執刃のサティリシア

jloo(ジロー)

【第四話】人形(脚本)

執刃のサティリシア

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執刃のサティリシア
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〇要塞の廊下
  僕たちはアリシアの背を追い、廊下を進んでいた。
  サティリシアは、だるそうに腕を絡めてくる。それがうっとうしくて、仕方が無い。
  時折すれ違うメイドは、こちらに挨拶することも無く足早に通り過ぎていく。
  その態度に、自身がシュナイトの下僕になってしまったことを思い出す。
  しばらく歩いたところで、アリシアはおもむろに立ち止まった。

〇上官の部屋
アリシア「シュナイト侯爵、お連れしました」
  部屋の扉が静かに開くと、アリシアは軽く礼をして何処かに立ち去ってしまった。
ハル「サティリシア・・・・・・?」
  サティリシアは躊躇う様子も無くシュナイトの脇まで歩いていくと、その手の甲にキスをした。
  シュナイトの周囲には他にも大勢の女性が取り囲んでおり、身体を寄せている。
  サティリシアもその女性たちと同じ様に、シュナイトの脚に寄り添う形で身体を預ける。
  その姿を見て、嫌悪感を覚える。
  サティリシアはそんな僕の姿を見て、挑発する様に舌なめずりをした。
  顔に血が上り、熱くなっていくのが分かる。
シュナイト侯爵「待っていたよ」
  シュナイトがこちらに視線を向けると、僕の意思に反して膝は折れ頭を垂れていた。
シュナイト侯爵「少し、問題が起こってね・・・・・・妻のことなんだが、サティリシアは分かるだろう」
サティリシア「奥様・・・・・・ですか」
シュナイト侯爵「ああ、昨晩失踪してしまってね・・・・・・行方を捜しているところなんだよ」
サティリシア「それで、私たちは何をすれば」
シュナイト侯爵「妻の行方を、探ってほしい・・・・・・そして、傷つけずに邸宅まで連れてきて欲しいんだ」
ハル「何で、僕たちがそんなことに協力しないといけないんだ」
ハル「自警団にでも頼めば、それで済む話だろう」
シュナイト侯爵「君たちに拒否権が無いことはもちろん分かっていることだろうが、自警団には任せられない仕事でね」
シュナイト侯爵「うちの使用人たちにも働いてもらうつもりだが、それは君たちを休ませておく理由にはならない」
サティリシア「分かりました、お受けします」
シュナイト侯爵「良い、返事だ」
シュナイト侯爵「早速だが、街に向かってくれ・・・・・・既に、自警団は動き出しているようだ」
サティリシア「早急に、対処します」
シュナイト侯爵「頼んだぞ」
  サティリシアが、立ち上がる。
  隣を通り過ぎると、そのまま部屋を出て行った。僕も、その後を追う。

〇要塞の廊下
サティリシア「さあ、街に出るわよ。ハル」
ハル「行く当てでも、あるんですか」
サティリシア「とにかく、街に出てみることね。行きましょう」

〇立派な洋館
  サティリシアに先導されて、邸宅を出る。
  下僕の烙印の影響で、逃げ出すことは叶わないだろう。
サティリシア「まずは、上層を見て回ってみましょうか」
ハル「今いるのが、上層だからね。近場から捜索するのは、賛成だよ」
サティリシア「ハルは、上層から出たことは無いの」
ハル「孤児になって、最終的に流れ着いたのが下層の貧民街」
ハル「教会の施しで何とか生きながらえていたけど、すぐに捕まって奴隷にされたんだ」
サティリシア「そう。それなら、貧民街の過酷な環境は知っているようね」
ハル「まあ、少しの間だけしか過ごしてないから。全てのことを知っているかと言われたら、程遠いけどね」
サティリシア「私は、貧民街に居たことは無いわ。でも、あの街の惨状はよく知っている」
ハル「どうして、知っているの」
サティリシア「まあ、そうね。でも、あまり話したくは無いかな」
ハル「そう。なら、詳しい話は聞かないけど」

