読切(脚本)
〇怪しい部屋
オレ「よし、今日もやるぞ・・・」
オレ「えっと、ターゲットは中村藤子、78歳」
オレ「今回もチョロそうだなぁ よし!準備完了!やりますかっ」
プルルルル・・・
プルルルル・・・
ガチャ
オレ「おっ、もしもし?・・・オレだよオレ、元気してる?」
???「もしもし、誰ですか?」
オレ「え、子ども?」
オレ「おー、こんばんわ!あのおばあちゃんいる?ちょっと変わってくれるかな?」
???「え、もしかして・・・」
オレ「ん?」
???「サンタさん?」
オレ「は!?」
オレ「あ、そう言えば今日クリスマスか・・・日付とか気にしなさすぎて忘れてたなぁ」
オレ「少し面倒くさいことになりそうだ・・・」
オレ「あの・・・とりあえずおばあちゃんに代わってもらえるかな?」
???「ねぇサンタさんなの?」
オレ「やっぱ面倒くさい・・・少し遊んでやるか」
声色を変える
オレ「そうだよ!実はサンタクロースなんだ!」
???「ガチで言ってる?」
オレ「なんでちょっと疑う姿勢入ってるんだよ、素直に喜べよ・・・」
オレ「そうだよ!君がいい子にしてるから電話をしてあげたんだ!」
???「今どこ住んでんの?」
オレ「やっぱムカつくな!この子!」
オレ「私は今、フィンランドにいるんだ!」
???「電話代やばそうだね!」
オレ「ムカつくな、本当に!このガキ変にませてやがる・・・」
???「あっ、サンタさんってなんでも願いを叶えてくれるんでしょ?」
オレ「願い?」
オレ「なんかまた面倒くさいこと言いそうだな、こいつ」
???「うん!うちにサンタさんまだ来たことないでしょ?この際になんでも頼もうと思って!」
オレ「サンタが来たことないってこいつの父親は何してんだ?」
オレ「あと、またちょっと上からだなこいつ」
???「ねえ、願いかなえてくれるんでしょ!ねえ〜ママがサンタさんは優しいって言ってたよ!」
オレ「こんなわがままなやつ、かなり甘やかされてんじゃないのか・・・」
オレ「ちなみに、その願いってなんなのか教えてくれる?」
???「・・・」
???「パパと話がしたい・・・」
オレ「え?」
???「パパと一回話がしてみたいの」
オレ「・・・」
オレ「それは、どういうこと?」
???「僕が生まれる前に死んじゃったから・・・ 一回でいいから話してみたくて・・・」
オレ「そう、だったんだね・・・」
???「うん・・・」
???「ごめんねサンタさん、ダメだよね? やっぱお願い変えていい?」
オレ「・・・」
オレ「会え、る・・・」
???「え?」
オレ「会える・・・話せるよ、君、名前はなんだっけ?」
???「蓮、だけど」
オレ「蓮くん、ちょっと待っててね」
オレ「・・・」
蓮「・・・」
声色を変える
オレ「・・・もしもし、蓮か?・・・オレだよ、オレ、お父さんだよ・・・」
蓮「パパ!?パパなの?」
オレ「そうだよ・・・ちょっと今サンタクロースさんから連絡があって、天国から電話してるんだ」
蓮「これがパパの声か・・・なんかパパの声ちょっとサンタに似てるね!」
オレ「ま、まあ、パパとサンタは基本的に似てるものだからね!・・・」
蓮「何それパパ・・・」
蓮「でも、僕7歳になったんだよ!もう小学校入ったんだ!友達もいっぱい出来たよ!」
オレ「おう、そうかそうか、そんな大きくなったのか・・・偉いな・・・」
蓮「パパは?天国では何してるの?」
オレ「パパ?・・・空から蓮をいつも見守ってるよ、蓮が育ってくれればそれだけで嬉しいからね・・・」
蓮「じゃあ、僕もパパみたいにちゃんとした大人にならなきゃだ!」
オレ「ちゃんとした、大人・・・」
オレ「そうだな!いつも見てるからな!真面目に生きるんだぞ!」
ガチャ
蓮「あ、ちょうど今ママとおばあちゃんが帰ってきた!」
オレ「え?」
蓮「ケーキ買いに行ってたんだ!ママとも話すよね?」
オレ「い、いや、それは出来ないな、もう電話を切らなきゃいけない時間だ・・・」
蓮「え、なんで?もっと話したいよ!パパ!」
オレ「最後に!・・・ちゃんとママのこと手伝ってあげるんだぞ!ひとりで大変だろうから」
オレ「あ、あとこの話は二人だけの秘密だからな・・・」
蓮「わかったよ、けど、待ってよパパ・・・パパ!」
ガチャ
プープープー
オレ「・・・」
オレ「なんでこんなことやってんだろ・・・」
オレ「あんな父親みたいなセリフはじめて言った」
オレ「まあ、俺はあいつの父親とは似ても似つかないんだろうけど・・・」
オレ「でも、でも、少しはあいつのためになるようなこと言えた」
オレ「わけ、ないか」
〇おしゃれなリビングダイニング
雪「蓮、今日どうしたの?」
蓮「え?何が?」
雪「そんなお皿とか片付けちゃって、ママがやるから大丈夫だよ」
蓮「・・・約束したんだ」
雪「え、なに、なんて言ったの?」
蓮「・・・・・・」
蓮「秘密!」
悪いことをするつもりで電話をかけたら、結果的にいいことをしてしまいましたね。笑
でも、こんな温かいお話好きです。
子どもの気持ちを考えた優しい人ですね。
お年寄りを騙すため掛けた電話に子供が出てしまい詐欺の仕事ができませんでした。子供の純真な心が詐欺師の良心を呼び起こしたのかもしれませんね。
さらりと出てきましたが、「パパとサンタは基本的に似てるものだからね」というフレーズに感動しました。大人の私もそう思います。そう思える子どもにもまだそれを知らない子どもにも、そうは思えない子どもにも、毎年幸せなクリスマスが来てほしいと思いました。奇跡が起こったのは、言葉の扱いのうまさを良いことに使えた詐欺師の方かもしれないと感じます。蓮くんが名乗ってから姿が見える演出が良かったです。