〇警察署の食堂
亀井綾子「横、いいですか？」
佐川アリス「ああ」
佐川アリス「・・・なんか、すまないな」
亀井綾子「なんでアリスさんが謝るんですか？」
佐川アリス「怒りに任せて殴り飛ばしちまった」
亀井綾子「あんなの・・・あいつが殴られて当然のことをしたんだから」
佐川アリス「昔からいつもなんだ。 感情がコントロールできないことがある」
亀井綾子「アリスさんが殴ってなかったら、私が殴ってました」
佐川アリス「・・・・・・」
亀井綾子「あいつ、しばらく謹慎みたいですし、反省してくれると思います」
佐川アリス「・・・だといいがな」

〇レトロ喫茶
犬伏徹「簡単にこちらを売っておいて、まさか呼び出されるとは思いませんでした」
　　犬伏の前に現れた三浦は、体中が包帯でぐるぐる巻きになっていた。
三浦「あの女は人間じゃない。 一緒にいるあんたの気が知れない」
犬伏徹「用件はなんですか？」
三浦「興味ないのか？ あいつが俺に何をしたのか」
犬伏徹「・・・・・・」
三浦「俺の肩関節を外して、馬乗りになって殴り続けたんだ」
三浦「あげく俺の目を潰そうとしやがった。 なんのためらいもなくな」
犬伏徹「津田沼に殴りかかったときと同じか・・・」
三浦「俺は命の危険を感じて、すぐにあんたのことをゲロっちまった」
三浦「申し訳ないと思っている」
犬伏徹「もういいです。失礼します」
三浦「待て。俺の二つ名は蛇だと言ったろう。 やられたままでは終わらない」
犬伏徹「この封筒は？」
三浦「あの女を徹底的に調べさせてもらった」
三浦「これはあんたを売っちまったせめてものお詫びだ、どうとでも使ってくれ」
犬伏徹「・・・・・・」

〇車内
　　犬伏は険しい顔で運転しつつ、先ほど三浦が言った言葉が思いだす。
　　あの女がいた児童養護施設には事件当時の関係者が今でもいてな──
犬伏徹「・・・また山梨か」

〇児童養護施設

〇応接室
鍵原「遠くまでご苦労様です」
犬伏徹「単刀直入に失礼します。 電話でもお伝えした佐川アリスさんの件です」
鍵原「ええ、もう二十年前のことですが、よく覚えていますよ」
犬伏徹「父親の死後、身寄りのないアリスさんをこちらで引き取ったんですよね？」
鍵原「彼女が８歳の頃でした。 私は今でも時々、夢に見るんですよ」
犬伏徹「・・・？」
鍵原「あんなに痛ましい事件は、後にも先にもあれだけですから」

〇児童養護施設
　　聡明な子だと思いました
　　口数は少ないけれど、大人を良く見て、観察している
　　警戒心の強さは、そのままあの子の芯の強さだと思いました

〇二人部屋
美琴「聞いたで。あんた親父死んだんやって」
　　幼いアリスに声をかけたのは、彼女と同室になった少女、美琴（みこと）である。
佐川アリス「・・・・・・」
美琴「まあ、たいていの親なんてろくなもんやないしな」
美琴「クズばっかりや！」
佐川アリス「・・・・・・」
美琴「って聞いとんのか！」
佐川アリス「うるさい！」
美琴「なんや生意気な！」
佐川アリス「！」
美琴「・・・ッ！」
美琴「親父にやられたんや。クソ親父にな」
佐川アリス「お父さんに？」
美琴「あんたの親父はどうやった？」
佐川アリス「私？ 私のお父さんは・・・」

〇ダイニング（食事なし）
佐川浩司「ありがとな！ よーし、高い高いしちゃうぞー！」

〇二人部屋
佐川アリス「私のお父さんは、世界で一番・・・」
　　アリスはそう言いかけたところで、こらえきれずに涙を流してしまう。
　　美琴はアリスを優しく抱きしめた。
美琴「泣けや泣けや。 たくさん泣いたらスッキリするで」
佐川アリス「うわああああーーーん」

〇黒
　　美琴ちゃんはアリスさんの二つ上で、よくアリスさんの面倒を見てくれました

〇森の中
美琴「ほら、アリス！ 先行くで！」