【第八話】自警団の計画(脚本)
〇洋館の玄関ホール
アルフォンスに誘われて、私は邸宅の中へと入る。
煌びやかな装飾が、目に眩しい。
外から見た以上に、中は広いようだ。
アルフォンス「これを、使うと良い」
アルフォンスから、タオルを手渡される。
私はそれを手に取り、髪の毛の水分を拭った。
アルフォンス「さあ、紹介しよう」
〇兵舎
アルフォンスが、一つの部屋の前に立ち止まり扉を開ける。
そこには、自警団の制服に身を包んだ二人の男女が居た。
ミルメリス「団長、彼女は・・・・・・」
アルフォンス「紹介しよう。僕を殺しに来た、殺し屋のアリシアだ」
ヤンガス「おい、ちょっと待てよ。殺し屋って、どういうことだ」
ミルメリス「まさか、シュナイト侯爵を殺すために利用するつもりなんですか?」
アリシア「シュナイト侯爵を・・・・・・殺す?」
アルフォンス「おいおい、ミルメリスちゃん。機密事項を、簡単に漏らさないでくれるかな」
アリシア「・・・・・・どういうことですか」
アルフォンス「お聞きしてもらった通りだ。自警団は、シュナイト侯爵の殺害を計画しているという訳だ」
アルフォンス「ジェント伯爵の邸宅で派手に暴れて貰ったお陰で、大義名分もばっちりだからな」
ヤンガス「おい、こいつを信用していいのかよ」
アリシア「信用、しない方が良いと思いますけど」
アルフォンス「ちょっと、アリシアちゃんまで・・・・・・僕の立場が、無いじゃないか」
アリシア「私を誘う、貴方の方が異常なんですよ」
ミルメリス「それで、団長。もちろん、何か考えがあるんですよね」
アルフォンス「まあ、そうだな。単純に言えば、スパイをして貰おうと思っているのだが」
ヤンガス「本当に、単純だな」
アルフォンス「こういうのは、単純な方が上手くいくの!」
ミルメリス「まあ、私は団長の判断なら反対はしませんが」
ヤンガス「で、あの計画の続きはどうすんだ」
アリシア「あの、計画?」
アルフォンス「ああ、そうだな。その話を、しよう」
アルフォンス「明日開かれる貴族の社交界に、シュナイト侯爵が訪れる。それを、襲う計画だ」
アリシア「社交界・・・・・・どうやって、襲うつもりですか」
ヤンガス「俺が馬車の御者に成りすまして、裏路地の待ち伏せ場所まで誘い込むんだよ」
アルフォンス「この計画は、粗が多かった。だが、アリシアが口裏を合わせてくれれば不審に思われる可能性は低くなるだろう」
アリシア「随分、私に信頼を置いているんですね」
ミルメリス「私も、気になりました。どうして、彼女にそこまでの信頼を置くのでしょうか」
アルフォンス「ただの、勘だよ。まあ、多少の経歴は調べさせて貰ったけどね」
ヤンガス「おいおい、まじかよ」
ミルメリス「まあ勘は勘でも、団長のは信頼感が違いますけどね」
アルフォンス「そういうことだ。これで、計画は決まりだ」
アリシア「私のやるべきことが、これといって見当たりませんが」
アルフォンス「さっきも言った通り、今回は口裏を合わせるだけで良いよ」
アルフォンス「後々、アリシアちゃんの存在が活きてくるはずだから・・・・・・そう、がっかりしないでよ」
アリシア「がっかりしている訳では、無いですが」
ミルメリス「アリシア。それでもこの計画において、あなたの役割は重要です」
ヤンガス「まあ、正直一番危険だと言っても良いかもな」
アルフォンス「そういうこと。とにかく、今日はそのまま帰って休んでよ」
アルフォンス「僕を殺し損ねたことは、まあ何とかなるよ」
アリシア「はあ、そう簡単にはいかないですよ」
アルフォンス「そんなことは、無いさ。僕は、しばらく身を隠すことになる」
アルフォンス「アリシアは、僕が死んだことにしてくれれば良い」
ミルメリス「初耳です」
アルフォンス「いや、何・・・・・・殺しが失敗したのが分かれば、次の刺客もやって来る」
アルフォンス「どちらにせよ、安全に外を出歩くことも出来やしない」
ヤンガス「まあ、そうか」
アルフォンス「僕は、しばらく表舞台から姿を消す。少し、やりたいこともあるしね」
ミルメリス「了解しました」
アルフォンス「それじゃあ、解散! 明日、よろしく頼むよ」
アルフォンスの掛け声で、皆がそれぞれ自分の部屋へと戻っていく。
私も扉を開けて、帰路に向かって歩き出した。
アリシア「そうだ、目出し帽・・・・・・返してください」
アルフォンス「ああ、ごめん。忘れていたよ」
背を向けたまま、目出し帽を受け取る。
大変なことに、なってしまった。だけど、私の心はどこか落ち着いていた。
いつかこんな日が来ることを、予感していた気がする。
〇ファンタジーの学園
私は邸宅を出て、夜空を見上げる。
月明かりに照らされた私の心は、重荷を外されたように軽く感じた。