執刃のサティリシア

jloo(ジロー)

【第七話】闇を纏うメイド(脚本)

執刃のサティリシア

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執刃のサティリシア
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〇要塞の廊下
  アリシアに連れられて、再び廊下を歩く。
  窓からは夕日が差し込んでいて、僕とアリシアの姿を赤く照らしていた。
  どこか非日常な印象を受けるその光景を、ぼんやりと見つめる。
  今朝までは、ジェント伯爵の邸宅で普通に働いていたはずだ。
  あまりに唐突な環境の変化に、脳が今更異常を認識し始める。
アリシア「着きましたよ」

〇上官の部屋
  不意に声を掛けられて、我に返る。
  既に目の前の扉は開かれており、サティリシアとシュナイトが待っていた。
  フミルの姿は、見えない。
シュナイト侯爵「さて、役者も揃ったところで経過を聞かせて貰おうか」
サティリシア「はい。シュナイト侯爵の奥様を発見し確保を試みましたが、抵抗され逃亡を許してしまいました」
シュナイト侯爵「それは、何故だ」
サティリシア「自警団の隊長であるミルメリスに、直前で妨害された為です」
シュナイト侯爵「成るほど、大方予想通りだ」
ハル「おい、あんなものと交戦することになるだなんて聞いていなかったぞ」
シュナイト侯爵「交戦・・・・・・?」
サティリシア「いえ、私たちは奥様には傷一つも付けていません」
シュナイト侯爵「そうか、気を付けてくれたまえ」
ハル「まだ、捜索を続けるつもりですか」
シュナイト侯爵「当たり前だ。だが、もう夜も遅い・・・・・・部屋に戻り、明日に備えることだ」
サティリシア「分かりました」
  シュナイトは、部屋の奥へと歩いていく。
  その後姿を眺めながら、僕の拳が強く握りしめられていたことに気づく。
  あの男は、この国の人間のことなど何も考えてはいない。
  その重責を、何も理解してはいないんだ。
サティリシア「どうしたんだい、阿呆みたいな面をして」
ハル「人形って、一体何者なんですか」
サティリシア「シュナイトの奥さんって言っただけでは、納得しないだろうね」
ハル「シュナイトは、一体何をしているんですか。国政を担う、重責を負う立場にありながら」
サティリシア「それほど、人形のことを重要視しているということだ」
サティリシア「そもそもシュナイトが今の立場に居座ることになったのも、人形が強く関係しているからね」
ハル「え、それって」
サティリシア「まあ、いずれ分かることさ。ハルが、私に従い続けるならば・・・・・・ね」
  サティリシアは、薄く笑う。
  その表情は、どこか僕のことを馬鹿にしているようで。
  何となく、腹立たしく感じた。
ハル「・・・・・・教えてくれないってこと?」
サティリシア「そんなことは、言っていないけどね」
サティリシア「私は、もう眠いんだ。自室に、戻るとするよ」
  サティリシアは、そう言い残し部屋から出て行った。
  残された僕は、まとまらない頭のまま呆然と立ち尽くすしかなかった。
  これから、一体どうなってしまうのだろう。
  不安は尽きないが、従うしかない。何故なら、僕はシュナイトの・・・・・・。
  いや、シュナイトとサティリシアの下僕なのだから。

〇英国風の部屋
アリシア「フミル・・・・・・」
  窓から見える月光が、部屋の中を照らしている。
  その光は私の心の内まで暴いてしまいそうで、どこか居心地の悪さを感じていた。
アリシア「そろそろ、出なくちゃ」
  目出し帽を被り、外套を羽織る。今日はフミルは居ない・・・・・・私、一人だ。
  与えられた任務は、とある貴族を殺すこと。
  初めてのことじゃない。何度も繰り返してきた、変わり映えのしない任務だ。
アリシア「大丈夫」
  その貴族の名前は、アルフォンスと言うらしい。
  大丈夫、今回もいつもと同じようにやれば良い。
  一つ唾を飲み、私は窓から邸宅の外へと飛び出した。

