両耳にカードの耳飾りを、頭部にカードの髪飾りを付けたピンク髪の小学生女子(脚本)
〇レンタルショップ
大手チェーン店内。
〇本屋
ユウ「ハァー・・・・・・」
ここは本屋と併設されている、カードショップ店内。
俺、遊祈(ゆうき)ユウは今、全国的トレーディングカードゲーム「サヴァト」の最新弾シングルカードを買いに来ている。
〇テーブル席
カードゲーマーA「俺のターン! ドロー!!」
カードゲーマーB「ワイのこの最強の戦略・・・・・・あんさんに打破できまっか??」
カードゲーマーA「来たぞ!ボクの切り札ァ!!!! 『アイアンメイデンの祈り』ィィ!!!!」
カードゲーマーB「ほーん、強いカードでんなぁ。ほならワイはこの『チェーンソー男』で迎え討ちますわぁ」
カードゲーマー達が、フリー対戦スペースで、カードバトルをしている。
〇本屋
ユウ「(俺ならあの場面、『チェーンソー男』じゃなくて『アヌビスの砂嵐』の方を使うな・・・・・・)」
等と、他人の対戦に横槍を入れて考えるのが癖になってしまっている。
仕方ないさ。何せ俺は────、
カードゲーマーA「ウォッ! 誰かと思えば『狂運のYOU』じゃねえか!!」
カードゲーマーA「何で『サヴァト六年連続チャンピオン』のYOUがこんな店に!!」
カードゲーマーB「知らないんか? YOUはんはここの常連なんや」
カードゲーマーB「すんまへんなー。こんなお見苦しい試合お見せして・・・・・・」
ユウ「いや・・・・・・俺がここに来たのは・・・・・・、」
カードゲーマーB「そういや今日は新弾パックの発売日やなー」
そう、そうなのだ。
今日俺がここに来たのは、今日発売の新カードを見に来たのだ。
全国大会出場レベルのカードゲーマーにとって新弾カード発売日は、戦争の為の最新兵器を輸入する日だと言っても過言ではない。
自分が今使っている最強デッキを強化する為の兵器購入日。
ユウ「じゃ、俺もう行くわ」
カードゲーマーB「ほならまたなー!!」
カードゲーマーA「サイン貰っとけば良かったかな・・・・・・」
ユウ「(フゥ~)」
俺はサヴァトじゃ六年連続全国大会優勝者だから、名が売れすぎているんだ。
かなりの確率で来る客に身バレする。
高校終わってそのまま立ち寄ったので、まだ十六時。
ショーケース内のカードを一枚一枚目視しながら――、
ユウ「・・・・・・ハアー・・・・・・」
もう一つため息。
ユウ「(何したって、どうせ俺が勝っちまうだろうなあ・・・・・・)」
俺はサヴァトに限って運が良すぎる。
必ずピンチの場面で逆転のカードを引いてしまう――そういう体質なのだ。
付いた通り名が『狂運のYOU』。
でも・・・・・・強すぎるんだ、俺は。
〇大きい展示場
小学生時代のユウ「これでフィニッシュだ!! 行け! 『深淵より狩るデスサイズ』!!」
前チャンピオン「この私が・・・・・・負けた・・・・・・?」
観客A「凄え! 歴代初の小学生チャンピオンの誕生だあー!」
観客B「あの子がこれからの時代の『サヴァト』を盛り上げていくのかもしれねえな・・・・・・」
俺より年上の選手が何人も出場する中、俺はたった小六にしてチャンピオンとなった。
・・・・・・しかし俺は・・・・・・強過ぎた。
〇大きい展示場
中学生時代のユウ「はい、これで俺の勝ちです」
マリ・ダスピルク・佐藤「クッ・・・・・・この状況で『花咲きモグラ』だなんて・・・・・・」
マリ・ダスピルク・佐藤「ねえ、アナタ本当にイカサマはしていないのよね?」
マリ・ダスピルク・佐藤「運が大きく絡むカードゲームにおいて、四年連続チャンピオンなんてあり得る?!」
観客A「マリリンの言う通りだ!!」
観客B「お前絶対イカサマしてるだろ!!」
と、勝ち過ぎてイカサマを疑われてしまう始末。
〇黒
余談だが、彼女「マリ・ダスピルク・佐藤」は世界的カードゲーム『サヴァト』の開発会社の副社長。
