俺は、イケメン助手の傀儡探偵

しのぐ

エピソード1(脚本)

俺は、イケメン助手の傀儡探偵

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〇学校の部室
土井 姉「私のバスパンが盗まれたの!」
スイ「・・・・・・」
レオン「新しい依頼ですね、スイさん」
  それがバスケサークル所属の依頼主が、俺と助手役の百山 零音(ももやま れおん)に発した一言目だった。

〇学校の部室
  ここは令和大学「探偵サークル」の部室内。
  部員は探偵役の俺、探口 推(さがぐち すい)と助手役の百山 零音(ももやま れおん)の二名のみ。
  俺が探偵役。
  コイツが助手役だ。
  零音(れおん)は、去年までこの大学の四年生だった俺の兄貴と共に、助手と探偵の関係でサークル活動を進めていた。
  兄貴が就職して部員が彼一人になってしまうという理由で────、
  一年生の俺は兄貴の命令により入学早々、無理矢理この部に入れられた。
  しかもいきなり探偵という職務に付けられた。
  普通、零音(れおん)が探偵に格上げされて、俺が助手役に収まるものだろうに。先輩と後輩の関係的に。

〇黒
レオン「(スイくんの推理力の凄まじさはお兄さん以上だと以前からお聞きしていました!)」
  等と言うから、渋々引き受けた。
  あの馬鹿兄貴・・・・・・何を彼に吹き込んだのだろう?

〇学校の部室
レオン「どうですか? 今回の依頼は?」
スイ「んー、まぁ、普通だな」
  零音(れおん)曰く、助手と探偵という関係である以上、先輩だがタメ口で接して欲しいのだと。
レオン「慣れていらっしゃる感じでしたよ。流石ご実家が探偵事務所なだけありますね!」
  そう、俺の実家は探偵事務所。

〇オフィスビル
  子供の頃から俺と兄貴は、親父が依頼を解決する姿を見て育った。
  親父は将来、自分の稼業を俺達に継がせる気だ。
  ちなみに兄貴は親父の事務所に就職した。

〇学校の部室
スイ「探偵・・・・・・か」
レオン「どうされました?」
スイ「本物の探偵は浮気やらストーカーやら社会の闇の部分と接する仕事なんだよ」
スイ「決して綺麗な仕事じゃない」
レオン「さすが。お詳しいですね」
スイ「親父の背中を見て十九年間育ったからな」
  先輩である零音(れおん)に対してタメ口を使うのが申し訳無く思う事がある。
  ──だが──、
レオン「スイさんは将来有望な探偵です!」
  彼の纏う「愛嬌オーラ」が、俺を無遠慮にさせる。
  失礼な物言いをすると、「助手の纏うオーラ」・・・・・・というべきか。
  少なくとも、「探偵の威厳」を彼から感じ取る事は出来ない。
レオン「これがバスケサークル部員七名の情報です」
スイ「メンバーは「月牙(げつが)」「火室(ひむろ)」「水橋(みずはし)」「木絵(もくえ)」「金木(かねき)」────、」
スイ「そして「土井(どい)」という双子の姉妹」
スイ「男子部員が四人、女子部員が三人」
スイ「何の因果か全員、曜日の入った苗字だな」
レオン「覚えやすいですね!」
スイ「依頼主は土井 幸子(どい さちこ)、三年生」

〇黒
  バスケサークルのキャプテン。
  性格は誰にでも優しく、時に厳しい――だが愛情の籠った厳しさ。
  頼りがいのあるキャプテンにして、サークルのマドンナ。

〇体育館の中
  事件概要は、彼女がサークル活動後に体育館から更衣室に戻り、ロッカーを開けた所────、
  バスパン・・・・・・バスケ専用のズボンが盗まれていた
  ズボン泥棒が誰か、見つけ出す事が今回の依頼内容だ

〇学校の部室
レオン「彼女は、ロッカーに鍵をかけていなかったのですか?」
スイ「この大学の更衣室のロッカーに鍵は無い」
スイ「正直、大学側の防犯意識に甘さを感じざるを得ないな」
レオン「土井さんは、部員の中に泥棒がいるとお考えなのですよね?」
スイ「ああ。犯行当日は、体育館にバスケサークルの部員のみしかいなかったらしいからな」
スイ「そして活動時刻は、九時~十二時の三時間・・・・・・」
スイ「一限と二限のある時間だ。大体の学生は授業に出ていた筈の時間」
レオン「土井さんの主張だと犯人は・・・・・・」
スイ「ああ・・・・・・」

