101通目のメール ~葉桜と魔笛~

YO-SUKE

第3話 純潔(脚本)

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〇病室
  寝ている凛を医師が診察している。
  その横で心配そうに見守る奈々子。
医師「微熱ですね・・・ 大丈夫、安心してください」
北澤奈々子「良かった・・・!」
医師「肺炎を併発する恐れがあるので、 引き続き注意するようにします」
北澤奈々子「はい。ありがとうございました!」
  頭を下げる奈々子。
北澤奈々子「お父さん・・・!」
  英二は凛の横に座ると、凛のか細い手を
  大きな両手で優しく包み込む。
北澤英二「良かった・・・凛が無事で良かった」

〇黒
北澤奈々子「この時、凛の手に縋るお父さんが、 珍しく弱気に見えた」
北澤奈々子「今にして思えば、あの時、 お父さんはもう覚悟していたんだと思う。 凛の命が長くないことを」

〇新緑
  第三話「純潔」

〇病室
  庭から蝉の鳴き声が聞こえる。
  ぼうっとして天井を見上げる凛。
  その横で、奈々子は林檎を切っていた。
北澤奈々子「もうすぐ剥けるから、少しは林檎食べてよ」
北澤凛「うん・・・ありがとう。 お姉ちゃん、窓閉めてもらえるかな?」
北澤奈々子「蝉の声がうるさいもんね」

〇黒
北澤奈々子「凛はみるみるうちに弱っていった。 私はその横にいて、不憫な妹のために何もしてあげることが出来なかった」
北澤奈々子「季節は移ろい、夏が始まろうとしていた。 医師が凛の余命が100日と告げてから 一ケ月半が経とうとしていた」

〇学校の屋上
遠山将司 「具合は、もう大丈夫なの?」
北澤凛「はい・・・ だいぶ良くなってきたと思います」
遠山将司 「ほんと?」
北澤凛「そんなに疑うなら、 私、病室に戻りますけど」
遠山将司 「あー、ごめん! ようやく凛ちゃんと会えたんだから、そんなこと言わないで」
北澤凛「それより、小説読ませてもらいました」
遠山将司 「どうだった、かな?」
北澤凛「最初は少し感情移入できなくて・・・ なんで主人公たちは自分の感情を抑えきれず、恋愛しちゃうんだろうって」
北澤凛「でも後半は、いつの間にか主人公の気持ちになっていました」
北澤凛「私も、あの主人公のようにここではないどこかへ、連れて行って欲しいって思いました」
遠山将司 「そっか・・・ありがとう。 でもあの続きが書けなくてさ」
北澤凛「それなんですけど、私はあそこで終わってていいかと思いました」
遠山将司 「え・・・? なんで?」
北澤凛「上手く言えないんですけど・・・ 私、物語の終わりには色々な想像ができるほうが好きなんです」
遠山将司 「なるほど・・・オープンエンディングか」
遠山将司 「文学研究で使われる言葉なんだ。 物語の最後、読者の想像が広がるような開かれた終わり方のことを指して使うんだ」
遠山将司 「凛ちゃんのおかげで自信出てきた。 ありがとね!」
北澤凛「わ、私は別に・・・ 感想を言っただけなんで──」
遠山将司 「ねえ、凛ちゃん。小説を読んでくれたお礼をしたいからなんでも言って」
北澤凛「何でもいいんですか?」
遠山将司 「遠慮なく。僕に出来ることなら」
北澤凛「なら・・・こっそり病院を抜け出して、 ショッピングに行きたいです!」
遠山将司 「うん。わかった。なんとかする!」
北澤凛「できれば・・・その時にゆっくりお話したいこともあって」
遠山将司 「お話したいこと・・・?」

〇病室
  凛が真剣な顔でノートパソコンに何かを
  打ち込んでいる。
北澤凛「これでいい・・・これで最後──」
  送信ボタンを押す。
北澤奈々子「あれ・・・起きてたの?」
北澤凛「うん。ずっと起きてたよ」
北澤凛「お姉ちゃん・・・いつもありがとね」
北澤奈々子「え?」
  凛は立ち上がる。
北澤奈々子「どこ行くの?」
北澤凛「ちょっと風に当たってくる」

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