〇城門沿い
  人目につかない場所を選び、走り続ける。
  夜の闇は深く静まり返り、時折吹く風だけが空気を揺らす。
  風が、湿気を纏っている。これは、一雨降るかもしれない。
アリシア「好都合ね」

〇ファンタジーの学園
  ぽつりぽつりと、頬に雨が当たり始める。
  小雨かと思っていたが、すぐに土砂降りへと変わっていく。
  雨は、気配や痕跡を掻き消してくれる。私のような暗殺者にとっては、最適な状況と言えた。
  やがてアルフォンスのいる邸宅に近づくと、人気の無い路地裏に身を潜める。
  来た・・・・・・。
  伝えられた容姿と合致する男が、街灯の下に立っている。
  間違いない、あの男だ。
アルフォンス「さて、仕事の時間だ。上手く、やるんだよ」
  アルフォンスが、何やら自警団の男たちと会話しているのが聞こえる。
  今襲うのは、リスクが高すぎる・・・・・・それに、まだ距離がある。
アリシア「もう少し、近づかないと」
  そうこう考えている内に、自警団の男たちはアルフォンスの元を離れていく。
  今しかない。
  周囲の状況を、確認する。他に、誰も人は居ないようだ。
  私は音を立てない様に注意しながら、ゆっくりと距離を詰める。
  そのまま男の背後へと回り込むと、直剣を構えたまま一気に駆け出した。
アルフォンス「・・・・・・っ!!」
  捉えた。この速度に、対応出来る人間などいない。
  だが、私の剣戟は空を斬る。
  アルフォンスは、まるで虫でも払うかのように攻撃を捌いた。
アルフォンス「可愛い子猫ちゃん、こんな夜刻に何の用だい」
  声は、出さない。正体がばれては、元も子も無いからだ。
  だが、何だか顔が涼しい。
アリシア「・・・・・・っ!?」
  アルフォンスの持つ剣の先を見ると、そこには私の被っていた目出し帽がかかっていた。
アルフォンス「あー、まあ言わなくても分かっているよ」
アルフォンス「シュナイト侯爵の指示だろう? それで、僕のことを殺しに来た」
アリシア「何故、そんなことを」
アルフォンス「知っているのかって? そりゃあ、当然だろう」
アルフォンス「あれだけ堂々と暴れられちゃあ、僕たちが嗅ぎ回らない訳も無いじゃない」
アリシア「僕たち・・・・・・?」
アルフォンス「あれ、知らなかった? 僕、自警団の団長をやっているんだけど」
アリシア「何ですって」
アルフォンス「本当に、何も知らないんだ。でも、ジェント伯爵の件は知っているよね」
アルフォンス「シュナイト侯爵が、あれだけ堂々と反対勢力の貴族を襲うことなんて今まで無かった」
アルフォンス「君がしているように、ひっそりと殺すやり方を好んでいたはずだ」
アリシア「貴方は、何が言いたいの」
アルフォンス「シュナイト侯爵は、焦っている。何か、邸宅内で問題でも起こったのか・・・・・・」
アリシア「分かって、言っているわね」
アルフォンス「やっぱり、女の子は勘が鋭いね。その通りだよ」
アリシア「ふざけないで」
アルフォンス「人形・・・・・・だろう? シュナイト侯爵は、この呼び方は好まないだろうけど」
アリシア「どこまで、知っているの」
アルフォンス「ははは、殺し屋の癖に随分とお喋りなんだな。気に入ったよ」
アリシア「・・・・・・くっ」
アルフォンス「上手くやれば、シュナイト侯爵の暴走を止められる計画がある。興味はないかい」
アリシア「何で、私がそんなことを」
アルフォンス「今の現状が、気に入らないのだろう? まあ、殺し屋なんてやっていれば当然か」
アリシア「私は・・・・・・」
アルフォンス「弟さんのことかい? フミルって、言ったっけ」
アリシア「・・・・・・っ!?」
アルフォンス「お、図星か。分かりやすくて良いね」
アルフォンス「このまま僕と戦って無駄死にするのも良いけど、気になるならついてきて」
  アルフォンスは、私に背を向けるとそのまま歩き出した。
  向かうのは、彼の邸宅だ。
  私は、黙ってその後に続いた。

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