〇体育館の中
「火室(ひむろ)という、一年生の男子生徒」
「彼だけが唯一、三時間のサークル練習中に、お手洗いを理由に体育館から姿を消した」

〇学校の部室
レオン「犯行当日、部員は全員揃っていたのですか?」
スイ「いいや、一人足りなかった」

〇体育館の中
「土井さんの双子の妹、土井 幸枝(どい さちえ)さんだ」
「明るい姉と違って、引っ込み思案な性格」
「・・・・・・仮に『土井妹』と呼ぶ事にしよう。土井妹はその日、中国語の授業でサークル活動に参加していなかった」

〇学校の部室
レオン「常識的に考えるならば、下着泥棒は男性である可能性が高いですよね」
レオン「被害者を除く、二人の女子部員が犯人である可能性は低い」
スイ「土井姉妹を除く女子部員は・・・・・・金木(かねき)さん、か」
スイ「レオン、アンタの調べでは・・・・・・、」
レオン「ええ。全部員が土井さんに好意を抱いています」
  兄から聞いていたが・・・・・・この百山 零音(ももやま れおん)の調査力は半端じゃない。
  依頼主の人間関係を徹底的に調べ上げるのだ。
レオン「このままだと、火室君が犯人扱いになってしまいますね」
レオン「既に部員間で、彼は下着泥棒の烙印を押されてしまっています」
スイ「濡れ衣であろうと、彼が本当に犯人であろうと、俺達が解決しなければサークルに亀裂が入ったままになってしまう」
スイ「互いに互いが疑心暗鬼のまま日々を過ごす事になる」
スイ「重要なのは、『解決に至る』事だ」
レオン「犯人を見つけ出してしまえば、どのみちサークルに亀裂が入ってしまいませんか?」
スイ「現状よりはマシだ」
スイ「今、バスケサークルは『傷口に針が刺さったまま』の状態だ」
スイ「針を抜いてやらなければ、回復にすら至らない」
スイ「・・・・・・『未解決に終わる事件は、生涯の心の傷となる。カサブタとなる事は永遠に無い』」
レオン「そのお言葉・・・・・・スイくんのお父様や、お兄様の教えですか?」
スイ「俺の持論だよ」
  その後、俺達二人は部室を出て、更なる証拠集めの為に学内を駆け巡った。

〇体育館の中
  三日後。体育館にて。
土井 妹「・・・・・・」
火室「・・・・・・」
土井 姉「犯人が見つかったって、本当?」
月牙「・・・・・・」
水橋「・・・・・・」
木絵「・・・・・・」
金木「・・・・・・」
  部員七名全員に、体育館へ集まって貰った。
スイ「はい。見つかりました」
木絵「火室が犯人だろ?」
金木「そーよ。他のメンバーにはアリバイがあるわ」
月牙「こんなヤツ、警察に突き出しちまおうぜ」
火室「ぼ、ぼくじゃない!」
スイ「単刀直入に言います。犯人は――、」
スイ「アナタ『達』だ!!」
金木「・・・・・・へ? ウチら?」
土井 姉「・・・・・・」
金木「はぁ?! 何でウチらぁ?!」
土井 姉「待って? 私は、今回の事件の依頼主よ?」
スイ「順を追って説明します」
スイ「事件当日、火室君が体育館から出たのは、十時半から十一時の三十分と言っていましたね?」
土井 姉「そ、そうだけど?」
スイ「その時間、彼が女子更衣室に入る事が出来た筈が無いんです」

