事変の序曲(7)(脚本)
〇古い競技場
木場「バロン吉宗」
木場「兇徒騒擾罪、及び前憲兵司令来栖川義孝を詐称し軍部を貶めた罪により憲兵隊が身柄を拘束する」
木場「ひったてーい!」
最上「ど、どういう事だ木場!」
最上「その男は俺が・・・いや」
最上「われら戒厳兵が監視していた、国家騒乱に関する重要人物である!」
最上「そこまで憲兵隊は手柄に飢えているのか!天粕司令の名代として断固抗議する!」
最上「納得のゆく説明をせよ!」
木場「フッ、いいでしょう」
軍人「これは天粕司令の命であります!」
最上「な、なに?」
軍人「バロン吉宗が来栖川前指令を騙り、軍国の威光を貶め自由主義を扇動せしめんとするは全て憲兵隊が撒いた種」
軍人「ゆえに憲兵隊で『処理』するようにと」
木場「フッ、いかにも」
最上「クッ・・・」
木場「フッ、さらに言えば」
軍人「軍部には未だ来栖川前指令を信奉し、その生存を信じて疑わぬ狂信的保守派も多い」
軍人「そのような輩が、偽物を傀儡に陸軍を掌握せんとも限らぬ」
軍人「残念ながら憲兵司令部にも左様な鼠がいるやもしれぬ。よって偽来栖川義孝の身柄は憲兵隊」
軍人「憲兵司令大泉吾一殿に一任せよ最上少尉!」
軍人「との言伝を、天粕戒厳司令より承りました」
木場「フッ、以上です」
木場「フッ、僕、難しいことよく分かんないんで」
木場「それでは定時なのでお疲れ様でした!」
伝八「フッ、じゃねーだろ」
伝八「それにしてもしてやられたな。天粕閣下は全部お見通しだったってわけか」
伝八「懐に入ったはいいが手の中で弄ばれてたってか」
伝八「あ~あ。手詰まりだな」
最上「甘くみてた。あいつは鉄面皮程度で出し抜ける男じゃなかった」
帝都日報編集長「ああ、こちらにいらっしゃいましたか石塚刑事」
伝八「なんでえ。こちとら気が立ってんだ」
伝八「今、だれ彼かまわず最高に職質したい気分なんだよな」
帝都日報編集長「ではお答えしましょう」
帝都日報編集長「帝都警視庁で張ってる連中からのお知らせです」
帝都日報編集長「御堂組の身柄が軍部に移送されたようです」
伝八「な、なんだと?」
帝都日報編集長「おそらくは憲兵隊。刑事共の甘っちょろいやり方に業を煮やしたか」
帝都日報編集長「騒乱予備群の一斉取り調べ、ですかな?」
帝都日報編集長「いよいよ始まったようで。天粕戒厳司令による思想統制が」
伝八「嬉しそうに言うんじゃねえよ。新聞は言論の守護者だろ」
帝都日報編集長「そして調整者でもある。というのが、私のモットーです」
帝都日報編集長「臣民は政治とも繋がりの深い我が帝都新聞のみを信じればよい」
帝都日報編集長「思想統制万歳!富国強兵万歳だ!」
最上「恐らくは猪苗代君も・・・」
伝八「ここまでだ。後はお互い、せいぜいシラを切り通そうぜ」
最上「計画が始まる・・・」
〇巨大なビル
最上「何もかもを管理するユートピア―ド計画」
最上「そして、そうせざるを得ないと臣民に喧伝する為の『演出された叛乱』」
〇古い競技場
『蓬莱事変』
義孝「・・・桜子」
桜子「・・・」
『姫さん!』
ヒナ「言ってやれよ!そいつは私の親父だって!」
ヒナ「男爵を助けられるのはもうアンタしかいねえんだ!」
義孝「ヒナ・・・」
ヒナ「うるせえ!気安く呼ぶんじゃねえ!」
ヒナ「お前はバロンなんかじゃねえ!オイラ達の自由を踏みにじる憲兵司令来栖川男爵だ!」
ヒナ「とっとと蓬莱街から出ていきやがれ!」
義孝「・・・」
ヒナ「とっとと軍隊に戻れ・・・」
桜子「父ではありません」
桜子「彼はバロン吉宗」
桜子「自由の擁護者」
桜子「我らの同胞」
桜子「私の志を最も理解する人」
ヒナ「てめえの親父、盾にするつもりか?」
ヒナ「それとも人柱か!ふざけるな!」
ヒナ「処刑されちまうぞ!」
ヒナ「今度こそ殺されちまうぞ!」
桜子「父は既に死んでいます!」
桜子「あなたはバロン吉宗」
桜子「私と同じ道を征く者」
桜子「私を理解したければ命を賭けなさい」
桜子「この私の苦しみを!この自由への渇望を!理解したければ!」
ヒナ「なんだよそれ・・・」
ヒナ「間違ってる・・・」
ヒナ「今、はっきり分かった」
ヒナ「アンタもトラもデンキも、みんな間違ってる・・・」
ヒナ「認めねえ・・・」
ヒナ「お前らの自由なんか絶対認めねえぞ!」
義孝「ヒナ・・・」
ヒナ「生き延びろよ男爵サン・・・」
『バロン吉宗は我らが自由の人柱!』
根室「臣民よ!貧民よ!いまこそ自由の為に蜂起せよ!」
根室「軍部を打倒し新時代を作れ!」
根室「革命だ!」
軍人「誰だ!今、叫んだ者は!」
義孝「鼠だ」
軍人「なに?」
義孝「禍を撒き散らす鼠だ」
根室「ククッ・・・」
義孝「桜子・・・」
義孝「この後においてようやく同志と呼んでくれるか」
義孝「ならば同志として言おう」
義孝「危ない真似だけはしないでくれ」
桜子「・・・」
義孝「心配なんだ・・・お前が」
桜子「・・・」
桜子「おとうさ・・・」
???「革命万歳!」
「革命万歳!革命万歳!革命万歳!」
『革命万歳!革命万歳!革命万歳!』
義孝「桜子・・・」
義孝「どうか・・・無事で・・・」
『革命万歳!革命万歳!革命万歳!』
〇祭祀場
天粕「そうだ・・・それでいい」
天粕「道化以外は放っておけ」
戒厳警備兵「最上少尉もですか」
天粕「手駒は全部奪った、もう何も出来ん」
戒厳警備兵「畏まりました」
「随分と時間がかかってしまったね」
天粕「当然です。軍隊と革命家の両方を手玉に、とらなけばならなかったのですから」
天粕「酷な難題を突き付けられたものだ」
実朝「君のアイディアじゃないか。未来の独裁者くん」
天粕「全ては国家の為」
天粕「この国を世界最強へと導く為」
天粕「その為ならファシズムでもデモクラシーでも何でも利用する」
実朝「商人もかい?」
天粕「当然」
天粕「金がなければ何も為しえませんから」
実朝「翻って言えば金があれば何でも出来る」
実朝「何でも手に入る」
実朝「自由すら、意のままに」
実朝「人生すら、意のままに」
天粕「さすが最後のMAD・AGE」
天粕「狂っておられる」
実朝「ははっ。MAD・AGEか」
実朝「あんなものは遺物だ」
実朝「みんな死んだ・・・みんな・・・」
実朝「俺意外はな・・・」
実朝「フフフ・・・」
実朝「ヒャハハハハハーーーーーーーーーッ!」
つづく