まだ女子高生だが、副社長の仕事をこなしつつ、プレイヤーとしても毎年2位に食い込む実力者だ。
1位は勿論、俺。
彼女については、ここでは置いといて──、
〇本屋
ユウ「・・・・・・ハアッ・・・・・・」
俺は強すぎて、デッキを強化する行為に意味が無い。
何せ「運」が全て何とかしてくれるのだから。
むしろ、これ以上強くなったら誰も俺を倒せなくなる。
バトルを今より楽しめなくなる――等と思ってしまう程だ。
ユウ「(・・・・・・高い割には弱いカードばかりだな)」
今日は新弾シングルの値段相場確認の為だけにここに来た。
正直、購入する意思は無い。
ユウ「(・・・・・・帰るか・・・・・・)」
店の出口に向かおうとしたその時――、
ミサギ「おにぃーさん♡ YOUさんでしょ?」
愛くるしい声で、誰かが俺の名を呼ぶのが聞こえた。
ユウ「(何だ、この子・・・・・・?)」
背丈百四十センチも無いだろう小柄。
服装も、まあ普通。ここまでは良い。
問題は、少女の頭部だ。
彼女の右耳と────、
左耳────。
最後に頭部────。
両耳と頭部に、計三枚のサヴァトカードを、アクセサリーのように付けている。
顔中にトレーディングカードをくっつけている事になる。
ユウ「(何だこの子・・・・・・?)」
誰もが彼女を見たら俺と同じ事を思うだろう。
考えてもみてくれよ? もし二、三十代の良い年した男が美少女の印刷されたカードを頭部と両耳に付けて街歩いていたら・・・。
ユウ「(小学生女児にしか許されない格好だな・・・・・・)」
ユウ「(そもそも何でピンク髪なんだ?)」
ユウ「(染めてんのか?)」
ユウ「(親御さんや友達は何て言ってるんだ?)」
ユウ「(普段その恰好で学校行って、街歩いて、電車乗ってんのか?)」
〇黒
余談だがこの『マリ・ダスピルク・佐藤』の銀色の髪は、ロシア人のハーフだからだ。
地毛か、あるいは幼少期髪を染める文化圏で育ったからだろう。
俺のは青に勘違いされやすいが、青寄りの黒────地毛だ。
ピンク色の髪をした人間なんて、いるワケない。
〇本屋
ミサギ「ねぇおにぃさん、全国チャンピオンのYOUさんでしょ?」
ユウ「え!? あぁ・・・・・・」
少女の一声で我に返る。
ミサギ「私、『ミサギ』って言います! 小六です!」
ミサギ「アナタの大ファンです! 一試合だけで良いので、是非勝負して下さい!」
邪心を感じさせない笑みを俺に向ける。
ユウ「(女子小学生にサヴァトを申し込まれるのは人生初だな・・・・・・)」
ユウ「(変な格好だけど、悪い子じゃなさそうだ。個性は強そうだが)」
ユウ「あ・・・・・・ああ、良いよ」
ミサギ「いいいやったぁー! あのYOUさんと勝負できるなんて!」
ユウ「このカードショップのフリー対戦スペースはたいてい空いている。案内するよ」
と、その時────。
ミサギ「さぁ行くよ! ニコラウス!」
ミサギ「シュビビーン♪」
少女、ミサギが左手でポケットからカードの束であるデッキを取り出し────、
右手で頭部と左右耳のカードを素早く取り外す。
ミサギ「シャカッ♪ シャカッ♪ シャカッ♪」
右手に持つ三枚のカードをデッキ内に混ぜ込んで、シャッフルし始めた。
ユウ「(だから、三枚だったのか・・・・・・)」
サヴァトのルールでは同名カードを最大三枚まで入れる事ができる。
彼女が顔面に張り付けていた三枚は、彼女の切り札カードだった訳だ。
ユウ「(・・・・・・けれど、シャッフルの仕方はお粗末な物だな)」
ミサギ「シャカッ♪ シャカッ♪ ・・・・・・うわぁぁ溢れるぅー!!」
ヒンズーシャッフル。
片方の手でデッキを持ち、もう片方でデッキの一部を抜き取り、差し込み、それを繰り返す、最もオーソドックスなシャッフル法。
ユウ「(簡単なシャッフルなのに、手つきがたどたどしい・・・・・・)」
ユウ「(シャッフルの仕方だけで、この子が素人だと分かる)」
ミサギ「よおし! 戦闘準備完了です! いざ尋常にお願いしますね!」
