、それだけ聞くと門の外に向かって歩き出した。
  僕も手を引かれて、引き摺られるように後へ続いた。
ハル「ねえ、サティリシア。さっきの御者、何処かで見たことがある気がするんだけど」
サティリシア「しぃっ、まだ駄目よ」
ハル「・・・・・・どういうこと?」
  サティリシアは、何処か楽し気な様子で街を歩いていく。
  先程まで寝ていたとは思えないほど、足取りは軽い。
サティリシア「そろそろ、良いかしら」

〇中東の街
  サティリシアはそう言うと、僕を暗い路地に押し込んだ。
ハル「ちょ、ちょっと・・・・・・サティリシア」
サティリシア「さっきの御者の男、この前会った自警団の副隊長よね」
ハル「う、うん。僕も、そう思った」
サティリシア「ふふふ、これはどうにも面白いことになりそうね」
ハル「どういうこと」
サティリシア「ハル、貴族の社交界に向かいましょう? 楽しいことが、待っているかも」
ハル「ええ、人形探しはどうするのさ」
サティリシア「別に、私たちが何処を探そうと構わないでしょう」
ハル「そんな、滅茶苦茶な理屈で・・・・・・」
サティリシア「まあ、良いじゃない。行きましょう」
  そう言うと、サティリシアは路地裏から出て人混みを縫うように歩き出した。

〇城門沿い
ハル「サティリシア、こっちじゃないと思うんだけど」
サティリシア「馬鹿ね。素直に行ったら、気づかれてしまうでしょう? 私を、信じなさい」
ハル「そうなの? それなら、良いんだけど」

〇中東の街
  人混みを抜け、やがて細い路地に入る。
  ここが、何処かも分からない。今サティリシアを見失ったとしたら、確実に道に迷ってしまうだろう。
サティリシア「着いたわ」
ハル「え」

〇古い洋館
  唐突に、視界が開ける。社交界の会場に、着いたようだ。
  馬車は、まだ訪れていないように見える。
ハル「ここに、馬車が来るのかな」
サティリシア「違うわ、少し歩きましょう」
  サティリシアは、周囲を観察しながら歩いていく。
  どういうつもりだろうか? 馬車は、社交界の会場に向かうはずだけど。

〇中東の街
サティリシア「居たわ」
ハル「あれは・・・・・・」
サティリシア「自警団の制服・・・・・・ここで、待ち伏せするつもりでしょうね」
  サティリシアの視線の先には、自警団の制服を着た男が立っていた。
  彼は建物の影に身を隠しながら、路地の様子を窺っているようだ。
ハル「待ち伏せ・・・・・・って、まさか」
サティリシア「そう、自警団はシュナイトを殺すつもりなのよ」
ハル「・・・・・・っ」
サティリシア「でも、そう上手くいくかしらね」
  喋り終わるのと同時に、高い金属音が響く。自警団の潜んでいる、路地の向こうからだ。
  しばらくして、一人の女性が駆け出してくるのが見える。
ミルメリス「貴様ら、どういうつもりだ」
ハル「あれは、ミルメリス・・・・・・」
  ミルメリスは、自警団の男たち・・・・・・三十人以上は、いるだろうか。その剣先を、一斉に向けられていた。
  彼女が窮地に立たされていることは、何よりもその場の空気が物語っていた。
ミルメリス「私の言葉に、賛同したはずではなかったのか」
鷲鼻の自警団「まさか、我々が反逆者に味方する訳が無いじゃないですか」
細身の自警団「我らは、シュナイト侯爵に忠誠を誓っております」
ミルメリス「初めから、私を殺すつもりだったということか」
鷲鼻の自警団「もちろん、反逆者を野放しにしておくわけにはいきませんから」
細身の自警団「さて、お喋りもこのくらいにしておきましょう。大丈夫ですよ、お仲間もすぐに後に続きますから」
  ミルメリスの周囲を囲んだ自警団の一部が、動き出す。
  陣形を保ったまま彼らは剣を抜くと、ミルメリスに向かって構えを取った。
ミルメリス「くっ・・・・・・」
  彼女は、じりっと後退る。追い詰められているのは、明らかだった。
  見るに堪えず、思わず飛び出そうとしたその時だった。
細身の自警団「死ねぇっ」
  自警団の男の一人が、大きく踏み込んで剣を振り上げる。
  ミルメリスは、目を瞑ると覚悟を決めた様に小さく息を吐いた。
  次の瞬間、目の前を一つの黒い塊が飛んでいく。
  何が起こったのか、分からなかった。だが、首の無い男の身体が地面に崩れ落ちるのを見て状況を理解する。
ミルメリス「仲間に剣を振るうのは躊躇われたが、仕方ない」
鷲鼻の自警団「くっ・・・・・・」
  追い詰められていたのは、ミルメリスでは無かったのだ。
  自警団の男たちに、明らかな動揺が走る。
  陣形も崩れ、混乱した様子で一斉にミルメリスに斬りかかった。
  ミルメリスの周囲に、紅い華が咲く。
  どこか美しくも見えるその光景に、思わず息を呑んでしまった。
  彼女の周囲には、もう誰もいない。
  紅い液体を滴らせる剣は払われ、静かに鞘へと納められた。
ミルメリス「そこに、居るんだろう」
  ミルメリスが、こちらに視線を向ける。
  気づいていたのか。
サティリシア「いやぁ、さすがさすが」
  サティリシアが、わざとらしく手を叩きながら歩み出る。
サティリシア「やっぱり、自警団の隊長ともなれば違いますね」
ミルメリス「お前たちは、敵なのか」
  ミルメリスの視線が、鋭くなる。それだけで脚はすくみ、固まってしまった。
  だが、サティリシアに怯む様子は無かった。
サティリシア「それよりも、この男たち・・・・・・」
ミルメリス「な、何をしている・・・・・・」
  サティリシアが、男の制服をはだけさせる。
  突然の出来事に驚いてしまうが、そこに刻まれた紋章を見て納得する。
ミルメリス「下僕の烙印、か」
サティリシア「この紋章は、シュナイトのもので間違いないでしょう」
ミルメリス「彼らは、操られていたという訳か」
サティリシア「そうとも言えるし、そうじゃないとも言える」
サティリシア「下僕の烙印は行動を強制することは出来ても、考えまで支配することは出来ない」
ミルメリス「なら、何故」
サティリシア「おそらく、金にでも釣られたんだろう」
ミルメリス「愚かな、奴らだ・・・・・・」
  そう言いながらも、ミルメリスは彼らに向かって祈りを捧げていた。
  その表情は悲しげで、胸が痛くなる。
ミルメリス「この様子では、計画の続行は不可能だろうな」
ハル「やっぱり、シュナイトの殺害を計画していたんですね」
サティリシア「私たちが、助けてやっても良い」
ミルメリス「何だと」
ハル「サティリシア、でも僕たちは・・・・・・」
サティリシア「シュナイトの下僕か・・・・・・私は、誰にも縛られる気なんて無い」
ハル「そんなこと、言ったって・・・・・・」
ミルメリス「何か、考えがあるのか」
サティリシア「ああ、私に考えがある。乗ってみるか?」
ミルメリス「どの道、私たちは殺される運命だ。選択肢は、無い」
サティリシア「よろしい。それなら案内しよう、私たちの最終兵器の元へ」

次のエピソード:【第十話】最終兵器

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