101通目のメール ~葉桜と魔笛~

YO-SUKE

第1話 余命100日(脚本)

101通目のメール ~葉桜と魔笛~

YO-SUKE

今すぐ読む

101通目のメール ~葉桜と魔笛~
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇神社の本殿
  大晦日の夜
  除夜の鐘が鳴り響く。
  お賽銭箱の前で手を合わせる
  北澤奈々子(きたざわななこ)と
  北澤凛(きたざわりん)
北澤凛「ねえ。 お姉ちゃんは、神様の存在を信じてる?」
北澤奈々子「もちろん。ちゃんと頑張っている人を、 見てくれているもん」
北澤凛「へぇ。 お姉ちゃんって案外信仰心とかあるんだ」
北澤奈々子「こら。案外は余計だからね」
北澤凛「それで何をお願いしたの?」
北澤奈々子「内緒。そういう凛は? 何お願いしたの?」
北澤凛「素敵な恋人ができますように」
北澤奈々子「ちょっ! そんなことお父さんの前で絶対 言わないでよ!」
北澤凛「あはは。当たり前じゃん」
北澤凛「でももっと正確に言うと・・・ 背が高くて、スラっとしてて、」
北澤凛「私のことだけを好きになってくれる イケメンの恋人が欲しいなぁ」
北澤奈々子「はいはい。いないからそんな男」
北澤凛「わかんないよ~。来年あたりは運命的な 出会いをしちゃうかもしれないよ~」
北澤奈々子「あのねぇ・・・」
  凛は奈々子をからかうようにして、
  楽しそうに飛び跳ねる。
北澤奈々子「その時は思いもよらなかった。 こんなに元気な凛の身体が、 病魔に蝕まれていたということに」

〇新緑
  『101通目のメール~葉桜と魔笛~』
  第一話「余命100日」

〇病院の診察室
  五か月後
  医師の前で、奈々子と北澤英二(きたざわえいじ)が固まっている。
北澤奈々子「あの・・・もう一度お願いします」
医師「診断の結果、凛さんの余命は・・・ 約100日。三か月というところです」
北澤英二「そう、ですか・・・。わかりました。 ご診断ありがとうございました」
北澤奈々子「凛はまだ16歳になったばかりなんです!」
医師「残念ですが・・・」
  顔を暗くして俯く医師に、
  すがりつくように迫る奈々子。
北澤奈々子「お願いします。なんとか助けてください。お願いします」
医師「・・・・・・」
北澤英二「奈々子。やめなさい。 先生が困っているだろう」
北澤奈々子「なんでお父さんは冷静でいられるわけ!? 凛が死んじゃうんだよ・・・!」
北澤英二「やめろ!」
  怒って立ち上がる英二。
北澤英二「それでは失礼します」
北澤奈々子「待ってよ、お父さん・・・!」

〇学校の屋上
  凛がフェンスにもたれかかり、
  ぼんやりと遠くの景色を眺めている。
  はるか遠くの山々に、
  新緑の葉桜が生い茂っているのが見える。
北澤凛「葉桜か・・・きれい・・・」
???「稲馬山脈のあたりだね」
  凛の横に立つ若い男性。
遠山将司 「あのあたりは満開の桜も見頃だけど、 今の時期の葉桜もいいよね」
北澤凛「・・・あの」
遠山将司 「あ、ごめん。急に話しかけちゃって。 よくここで見かけてたから。 いま入院してるの?」
北澤凛「はい。602号室です」
遠山将司 「じゃあ僕のお母さんの部屋と近いね。 僕はお母さんのお見舞いで来てるんだけど、しつこすぎて追い出されちゃった」
遠山将司 「『あんたの顔ばっか見てると治るもんも 治らないからどっか行け』だって」
北澤凛「あはは。お母さん、面白いんですね」
遠山将司 「あ、笑った。いいなぁ、 その顔・・・・・・すっごくかわいい」
北澤凛「え! あ、いや・・・その──」
遠山将司 「君、名前は?」
北澤凛「北澤凛って言います」
遠山将司 「高校生?」
北澤凛「はい。でも病気で全然学校行けてないんですけど・・・」
遠山将司 「僕の名前は遠山将司(とおやままさし)。 この近くの大学で文学部に通ってる」
北澤凛「文学部・・・小説とか好きなんですか?」
  将司は得意そうにノートパソコンを見せる。
遠山将司 「どっちかというと、書くほうだけど」
北澤凛「え? 自分で書くんですか!?」
遠山将司 「実力はまだまだなんだけど、将来は作家になって、多くの人を感動させたい」
北澤凛「すごい・・・すごくいいと思います」
遠山将司 「北澤さんは、そういう夢とかないの?」
北澤凛「私は・・・病気だし、学校も行けてないし、話し相手もいないし・・・夢なんて」
  落ち込む凛に、将司が優しく微笑む。
  ポケットからメモ用紙とペンを取り出すと、乱暴に何かを書き込む。
北澤凛「あ、あの・・・!」
遠山将司 「はい、これ。僕のメールアドレス。 暇なとき、なんでも連絡して」
北澤凛「・・・?」

〇病室
  凛がベッドに腰かけてノートパソコンに 何かを打ち込んでいる。
北澤奈々子「あ、また友達とメールしてたの? 美桜ちゃん? 真理子ちゃん?」
  凛は慌ててノートパソコンを脇に置く。
北澤凛「う、うん。そんなとこかな」
北澤奈々子「お花のお水・・・変えるね」
  奈々子はぎこちない手つきで、
  花瓶を手に取る。
北澤凛「・・・お姉ちゃん。いいよ。 今朝変えたばかりだから」
北澤奈々子「ん? 何が?」
北澤凛「だから、お花のお水」
北澤奈々子「あぁ・・・うん」
  落ち込んだ顔で椅子に腰かける奈々子。
北澤凛「お姉ちゃん、はっきり言って。 大丈夫だから」
北澤奈々子「なんのこと?」
北澤凛「お医者さん。 さっき私の病状を聞いてきたんでしょう」
北澤奈々子「なんの心配もいりません! だって」
北澤奈々子「あのお医者さん、ただでさえ仁王像みたいな怖い顔してるのに、眉間に皺寄せて言うからビックリしちゃった」
北澤凛「・・・そっか」
北澤奈々子「夏くらいには退院できるんじゃないかな?」
北澤凛「・・・うん。私、ジュース買ってくるね」
北澤奈々子「え、いいよ。それなら私が──」
北澤凛「いいのいいの。私のおごりー」
  凛が病室を出て行ったあと、
  菜々子は涙を拭った。
北澤奈々子「どうして・・・あんなに明るくて、 あんなに元気なのに・・・ 凛が死ななくちゃならないの──」
  凛のノートパソコンのメール送信者の欄に「M・T」と書かれている。
北澤奈々子「M・T? 凛の友達にそんな子いたかな・・・」
  奈々子は周囲を見回すが、
  人のいる様子はない。
  辺りを伺いながら、メールを確認する。
北澤奈々子「『親愛なる凛ちゃんへ。 突然の告白だったのに、快く受け入れてくれたこと、今でも驚いてる』」
北澤奈々子「『僕は凜ちゃんの恋人として相応しい男に・・・』って」
北澤奈々子「どういうこと!? 凛に恋人ができたの・・・!?」

次のエピソード:第2話 恋愛厳禁

成分キーワード

ページTOPへ