〇更衣室
「あの日のあの時間、女子更衣室は清掃員の方が掃除する為、入室禁止状態だったのですから」

〇体育館の外
「彼が体育館を出たのには、他の理由があった」
「お手洗いでも、衣服を盗む為でもなく、それは――、」
「アナタに逢う為です」

〇体育館の中
スイ「アナタに逢う為です」
土井 妹「・・・・・・え? え? わ、わたし?」
スイ「正確には、アナタに成りすました土井姉に逢う為」
土井 姉「・・・・・・」
スイ「あの日、アナタ達二人は、『入れ替わり』ましたね?」
土井 妹「え・・・・・・?」
スイ「お姉さんがアナタの授業に出席し、姉の代わりにアナタがサークル活動に出た、という意味です」
土井 妹「ど、どうしてそれを?」
土井 妹「・・・・・・ハッ!」
  次の瞬間、「しまった!」と言わんばかりに、両手で自身の口を塞ぐ土井妹。
  嘘の付けない性格なようだ。
スイ「中国語担当の教授に聞いたのです、あの日のアナタが、異様に中国語が堪能だった事を」
スイ「その日行われた小テストの成績も、教室内に三十人いた学生の中でダントツの一位」
スイ「普段のアナタは、下から数えた方が速い程、低い成績だというのに」
スイ「反対に土井姉は、令和大学で一番中国語が上手い」
スイ「聞けば、高校は中国の方の高校にいたとか」
土井 姉「『聞けば』って・・・・・・いったい誰から?」
レオン「・・・・・・」
  『誰から』の答えは、『零音(れおん)から』、だ。
  彼の情報網がどうなっているのか、こっちが聞きたい
スイ「一限の時間は九時から十時半。サークルの活動時間は九時から十二時」
スイ「土井妹に成りすまして中国語の授業に出た土井姉は一限が終わってすぐ、火室君と密会した」
火室「え・・・・・・あの時ボクと逢っていたのは妹の幸枝(さちえ)さんじゃなくて、姉の幸子(さちこ)さんの方だったの?」
火室「・・・・・・ハッ!」
  両手で自身の口を塞ぐ火室君。先程の土井妹と同じ反応だ。
  おおかた土井妹(のフリをした土井姉)に、「この事は二人だけの秘密だよ?」とかなんとか言われて、皆に黙っていたのだろう
スイ「妹のフリをして火室君の前に現れた土井姉」
スイ「それは火室君を体育館外へおびき出す、土井姉と金木さんの作戦でした」
スイ「火室君に下着泥棒の濡れ衣を着せる為の作戦」
金木「ウチら二人が何で火室君を下着泥棒に仕立て上げなきゃなんないのよ?」
スイ「それは・・・・・・アナタ達二人が、土井妹に好意を寄せているから、です」
  俺はふと思い出す。零音(れおん)が三日前、俺に言った言葉を。

〇黒
レオン「(はい。全部員が土井さんに好意を抱いています)」

〇体育館の中
スイ「土井妹さん。アナタは・・・・・・火室君に好意を抱いていますね?」
土井 妹「な・・・・・・・・・・・・な、な、な、なんでそんな事まで知ってるの?」
スイ「金木さんとお姉さんは、両想いであるアナタと火室君に結ばれて欲しくなかった」
スイ「だから火室君を下着泥棒に仕立て上げる事で、幻滅させたかった」
スイ「・・・・・・俺の推理、当たっていますか?」
土井 姉「・・・・・・」
土井 姉「・・・・・・イエスよ」

〇学校の部室
スイ「フゥ~・・・・・・疲れた・・・・・・」
レオン「今回は、百合(ゆり)の事件だったという事でしょうか?」
  事件を解決し、部室でくたびれている俺に対し、零音(れおん)が問う。
スイ「百合の事件、か」
スイ「女性同士の恋心が起こした事件・・・・・・というよりは、魅力的過ぎる人間への想いが引き起こした事件、なのだろう」
スイ「何せ、部員全員が一人の女性に好意を抱いていたのだから」
スイ「恐るべきは、土井妹の魅力・・・・・・」
レオン「何にせよ、お見事な手腕でした!」
レオン「改めてスイさんの推理力を見直しました!」
スイ「・・・・・・」
  ・・・・・・
  ・・・・・・天真爛漫な笑みを俺に向ける零音(れおん)に対し、俺は、こう思ってしまう。

〇黒
  今回の事件「も」、お前が解決したようなものではないか?
  あれだけの情報を、いったいお前はどこから手に入れたんだ?
  お前は何故、俺の兄貴が作ったこの探偵サークルに入ったんだ?
  俺はお前に、傀儡(くぐつ)にされているような気がする。
  事件解決に至る為の傀儡(くぐつ)に。
  百山 零音(ももやま れおん)よ・・・・・・。
  俺は、どんな事件の真相より、「お前の正体」の方が、気になる。

コメント

  • スイ本人が自身を傀儡だと自覚するほど、明らかにレオンの掌で踊らされていますね。人当たりが良くて威圧感がない飄々としたタイプのレオンだからこそ余計に不気味です。いったい何の目的でスイに探偵役をやらせているのか・・・。読者にとってもレオンの思惑が一番のミステリーです。

  • スイさんとレオンさん、名コンビだなあと思いました!
    レオンさんの物腰柔らかそうな雰囲気なのに、すごい情報通なところが素敵でした☺️
    火室くん、みんなに疑われて可哀想だったけど謎が解けて良かったです🥹
    私も彼の雰囲気的に一瞬火室くんかな?と思っちゃったのは内緒です🤫笑

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