執刃のサティリシア

jloo(ジロー)

【第二話】主君であり宿敵(脚本)

執刃のサティリシア

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執刃のサティリシア
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〇城門沿い
  街の喧騒が、いつもより耳障りに聞こえた。
ハル「はぁ・・・・・・くそっ」
  歩みを止めてしまえば、覚悟が鈍ってしまいそうで・・・・・・ただ、ひたすらに足を動かし続けた。
  やがて、邸宅が近づいてくる。シュナイトの邸宅の門は、開かれていた。

〇立派な洋館
アリシア「お待ちしておりました」
ハル「・・・・・・何、何て言った?」
  門の前で、一人のメイドがお辞儀をする
  笑顔を浮かべているが、その顔はどこか作り物のようで嘘臭い。
ハル「君は、一体誰なんだ」
アリシア「アリシアと、申します」
ハル「僕がここに来ることを、知っていたのか」
アリシア「はい、存じ上げておりました」
  シュナイトは、僕が報復に来ることを気づいていたらしい。
  警戒心が、強くなる。アリシアに、武器を持っている様子は無いが・・・・・・
  無意識に、服の下に隠したナイフに手が伸びる。
アリシア「シュナイト侯爵が、貴方のことをお待ちです。どうぞ、こちらへ」
  アリシアはこちらの様子など気にもしていないように、背を向けて邸宅へ向かっていく。
  選択肢は無い・・・・・・罠だとしても、行くしかない。

〇要塞の廊下
  アリシアの後に続いて、邸宅の中を進む。
  豪華な調度品の数々に、圧倒されてしまう。
  しばらく歩いた先に、目的の部屋はあった。
アリシア「どうぞ、こちらへ」

