【第六話】似た者同士(脚本)
〇西洋の街並み
フミル「馬車が、停めてあります。そちらに、向かいましょう」
馬車に乗り、路地を進んでいく。
路地の脇を自警団の見張りが固めているが、こちらを確認すると口を噤んだ。
彼らは釈然としない様子であったが、礼をしながら一歩下がる。
揺れは、少ない。車内には、沈黙だけが流れている。
サティリシアは、目を閉じていた。まるで、眠っているようにも見える。
暇になり、馬車を覆う布の隙間から外の様子を窺う。
ハル「酷い、街だ」
たまに見かける子供は、腕に手枷を嵌められて鎖で引き摺られるように歩いている。
親の居ない、子供たちだろう。これから、どんな扱いを受けるか想像がつく。
サティリシアは、何を考えているのだろうか。彼女の横顔からは、何も読み取ることが出来ない。
〇城門沿い
馬車は関所を通り過ぎ、そのまま上層へと向かう。
途端に、景色が様変わりする。人々は活気に溢れ、賑わいを見せていた。
その落差に、呆然とする。産まれた環境だけで、これ程までに違うのか。
この国では国王は置物の様なもので、実権を握っているのは一部の貴族たちだという。
その中でも、シュナイト率いるジェイコス家は別格だ。
他の貴族たちも彼らの前では迂闊なことは出来ないらしく、上層で幅を利かせることはしない。
だがその分、下層以下の人間に対する態度は苛烈なものとなっている。
フミル「そろそろです」
〇立派な洋館
馬車が、ゆっくりと速度を落としていく。
前方には、シュナイトの邸宅が近づいてくる。
その門前に、一人の女性の姿が見えた。
ハル「アリシアか・・・・・・」
馬車が、門の前に停まる。
アリシアは御者の男と何か話をした後、こちらへ向かってくる。
アリシア「お待ちしておりました、付いてきてください」
〇要塞の廊下
アリシアに連れられて、邸宅の中に入る。
彼女の案内に従い廊下を進むと、やがて一つの部屋へと辿り着いた。
アリシア「サティリシアは、この部屋で着替えてください。ハルは、こちらへ」
サティリシア「分かったわ」
まあ、当然か。男女が、同室で着替える訳にはいかないだろう。
サティリシアと別れ、アリシアと共に更に廊下の先へと進んでいく。
〇城の客室
突き当りにある扉を開くと、中は応接室のようだった。
アリシア「さあ、服を脱いでください」
ハル「え、ええ・・・・・・アリシアさんが、服を着せるんですか」
アリシア「当たり前でしょう。そんな姿で、シュナイト侯爵に会うつもりですか」
自分の姿が、鏡に映っている。蛆の返り血を浴びて、服は白く染まっていた。
ハル「いや、そういうことじゃなくて。男の人にやって貰うとか、自分で着替える事だって出来るだろうし」
アリシア「自分で、着替える?」
アリシア「無理ですね、これはそんなに簡単なことではありません」
アリシア「それに今は、シュナイト侯爵の奥様の件で男手もありません。我慢してください」
ハル「うぅ・・・・・・」
何とも言えない気持ちになりながら、言われるままに服を脱ぐ。
アリシアは、慣れた手つきで僕の身体を拭き始めた。
アリシア「ハルは、シュナイト侯爵のことをどう思っていますか」
ハル「え、いや・・・・・・隠す気も無いよ。恨んでいるに、決まっているだろう」
アリシア「そう、ですか」
ハル「アリシア、さん?」
アリシアの表情は、読み取れない。だけど、どこかこの場の雰囲気が和らいだ気がした。
彼女は、黙々と作業を続けている。やがて全身が綺麗になったところで、新しい衣服に着替えさせられる。
ハル「あの、ありがとうございます」
アリシア「いえ、これも仕事の内ですから」
アリシアは素っ気なく言うと、すぐに背を向けてしまう。
そして部屋の扉に向かっていくと、振り返らずに口を開いた。
アリシア「貴方は、まだ間に合いますから」
ハル「え・・・・・・」
アリシア「さあ、シュナイト侯爵の元に向かいましょう」