ユウ「(ま、たまには息抜きも必要か・・・・・・)」
大きく背伸びしてから、対戦スペースに赴く。
〇テーブル席
――――勝負は二時間にも及んだ。
二時間にも及ぶ激闘の末、俺は――――、
ユウ「ウソ・・・・・・だろ・・・・・・?」
女子小学生相手に、人生初の敗北を喫した。
ミサギ「やったぁー! あの憧れのYOUさんに勝ちましたぁ!」
邪気の含まれていない笑み。普通の少女そのものの笑み。
ユウ「(そ、そんな訳が無い! この子が普通の少女なワケが!)」
ユウ「(俺を倒しただって!? そんな偉業、この六年間で誰一人、一度すら達成していないというのに!)」
ユウ「(それも、全国大会の常連陣ならともかく、年端もいかぬ、大会出場記録すら無い少女が!?)」
ユウ「(いや、まさか記録あるのか!?)」
ユウ「(だが見た事が無い! 俺は出場者の顔と名前をほぼ全員分頭に入れている!)」
ユウ「(この子のデータは無い!)」
ユウ「(この子は俺と同じ・・・・・・いいや、俺以上の「狂運」の持ち主なのか!?)」
ミサギ「おにぃーさん! おにぃさんの敗因は簡単ですよ!」
椅子に座ったままの少女は、デッキから三枚の同名カード――頭部と両耳に付けていたイケメンキャラを取り出し────、
ミサギ「『推しへの愛』です!」
ミサギ「ミサギは毎日ニコラウスと一緒にいます!」
ミサギ「街を歩く時でもお風呂の中でも寝る時でも!」
ミサギ「普段ニコラウスに愛情を注いでいるから、ミサギがピンチの時、山札の中からニコラウスはいつも駆けつけてくれるんです!」
ドヤ顔で見せつけてくる。
ユウ「・・・・・・」
俺は二、三歩、後退(あとずさ)ってしまう。
この得体の知れない少女の存在に、俺の体が恐怖を感じ始めているのだ。
ミサギ「・・・・・・なーんて、そんなのウソですよ! カードが勝手に動くワケないじゃないですか♡」
ミサギ「本当の理由はこうですよ・・・・・・」
彼女は俺の耳元に近寄り────、
甘く、優しく、こう囁く────。
〇黒
────『運』じゃ『イカサマ』には勝てませんよ────?
イカサマ――そのワードが、俺の脳内で何度も木霊した。
〇テーブル席
ユウ「・・・・・・ハッ!!」
我に返った時には、対戦スペースにも一階のレジにも、少女の姿は無かった。
〇渋谷のスクランブル交差点
ミサギ 「〜〜♡」
人混み行き交う路上。
ミサギは任務を終え、アジトに戻ろうと、のらりくらりと駅に向かっていた。
ミサギ 「あ、義父(パパ)からだ♡」
ミサギ 「もしもしパパ? 任務終わったよ~」
「『どうだった? 彼は』」
ミサギ 「う~ん・・・・・・。まあ強かったよ」
ミサギ 「でも期待してた程じゃ無かったかなぁ」
ミサギ 「しょせん、『表社会のカードゲーマー』だよ」
ミサギ 「『裏の社会』じゃ通用しないと思う。 ・・・・・・今はね」
ミサギ 「だってさぁ~聞いて? あの人、ゲームスタート時にお互いのデッキをシャッフルしようとも言ってこないんだもん」
ミサギ 「公式戦じゃないから油断してたのか、ミサギが小学生に見えるからなのか分からないけど・・・・・・」
ミサギ 「山札の中の順番、いじり放題だったよ~」
「『我ら『賭ヶ札(かけふだ)家』の役に立ちそうな人材だったか?』」
ミサギ 「う~ん、どうだろ?」
「『・・・・・・まあ良い。詳しい報告はこちらに帰宅次第、レポートに纏めて貰う』」
ミサギ 「はぁ~い、パパ」
〇お化け屋敷
賭ヶ札 魅詐偽(かけふだ みさぎ)――それが、彼女が賭ヶ札(かけふだ)家から頂いた名。
勿論この漢字は裏の人間の前でしか使用していない。表の人間の前では全うな漢字、あるいは偽名を利用。
賭ヶ札(かけふだ)家は、トレーディングカードの偽造、強奪、転売等を収入源の一部としている組織。
だが最も主である財源は────、
〇大広間
裏社会で行われている、賭博法を無視した『裏の大会』で勝利する事による優勝金。
