執刃のサティリシア

jloo(ジロー)

【第五話】成れの果て(脚本)

執刃のサティリシア

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執刃のサティリシア
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〇兵舎
  女性に続いて、民家へと足を踏み入れる。
  殺風景な、部屋だ。家具も殆ど無く、生活感というものを感じない。
  だが実際にあの女性は、ここで寝起きをしているのだろう。
  窓際にベッドが置かれているが、使い古されてボロボロになっている。
サティリシア「あんまり、見回すものじゃないわよ」
ハル「ああ、ごめん」
サティリシア「裏口を出たら、気を付けなさい。≪人形≫が出るから」
ハル「人形・・・・・・?」
サティリシア「シュナイトの、奥さんのことよ・・・・・・人形って言うのは、私が勝手にそう呼んでいるだけ」
ハル「人形って・・・・・・人間を、そんな風に呼ぶのはどうかと思うけど」
サティリシア「まあ、そうね。でも、見たら分かるわ」
ハル「そう、なのか」
  裏口に、手をかける。

〇中東の街
  扉の向こうは暗闇に包まれていたが、すぐに目が慣れてくる。
  様子を窺うと、目の前には異様な光景が広がっていた。
サティリシア「あら、もうこんなに・・・・・・」
  自警団の制服を着た人物が、数人見える。だが、その誰もが動く様子は無い。
  彼らの寄り添う壁には、鮮血が飛び散っていた。
  不自然に折れ曲がっていたり潰れたり様々だが、彼らに共通しているのは既に息絶えているということだ。
  おおよそ、人間の成せる所業では無い。背筋を、冷たい汗が流れるのを感じる
ハル「これは、一体」
サティリシア「人形の、仕業ね。これは、自警団が本気になる前に動いた方が良いかもしれないわ」
ハル「早くしないと、自警団に人形が殺されてしまうということだよね」
サティリシア「違うわ、いたずらに死者を増やしたくは無いもの」
  緊張感が、漂っている。それは、僕の感覚がおかしくなっただけなのだろうか。
  サティリシアはどこか楽しげにも見える表情で、路地を歩いていく。
ハル「うっ・・・・・・」
  ふと、異臭が漂ってくる。鼻を突くような、臭いだ。
  まるで、何か腐ったものが放置されているかのような・・・・・・。
サティリシア「この、先ね」
ハル「人形が、居るってこと」
  異臭の発生源は、それからすぐに分かった。
  壁に向き、しゃがみ込む女性。
  その背中には蛆のような生物が蠢き、彼女の身体を蝕んでいる。
ハル「これが、人形」
  僕の声に気づいたようで、彼女はゆっくりと顔を上げこちらに向ける。
  髪に隠れて、その表情は良く見えない。
  だけどその奥で爛々と輝く瞳の光だけは、はっきりと目に映った。
ハル「え・・・・・・」
  ふと、サティリシアの手が腕に触れる。
  何かを、手渡されたようだ。それを握り、眼前に構える。
サティリシア「ナイフよ、これで戦いなさい」
ハル「戦うって・・・・・・あれと?」
  信じられない。だが、身体が火照ってくるのが分かる。
  彼女の命令には、逆らえない。そんな、気がする。
ハル「・・・・・・っ」
  少し目を離していた隙に、人形の姿は様変わりしていた。
  身体から顔を見せていた蛆は、地面に落ちるとまるで人の姿の様に変形する。
  それらは人形を守るように周囲を囲むと、同時にこちらへ向かって飛びかかってきた。
ハル「くっ・・・・・・」
  後ろに躱しながら、手にしたナイフを振るう。
  すると蛆に刃が触れた瞬間に、何かが飛び散る。
  それらは形を変え、無数の蛆の姿へと再生していった。
ハル「サティリシア」
  助けを求めるように、サティリシアの姿を見る。
  だがサティリシアは腕を組み、こちらをおどけたような表情で見返すだけだ。
  これは自力で、この状況を切り抜けるしかなさそうだ。
ハル「だけど、どうする・・・・・・」
  斬ったそばから再生していくんじゃ、どうしようもない。
ハル「くっ・・・・・・」
  考えている側から、蛆が襲ってくる。
  僕は掴みかかろうとするその腕を、逆に掴み返した。
  とりあえず、片っ端から試していくしかない。