〇城門沿い
  サティリシアには、何か考えがあるのだろうか。特に聞き込みをする様子も無く、街を歩いているだけに見える。
  これで、一体どんな情報が得られると言うのだろうか。
ハル「サティリシア、聞き込みとかしないの」
サティリシア「・・・・・・っ」
ハル「サティリシア・・・・・・?」
サティリシア「し、静かに」
  路地では、揃いの制服を着た集団が何やら会話をしているのが見える。
ハル「あれは、何」
サティリシア「知らないの?」
ハル「いや僕、殆ど邸宅の外に出して貰ったことが無いから」
サティリシア「あれは、自警団。街の犯罪とかを、取り締まる集団なんだけど」
  自警団は、やがて何処かに向かって駆け出して行った。
  それを見て、サティリシアは目で合図を送る。
  どうやら、跡をつけるつもりらしい。

〇西洋の街並み
  サティリシアの後を、少し遅れてついていく。
  彼女は手慣れた様子で、あらゆる遮蔽物を利用して追跡を続ける。
  どうやら、自警団は貧民街の方に向かっていることが分かった。
サティリシア「そろそろ、限界ね」
  貧民街まで辿り着くと、サティリシアは足を止める。
  あちこちの道を、自警団が封鎖しているのが見える。これでは、通り抜けることは不可能だろう。
  周囲には子供から大人まで、痩せこけた人々が座り込んだり寝転がったりしている。
  彼らは一様に虚ろな瞳をしていて、その表情からは生気というものが感じられない。
サティリシア「この辺りは下層の入り口に近いから衛兵もいるし、比較的安全な場所よ」
ハル「それでもこんなに酷いんだから、参っちゃうな」
サティリシア「まだ、ましな方よ」
サティリシア「もっと奥に入れば、人殺しなんて当たり前・・・・・・自警団も入るのを躊躇うほどの、闇の世界よ」
ハル「そう・・・・・・なんだ。僕は、それほど奥には行ったことが無いから」
サティリシア「賢明ね」
サティリシア「さて、これからどうしたものかしらね」
ハル「どうするか、決めていなかったのかよ」
サティリシア「そういう訳じゃ、無いんだけど・・・・・・あら」
  サティリシアが、何かに驚いたような様子を見せる。
  その視線の先には、一人の男性が立っていた。
  先ほど見た自警団の制服を身に纏っており、こちらを値踏みする様に睨め付けている。
ヤンガス「お前ら、貧民街には似合わない格好だな。どこから来たんだ」
サティリシア「あら、人に尋ねる時は自分からって習わなかったのかしら」
ヤンガス「ち、自警団副隊長のヤンガスだ」
ハル「ふ、副隊長さんですか・・・・・・」
ヤンガス「それで、何をしていたんだ」
サティリシア「ちょっと、迷子になっただけよ。そろそろ、帰らせて貰うわね」
ヤンガス「ああ・・・・・・って、そっちは貧民街の奥だろうが」
サティリシア「あら、私たちこちらから歩いてきたのだけど」
ヤンガス「嘘つくんじゃねぇ! そんな訳、無いだろうが」
サティリシア「あら、違ったかしら」
ヤンガス「さっさと、引き返せ。さもなくば、縛り上げるぞ」
サティリシア「あら、それは興奮してしまうわね」
ハル「サティリシア、あんまり刺激しない方が良いよ」
ヤンガス「とにかく、この先は通行禁止だ。大人しく、帰れ」
サティリシア「そうするわ。それじゃあ、また何処かで会いましょう」
ハル「あ、ちょっと・・・・・・」
サティリシア「ほら、行くわよ」

〇中東の街
  路地裏へ逃げ込んでいく、サティリシアの後を追う。
  自警団の居る方向とも、帰路とも異なる別の道だ。
ハル「何処に、行くつもりなの」
サティリシア「ついてくれば、分かるわ」
  しばらく、無言のまま走り続ける。
  周囲に人の気配は無く、時折聞こえるのはネズミや虫の声だけだ。
  細い路地を抜け、やがて一つの民家の前に立ち止まった。
サティリシア「ここよ」
  扉を叩くと、民家の中から一人の薄汚れた女性が姿を現わした。
  サティリシアはすかさず持ち物から麻袋を取り出すと、女性に手渡す。
  女性は袋を受け取ると、中身を確かめる。
サティリシア「裏口を、通して頂けませんか」
  サティリシアは、にこりと微笑む。
  女性は迷惑そうな表情をしながらも、家の中へと手招きをした。

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