彼らは大金が出れば、カードの種目すら問わない。
『表の大会』と比べて『裏の大会』が天と地ほど勝っている点は、その優勝賞金額。
世界各国の要人達――はたまたヤクザや極道、マフィア等の反社会団体まで大会スポンサーになってきている為、
その優勝額は万年膨れ上がってきている。
その優勝候補組織と目されているのが賭ヶ札(かけふだ)家である。
裏の大会ではしばしば「昔のとある王族の臓器」や「目玉」等────、
表の大会ではとてもでは無いが扱えない、いわくつきの優勝品が出される事がある。
そんな珍妙な代物も一部のマニア、あるいはその品に縁(ゆかり)のある人物等には高値で売れる。
〇霧の立ち込める森
そんな『裏の大会』の会場は世界各国の秘境に隠されている。
日本支部の会場は山梨県富士樹海の地下に存在。
賭ヶ札(かけふだ)家が現在目をつけているカードゲームこそが「サヴァト」。
裏社会で行われるサヴァト大会――通称【裏サヴァト】がここ最近盛んに行われてきているのだ。
そこで、表サヴァト最強と謳われている遊祈(ゆうき)ユウに対し────、
賭ヶ札(かけふだ)家の教育カリキュラム『詐術学』でトップの成績を収めた魅詐偽(みさぎ)が彼との接触、調査を命ぜられた。
魅詐偽(みさぎ)は実年齢十八歳。
通っていれば高校三年生。
年を取っても何故かその愛くるしい見た目が変わらない為────、
多くのプレイヤーは彼女をただの小学生女児だと侮って互いのデッキシャッフルを怠る。
魅詐偽(みさぎ)はその詰めの甘さを突き────、
完全犯罪のイカサマを成し遂げ、今日まで敵を葬って来た。
〇お化け屋敷
小五で賭ヶ札(かけふだ)家の養子に入ってからの約七年間毎日、徹底した「イカサマ」の英才教育を施された。
数十種類あるシャッフルの仕方は勿論、それを如何に素人のように演技するか。
山札カード一枚一枚へのバレないマーキング法。
対戦相手の視線誘導術。
観戦料が一万ドルを超える裏サヴァトを見に来るような、世界各国から集まってくるお客様方はどなたも社会的地位が高い。
そんな彼らは、熱く真っ直ぐな「子供の試合」等では無く────、
巧みなイカサマを使って狡猾に騙し合う「大人の試合」を見たがっている。
〇大広間
ここ数年、魅詐偽(みさぎ)は裏サヴァトにて毎年チャンピオンだ。
『ポーカー』『ブラックジャック』等の実力で名を上げた勝負師でも、『裏サヴァト』というTCGで彼女に勝利した者は皆無。
だが六年間もの間、「表社会とむやみに接触してはいけない」という理由で「遊祈(ゆうき)ユウとの接触」を禁じられていた。
それをやっと解禁して貰え、今日彼と戦(や)るのをどれだけ待ち遠しく想っていた事か。
〇渋谷のスクランブル交差点
ミサギ 「(でも、その結果がアレか・・・・・・)」
決して彼、遊祈(ゆうき)ユウは弱くない。だけど・・・・・・。
ミサギ 「『偶然頼りの運では決して、必然を引き寄せるイカサマには勝てない』」
ミサギ 「・・・・・・だよね、パパ!」
「『そうだ。運とは自分で作り出す物なのだから』」
それが義父(パパ)の基本教育方針。
ミサギ 「(彼は、「今は」まだ裏世界じゃ通用しない。だけどもし――)」
ミサギ 「(もし、運だけでミサギをあそこまで追い詰めたあの人が賭ヶ札家直伝のイカサマ術を身に付けたら・・・・・・)」
ミサギ 「(一体どんなプレイヤーになっちゃうんだろう・・・・・・)」
ミサギ 「パパ! 次はいつあのおにぃさんと戦える?」
「・・・・・・」
〇洋館の廊下
「『パパ! 次はいつあのおにぃさんと戦える?』」
義父「・・・・・・」
実年齢が18歳なのに小学生女子に見せかけている時点でイカサマが始まっているんだから、ミサギに勝つのは難しそうです。ユウの正攻法(運)とイカサマを組み合わせたら結果は意外とプラスマイナスゼロになってしまいそうですが、実際はどうなんでしょうね。