ハル「てぇいっ・・・・・・!!」
  掴んだ腕を背負い、思いっきり地面に叩きつける。
  弾けるような、音が響く。
  地面と衝突した蛆の身体は、再生する様子は無くぴくりと痙攣した後に動かなくなった。
ハル「打撃、か」
  対処法が分かれば、もう恐れることは無い。
  ナイフを腰のベルトに差し、拳を構える。
ハル「はぁっ・・・・・・!!」
  迫りくる群れを、次々と殴り飛ばしていく。
  一撃では無理でも、二撃・・・・・・三撃。続けざまに放たれた攻撃は、確実に蛆を仕留めていった。
サティリシア「あら、もう少し楽しめると思ったのに」
サティリシア「意外にも早く、弱点に気づいてしまったわね」
サティリシア「ふふふ、しかし・・・・・・まるで獣だな」
  次第に、敵の数が減っていく。人形を取り囲む蛆の数は、残り僅かだ。
  だが、そこで気づく。人形の姿が、何処にも見当たらない。
ハル「サティリシア、人形が居ない」
サティリシア「え」
  人形の姿を探すが、見つけることが出来ない。
  そうこうしている内に、最後の蛆を始末し終えた。だが、肝心の人形が消えたままだ。
  サティリシアの方を見るが、彼女は口を閉ざしている。
  だけどよく見てみると、彼女の肩の辺りに赤く揺らめく光が見えた。
ハル「サティリシア」
  血で赤黒く染まった腕が、サティリシアの肩をがっしりと掴んでいた。
  その背後から、すぅっと人形の顔が浮かんでくる。
  不自然に吊り上がった口は、微笑みの表情を湛えていた。
サティリシア「・・・・・・っ」
  肩を掴む力が、強くなったようだ。サティリシアの表情が、一瞬歪む。
  だが、動けない。死の予感が、頭から離れなかった。
ハル「サティリシア・・・・・・!!」
  次の瞬間、獣にも似つかない甲高い悲鳴が路地に響き渡る。
  人形の身体からは乳白色の血が噴き出し、その場にだらんと崩れ落ちた。
ミルメリス「・・・・・・っ」
  人形を斬ったのは、自警団の制服を着た小柄な女性だった。
  彼女は警戒を解く様子は無く、人形の方を無表情で見つめている。
  見ると崩れ落ちたはずの人形の頭部が、女性を睨んだような気がした。
  ──その、直後。
  人形の四肢が持ち上がり、四足で床を這いずりだした。
  そのまま建物の壁を這い上がり、その姿は暗い路地の闇の中へと消えていく。
ハル「何だって・・・・・・」
  呆然とする。今や人形の姿は何処にも無く、静寂の風が肌を撫でる。
ミルメリス「どうして、一般人がここに居る」
サティリシア「これはこれは、ミルメリス隊長。お噂は、かねがね」
ミルメリス「この区画は、封鎖する様に言っておいたはずだが」
サティリシア「いえ、自警団の皆さんはよく働いていますよ」
ミルメリス「ならば、もう一度聞こう。何故、ここにいる」
サティリシア「答える義務は、無いですね」
  しゅっと、風を切る音が響く。
  ミルメリスの持つ剣が、サティリシアの動きを封じるように首筋に当てられた。
ミルメリス「理由を話さないのであれば、ここで斬る」
ハル「サティリシア・・・・・・」
  不安に駆られて、サティリシアの方を見る。
  だが、サティリシアに動揺している様子は無い。
  何か、策があるのだろうか。
サティリシア「おお、怖い。だけど、それは止めておいた方が良いと思うけど」
ミルメリス「何だと」
  路地の暗闇の向こうから、一人の人物が歩いてくる。
  見覚えがある・・・・・・あいつは・・・・・・。
フミル「ハル、サティリシア。シュナイト侯爵が、お待ちだ」
ミルメリス「シュナイト・・・・・・だと」
  ミルメリスの、表情が曇る。
  刃を引くつもりは無いようだが、明らかな動揺が見て取れる。
  サティリシアはそんな様子を見て、すっとミルメリスの間合いから離れる。
ミルメリス「・・・・・・っ」
  不意を突かれ、ミルメリスは何も出来ずに立ち尽くしていた。
  だがやがて剣を鞘に仕舞うと、こちらに向き直った。
ミルメリス「行け・・・・・・」
サティリシア「親切に、どうも」
  フミルはそれを聞くと、背を向けて引き返していく。
  僕らも、それを追って走り出した。

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