第19話 『憧憬と陶酔』(脚本)
〇屋上の隅
佐川アリス「・・・いいですよね、ここ。 街が見渡せるし、夜景もきれいで」
須藤清孝「・・・・・・」
佐川アリス「それにターゲットの家も監視しやすい。 あたしも前に来たことがあるんです」
須藤清孝「なぜだ?」
須藤清孝「次のターゲットで、金井を狙うことはないって・・・」
須藤清孝「! まさか盗聴を──」
佐川アリス「おかしいと思ったんです」
佐川アリス「相馬の時も、佐藤の時も、あなたに先を越されていた」
佐川アリス「確信はありませんでしたが、試してみる価値はあるかと」
須藤清孝「うまく誘導されちまったってわけか」
佐川アリス「須藤さん。教えてください。 なぜこんなことをしたんですか?」
須藤清孝「・・・・・・」
佐川アリス「私がシリアルキラーだったことに、いつから気付いてたんですか?」
須藤清孝「・・・最初からだよ」
佐川アリス「?」
須藤清孝「君が最初に人を手にかけた時から、俺はアーちゃんのファンだった」
佐川アリス「私の・・・最初の殺人」
須藤清孝「覚えてるかい? 自分が初めて、人に手をかけたときのことを」
佐川アリス「森で襲われて・・・斧で──」
須藤清孝「違うよ、アーちゃん」
佐川アリス「?」
須藤清孝「あの男を殺したのは、俺だ」
佐川アリス「!?」
須藤清孝「あの雨の森で俺がとどめを刺したんだ」
須藤清孝「最後は崖の上から、死体を谷底に投げてやったよ」
佐川アリス「須藤さんが・・・殺した?」
須藤清孝「そうだよ。アーちゃんを真似したんだ」
須藤清孝「一切のためらいなく、標的を殺る──あの素晴らしい殺害を」
佐川アリス「・・・!?」
須藤清孝「アーちゃんの最初の殺人は、あの施設に行く、半年前のことだ」
佐川アリス「嘘だ・・・あたしは殺人なんてしていない」
須藤清孝「何も覚えてないなら教えてやる。 20年前、お前は――」
佐川アリス「違う! あたしじゃない!」
須藤清孝「お前は、自分の父親を殺したんだよ」
佐川アリス「うわああああああっ!!」
須藤清孝「20年前、お前の父親は、後輩だった俺のことを強請(ゆす)っていたんだ」
〇シックなリビング
須藤清孝「・・・先輩。これで最後にしてください」
佐川浩司「いくらあんの?」
須藤清孝「40万、です」
佐川浩司「・・・まあね、せっかく須藤も警察官になれたわけだしね、これで最後かな」
お前の父親に金を渡すのは4回目だった
これで最後にする気がないことくらい、顔を見ればわかっていた
そのとき、室内に電話の音が鳴った。
佐川浩司「ちょっと電話出てくるから、ゆっくりお茶しててよ」
佐川浩司「あ、一応この封筒は持ってくね」
ほんの不注意だった。
俺が運転していた車で、人を撥ねたんだ
相手は大事に至らなかったが、お前の父親が即座に身代わりになってくれた
だが、後からわかったことだが、それも全て計画のうちだった
事故も犠牲者も自作自演だったんだ。俺ははめられていたんだよ
須藤は持ってきたバッグの中を確認する。
そこにはサバイバルナイフが入っていた。
その日、追い詰められていた俺は、お前の父親を殺すつもりで家に来ていた
だが俺には、本気で人を殺す勇気なんてなかった
そんなときだ──
ガタっという音がして、部屋の隅にあるクローゼットが動いた。
不審に思った須藤は、クローゼットに近寄りその扉を開いた。
アリス──傷だらけの君に出会った
須藤清孝「・・・き、君は?」
佐川アリス「・・・・・・」
須藤清孝「もしかして、浩司さんの・・・」
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お…おおお…まさかまさか…