クリスマスとトナカイと妹と(脚本)
〇明るいリビング
樹「今年のクリスマスプレゼント、 何が欲しい?」
由岐「あのさあ、子どもじゃないんだから プレゼントとかいらないって」
由岐「前から言ってるじゃん!」
樹「・・・・・・けど、そんなんじゃあ 願いを聞くサンタも困るぞ」
由岐「もう、何言ってるの」
由岐「欲しいプレゼントが貰えなかった時に、 矛先を逸らす為にいるのがサンタだって 分かってるんだから」
樹「捻くれた見方しすぎだろ・・・・・・。 サンタが聞いたら泣くわ」
由岐「だからサンタなんていないってば」
由岐「別にプレゼントなんて欲しくないから!」
妹の由岐がクリスマスに何かをねだることは滅多にない。
両親が共働きで滅多に家にいないため、
プレゼントは僕が用意するのが通例だ。
コッソリと枕元に置いているがその正体には察しがついているのだろう。
その影響もあってかサンタなんて微塵も信じていない妹だが、それでも毎年俺の渡すプレゼントを何やかんや受け取ってくれている。
プレゼントを欲しがらないのも、
俺に気を使ってのことなのだろう。
俺の選んだプレゼントを拒まれていないのなら、それはそれでいいんだろうか。
〇男の子の一人部屋
トナカイ「いいわけねーだろ」
トナカイ「あの位の歳なら欲しいもんなんて いくらでもあるって」
トナカイ「それが高価なもんなのか、 手に入り辛いものなのかは知らんけど」
トナカイ「それを察してプレゼントするのが イケてる兄貴じゃねーの」
樹「はい・・・・・・」
自室でゴロゴロしていた鹿に説教される。
意味不明な状況だが、こいつが俺の部屋に現れてから一ヶ月は過ぎた。
由岐には内緒にしてるけど・・・・・・
鹿に正座させられている現状は
心にクるものがある。
トナカイ「鹿じゃなくてトナカイな」
樹「はい・・・・・・」
トナカイ「サンタクロースの相棒としては? 健気な女の子の夢を壊したくない訳よ」
トナカイ「サンタを微塵も信じてないあの子に 夢を届けたい訳よ」
トナカイ「お分かり?」
ウザい・・・・・・。
現れた時から自分をサンタの相棒だと
言い張ってはばらないこのトナカイ。
サンタが実在するような口ぶりで
クリスマスの武勇伝を暇があれば語っているが真偽は不明だ。
喋っている時点で普通のトナカイじゃないんだろうけど・・・・・・。
樹「そうは言ってもな。 由岐は結構頑固だぞ」
樹「俺がどれだけ聞いても、 答えは変わらないし、蹴られるし」
樹「今更聞きだせるとは思えないんだけど」
トナカイ「そこはオレの不思議トナカイパワーで なんとかしてやるっての」
トナカイ「本音引き出す魔法的なものが使えるからな。サンタの嗜みとして」
由岐の本音・・・・・・。
気にならないわけじゃないけど。
こいつに頼らないといけないのが癪だ。
トナカイ「ほら!もう一回聞いてこい!」
トナカイ「お前がリビングに行くまでに本音を喋りやすい魔法を掛けといてやるから!」
〇明るいリビング
居間に戻り、ソファでくつろいでいる由岐の隣に座る。
素直に答えてくれるとは思えないが、ノコノコ帰ったらトナカイにどつかれる。
それに比べれば妹に蹴り飛ばされるくらい可愛いものだ。
由岐「・・・・・・何か用?」
樹「その、なんだ」
樹「さっきはああ言ってたけど。 本音はどうなのかと思って」
いつもならここで罵倒と蹴りがくるが・・・・・・。
由岐「・・・・・・そんなに気なるの?」
樹「え?まあ、そうだな」
由岐「・・・・・・」
由岐「じゃあ話してあげる」
あのトナカイの魔法、効き目があったのか!?
由岐「前から思ってたんだけど────」
樹「ああ」
由岐「────お兄ちゃんがしつこ過ぎてちょっと鬱陶しい」
樹「・・・・・・ええ!?」
由岐「プレゼントもいいって言ってるのに毎回聞いてくるし!」
由岐「靴下裏返りのまま洗濯機に入れるし、読み終わった本置きっぱなしだし、酢豚にパイナップル入ってても平気だし!」
樹「こういう場面っていい感じの本音で感動!みたいになるシーンの筈じゃ・・・・・・」
樹「半分以上ただの俺への不満だし・・・・・・」
由岐「そのくせクリスマスとかのイベントにはしっかり準備して、私が寂しくないようにしてるし!」
樹「お、おう」
由岐「・・・・・・だから」
由岐「私は一緒にクリスマスができれば割と満足というか・・・・・・」
由岐「だからホントに欲しいものとか今はないの」
由岐「拒否してるのに私へのプレゼントどうしようかウンウン悩んでるのを見るのも好きだし」
樹「最後の本音はともかく・・・・・・」
樹「俺の部屋のトナカイは欲しいものなんていくらでもあるって・・・・・・」
由岐「は?何言ってんの?」
あの鹿野郎適当なこと言いやがって。
樹「じゃあ今年のクリスマスは・・・・・・」
由岐「いつも通りでいいよ」
由岐「というかそれがいい」
樹「そうか!」
由岐「でも今年はあれが食べたいかも、 七面鳥!」
樹「結構ハードル高いな・・・・・・」
〇空
トナカイ(本当に欲のない妹だったとは・・・・・・)
トナカイ(文句言われても面倒だし、しばらく外に出てるか)
トナカイ「昔の彼女がそう言ってたんだけどなぁ」
トナカイ「他人の財布勝手に使うような女の言葉を参考にしたのが間違いだったか・・・・・・」
トナカイ「あの兄妹には、本物のサンタからのプレゼントを渡してもいいかもな」
トナカイ「そうしたら感動してオレへの貢ぎ物をたっぷりくれるかも・・・・・・」
トナカイ「クリスマスが楽しみだなぁ!」
プレゼントする側、される側との対比だとこんな感じなのでしょうか(笑)楽しいストーリーで最後まで一気に読ませて頂きました。
説教するトナカイのラストの本音と、妹の本音の対比が面白かったです。
兄妹は素敵なクリスマスを過ごしたのでしょうね。
サンタの使いのトナカイが部屋にやってくるなんて羨ましい!しかも尻に敷かれている状況が面白いです。
欲を持たずいつも通りで充分という人たちのもとに本物のサンタはやってくるのですね!