〇城の客室
  部屋の中央には、大きなソファが向かい合わせに鎮座している。
アリシア「しばらく、こちらでお待ちください」
  アリシアが、退室していく・・・・・・それを、無言で見送った。
  ソファに、座る気にはならない。
  罠を警戒しているのもあるが、どうにも、落ち着かないからだ。
  部屋の扉は開けたままで、シュナイトの到着を待つ。
  しばらくすると、廊下から足音が響いてきた。
シュナイト侯爵「ようこそ、我が邸宅に。ハル君・・・・・・だったかな」
ハル「シュナイト・・・・・・!!」
  シュナイトの隣には、やはりフミルの姿があった。
  死を覚悟する・・・・・・だが、もう僕に帰るべき場所は無い。
  ならば、せめて・・・・・・ご主人様が死んだ理由だけでも、知ってから死のう。
ハル「どうして、ジェント伯爵を殺したんだ」
シュナイト侯爵「自明の理さ。私の邪魔をする者は、殺す・・・・・・噂ぐらいは、聞いたことがあるだろう」
シュナイト侯爵「彼は、王権を取り戻そうとした」
シュナイト侯爵「事実上貴族たちを支配し、国政を握っている私からしたらこれ程目障りなことは無い」
ハル「そんなやり方が、許されるとでも思っているのか」
シュナイト侯爵「ふっ、おかしなことを言う。私は、許しを請う立場に無いのだよ」
ハル「・・・・・・何」
シュナイト侯爵「私が、私以外の人間を許すんだ。支配とは、そういうものだ」
ハル「貴様・・・・・・!!」
  身体が、震える。武者震いとは、こういうことか。
  今や怒りは収まり、ただ目の前の男を殺すことだけに全神経を集中していた。
ハル「くっ・・・・・・!!」
  ナイフを素早く服の下から抜き取り、シュナイトの首元に向かって振りかぶる。
  パシュッっと、短い金属音が響く。
  シュナイトの首に突き付けられたはずのナイフは、その中間あたりから真っ二つに分断されていた。
フミル「・・・・・・ふっ」
  その攻撃を放った男・・・・・・フミルは、しれっとした顔で剣を鞘にしまう。
  もう、僕は敵では無いということか。
シュナイト侯爵「安物のナイフで、私を殺しに来たのか」
シュナイト侯爵「それとも、ここには死ぬために来たのか・・・・・・どっちだ」
ハル「聞かれるまでも無い・・・・・・お前を、殺しに来たんだよ!! シュナイト」
フミル「っ・・・・・・」
  身体が煮えたぎるように、熱い。
  どうせ死ぬなら、足掻いてもがいて・・・・・・傷跡を残して死んでやる。
  まずは、あのすかした野郎・・・・・・フミルからだ。
ハル「くたばれ!!」
  身体が軽い・・・・・・遥か遠くにあるように感じたフミルの間合いに、たった一歩で踏み込んだ。
  これなら、躱せない・・・・・・フミルの腹部に踏み込んだ勢いのまま、正拳突きを放つ。
フミル「くっ・・・・・・」
  直撃だが、フミルは倒れない・・・・・・後方に跳ねて、衝撃を受け流したようだ。
  しかし、今が好機だ。間髪入れず、拳の連打を叩き込む。
  壁際に追い詰めているものの、攻防は互角。剣を抜く暇を、与える訳にはいかない。
  このまま、押し切れば勝てる。そう思った時、シュナイトが動いた。
シュナイト侯爵「そこまでだ」
  シュナイトの剣が、向けられる。その剣先は、的確に急所を捉えていた。
  身動きが、取れない・・・・・・。
  このような事態を予測していなかった訳では無いが、いざとなると全身から汗が流れだした。
シュナイト侯爵「君を、少し侮っていたようだ。その獰猛な眼差し・・・・・・歴戦の戦士にも、引けを取らない」
ハル「どうするつもりだ・・・・・・殺すなら、早く殺せ」
シュナイト侯爵「いや、君には利用価値があるようだ」
シュナイト侯爵「フミル」
  シュナイトが目配せをすると、フミルに後ろから縄で縛りあげられる。
  抵抗する間もなく、あっという間に拘束されてしまった。
シュナイト侯爵「君を正式に、私の下僕として邸宅に招き入れようじゃないか」
ハル「何だと。そんなこと、認める訳・・・・・・」
  シュナイトは、懐から印の様なものを取り出す。
シュナイト侯爵「これは、≪下僕の烙印≫という道具でね」
シュナイト侯爵「これを身体に捺されたものは、使用者の命令に逆らえなくなるという代物だ」
シュナイト侯爵「どうだ、便利だろう」
  背中の服を捲り上げられ、印を捺しつけられるのを感じた。
ハル「・・・・・・っ!?」
  背中が、焼けるように熱い・・・・・・まるで、焼き鏝を、押し付けられているようだ
  あまりの苦痛に、身体が仰け反る。
ハル「はぁっ・・・・・・はぁ」
シュナイト侯爵「しばらく、部屋で大人しくしていろ」
シュナイト侯爵「そうすれば、頭も冷えるだろう」
シュナイト侯爵「フミル、連れていけ」
フミル「かしこまりました」

〇要塞の廊下
  縄を引かれ、歩き出す。
  抵抗しようとするが、身体が動かない。おそらく、下僕の烙印の影響だろう。
  改めて見ると、想像以上に広い邸宅のようだ。ジェント伯爵の邸宅とは、比べ物にならないほどに。
  部屋の扉が、廊下に均等な感覚で並んでいる。
  その中の一室に放り込まれた所で、ようやく縄の拘束を解かれた。

〇英国風の部屋
  フミルは一言も話すことなく、部屋を出て行った。
  どっと、疲労感が襲い掛かる。
  見ると、服は汗でびっしょりと濡れていた。
  服を乾かす暇も無いまま、そのまま倒れるように部屋のベッドに寝転がる。
  天井を見つめながら、自身の愚かさを呪った。
ハル「死ぬことすら、許されないのか」
  一筋、涙が零れる。
  だが、悲しみよりも睡魔の方が勝ったようだ。
  すっと、瞼が落ちる。
  訪れる眠気に任せ、そのまま暗闇の世界に身を任せた。

次のエピソード:【第三話】その嬢、扱いに困る

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