陣地取りゲーム

藤崎 りりす

陣地取りゲーム(脚本)

陣地取りゲーム

藤崎 りりす

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〇渋谷の雑踏
  僕は渋谷に憧れて、渋谷で挫折した・・・はずだった
  僕は渋谷に憧れて
  大学受験で東京にキャンパスがある大学に合格したことをきっかけに、上京した
  憧れた理由というのが、渋谷を舞台にしたゲームにハマっていたから、という理由だった
  われながらしょうもない理由だと思うが、事実なんだから仕方がない
  さすがに家賃の関係で、渋谷に住むことはできなかった(家賃が高すぎた・・・)
  渋谷に初めて行ったときは、ゲームの中の景色が現実なのだと知って、大興奮した
  大学生活も、それなりに充実していた
  だが、就職活動は言うならば陣地取りゲームだった
  僕はその陣地取りに負けた。ようは、就活に失敗したのだ
  かといって、今さら地元に戻る気はさらさらなかった

〇オフィスのフロア
  せめて憧れの渋谷の近くにいたかったから
  僕は渋谷でバイトをすることにした
  でも、ここでも華やかなバイトをすることはできなかった
  それどころか、悪質な婚活アプリの、いわゆるサクラのバイトしか見つからなかった
  そのバイト先でも、陣地取りかのように、成績争いがあった
  ようは、いかにたくさんの人を騙せたか、という結果だ
主人公「・・・あのゲームの主人公は、当たり前だけど、こんなバイトなんてしていなかったよな」
  髪色も服装も自由だからと、髪は似合いもしないのに金髪にして
  そのくせ、お金がないので服にはお金をかけられなかった
主人公「このまま俺の人生終わるのかな・・・」
  やけになりながらバイトを続けて半年間。思いもよらない出会いがあった

〇コンビニのレジ
コンビニ店員「いらっしゃいませ~」
  季節は秋になり
  ある日、バイト先の近くにあるコンビニで
  新しい店員さんが入っていたのだが
  ぽっちゃりで、お世辞にも美人とは言えないタイプだった
コンビニ店員「五十円とレシートのお返しになります! ありがとうございました!!」
  でも、彼女の接客の態度が素敵で
  僕はその子のことが気になって、ちょくちょくコンビニに行くようになった
コンビニ店員「いつもご来店、誠にありがとうございます」
主人公(覚えてくれてるんだ・・・)
  それから、その子がシフトに入っているときは、少しだけ会話するようになった
  ところが、ある日のこと
コンビニ店員「あの・・・実は、言わないといけないことがあって」
コンビニ店員「私、このバイトを辞めることにしたんです」
主人公「そうなんだ、もう会えなくなるのは残念だけど」
主人公「元気でいてね」
コンビニ店員「ありがとうございます!! あっ、いえ、それで・・・」
コンビニ店員「もしよかったら・・・なんですけど、私と連絡先、交換してくれませんか?」
主人公「えっ!?」
コンビニ店員「嫌・・・ですよね、こんなデブとなんて」
主人公「嫌なわけないよ!! ぜひ交換しよう」

〇カウンター席
主人公「あのときは、お互いがお互いを東京出身の人間だと思ってたんだよなぁ」
元・コンビニ店員「あなた、垢抜けてたから」
元・コンビニ店員「てっきり、生まれも育ちも東京かなって・・・」
主人公「僕も、君の接客態度が堂々としてたから」
主人公「東京は長いのかと思ってたら、そんなこともなかったんだよね」
元・コンビニ店員「うん、それにまさか、同じゲームに憧れて渋谷でバイトしてたなんて」
元・コンビニ店員「ほんとに奇遇だったよ」
主人公「スクランブル交差点の渡り方にも、ようやく慣れたよね」
  季節は春に近い冬
  あれから、コンビニ店員さん(元だけど)・・・とは、仲良くなり
  こうして渋谷のお互いのお気に入りのカフェで、よく談笑している
  くだらない話をして、二人で笑い合うこの時間が
  僕にとっては、何よりも大切な時間だ
元・コンビニ店員「そういえば、バイトを辞めてゲームの専門学校に通うようになった、って聞いたけど」
元・コンビニ店員「授業はどんな感じなの?」
主人公「それがさ、“陣地取り”っていう言葉が、僕は苦手って前に言ったと思うけど」
主人公「最初に課題で作ったゲームが“陣地取りゲーム”だったのには」
主人公「苦笑いするしかなかったな」
元・コンビニ店員「ある意味、私たちが出会うきっかけになった」
元・コンビニ店員「あのゲーム以上の傑作を作るって言ってくれたんだから、今は頑張りどころだね」
主人公「そうだね、頑張るよ」
元・コンビニ店員「あの、それで・・・いきなりなんなんだけど」
主人公「ん? 何?」
元・コンビニ店員「えっとね」
元・コンビニ店員「あなたが、陣地取りっていう言葉が苦手なのを知って、あえて言います」
元・コンビニ店員「私の心の陣地にも、もっともっと踏み込んできてくれないかな」
主人公「えっ、それって・・・」
  僕の渋谷での人生は、改めてはじまりそうだ──

コメント

  • 彼がコンビニの店員さんと仲良くなって良かった。なかなかほのぼのと会話が進んでいましたが、彼女の積極的なアプローチには驚きました。

  • 出会いって面白いですよね。
    ひょんなところから出会って色々な物語に発展して。
    この感じ面白いと思いました。

  • ゲームから始まる素敵な出会いの作品で心がほっこりしました。元コンビニ店員さんの「心の陣地にもっと踏み込んで」という言葉が素敵だなと思いました。

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